【 読書 ・ 100分de名著 】ボーヴォワールは、当時の 老年学 の最先端の研究成果を取り込みつつ、生物学、民族学、人類学、社会学、経済学、哲学、文学、心理学など、実に幅広い分野の書物やデータを渉猟しています。
第1回 6月28日放送/ 6月30日再放送
タイトル: 老いは不意打ちである
【テキストの項目】
(1)
老いとは何か
(2)
当事者として書く
(3)
「ボーヴォワールって、もう老女なのね!」
(4)
心は体に追いつかない
(5)
他者差別、自己差別
(6)
老いと自己否定のイメージ
(7)
男の老いと女の老い
(8)
女の老いには利点がある?
(9)
まずは現実を見よ
【展開】
(1)
老いとは何か
向老期は大変長くなりました。青年期よりはるかに長く、実は青年期と同じようにアイデンティティの危機は起きています。それだけでなく、子どもから大人への移行は一般に歓迎されるものであるのに対して、大人から老人への移行は歓迎したくない変化です。
この深い危機とはどのようなもので、いかなる理由から引き起こされるのか。そうした向老期の問題を、個人の問題と考えず、わたしたちの文明の問題と捉えて真正面から向き合ったのが、ボーヴォワールの『老い』という著作でした。
(2)
当事者として書く
ボーヴォワールは『第二の性』で二十世紀後半のフェミニズムに大きな影響を与えました。『第二の性』を貫いているのは当事者性です。そのボーヴォワールが60歳を超え、今度は老いてゆく当事者として書いたのが『老い』です。
『老い』は邦訳で二段組の上下巻、総ページ数は七百超という大著です。全体は二部構成で、第一部では、老いというものが客体としてどう捉えられてきたかが記述され、第二部では、老いが主体によってどのように経験されてきたかが語られます。
(3)
「ボーヴォワールって、もう老女なのね!」
ボーヴォワールはゲーテの言葉を引いています。「老齢はわれわれを不意に捉える」。例えば、ボーヴォワールは50歳のとき、こんなアメリカ人女子学生の発言を知って、愕然としたと言います。「じゃ、ボーヴォワ‐ルって、もう老女(ババア)なのね!」。
老いはたいてい「他者の経験」としてやってくる。その他者とは、自分よりも先に自分の老いを認識する「周囲の人びと」であり、それを受け入れられない自分にとっての「内なる他者」なのです。同窓会で久しぶりに会った「じいさん」は、自分と同い年なのです。
(4)
心は体に追いつかない
発達の四つの次元は、生理的(肉体の老い)、社会的(例えば定年)、文化的(例えばおじいちゃんになる)、心理的。生理的な老いから始まり、もっとも遅れるのが心理的老いです。
哲学者の吉本隆明は、老いについて「生理が強いる成熟」と語ったことがあります。実際には何ひとつ成熟していないのに、肉体的な衰えが自分に強いる変化があります。
心理的な老いは他の次元の老いに追いつかない。そのため自分に対する認識にズレが生じる。そこに、自己同一性の喪失であるアイデンティティの危機が起きるのです。
以下は、後に書きます。
(5)
他者差別、自己差別
(6)
老いと自己否定のイメージ
(7)
男の老いと女の老い
(8)
女の老いには利点がある?
(9)
まずは現実を見よ
<出典>
上野千鶴子(2021/7)、ボーヴォワール『老い』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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