【 読書 ・ 100分de名著 】ベイティーは、文学が病的で矛盾に満ちていると説得し(というかモンターグを混乱させ)、本は読むより焼く方がいいと納得させようとします。一方で「おれも身に憶えがあるから、よくわかる」と理解を示すふりもする。
第4回 21日放送/ 23日再放送
タイトル: 「記憶」と「記録」が人間を支える
【テキストの項目】
(1)
「ドーヴァー海峡」朗読事件
(2)
文学の両義的な情動喚起力
(3)
ベイティーの反読書論再び
(4)
モンターグ、本と家とベイティーを焼く
(5)
ベイティーとは何者か
(6)
追跡のエンターテイメント化
(7)
モンターグの回心
(8)
追跡劇の結末
(9)
記憶の中の図書館
(10)
鏡工場を再生する?
(11)
黙示録的エンディング
(12)
『華氏451度』をどう読むべきか
【展開】
(1)
「ドーヴァー海峡」朗読事件
近所のご夫人がた二人がやってきて、ラウンジでミルドレッドとホームパーティーを始めました。 … モンターグは三人の空虚な会話に完全に頭にきてしまいます。イライラを爆発させた彼は、これを聞いて自分の不幸の理由を考えろ―
とばかりに、詩を朗読してご夫人がたに聞かせようとします。「ドーヴァー海岸」という詩です。
信仰が世界を見捨て、われわれが「闇深まる戦野」のように、喜び・愛・光・確かさ・安寧・救済のない世界に生きている以上、われわれに残っているのは人間的紐帯だけだ。だから私たちは、互いに結びつかねばならない、互いに誠実であらねばならない。つまり「ドーヴァー海岸」は、他人とその人生、その生と死に無関心であってはいけないと述べている。
(2)
文学の両義的な情動喚起力
モンターグの朗読を聞き、ミセス・フェルプスは泣き出してしまいます。モンターグは自分が泣かせておきながら、その姿を見て戸惑う。彼は文学がもつ情動喚起力を初めて目の当たりにしました。 … ミルドレッドとミセス・ボウルズは、あなたは大変残酷なことをしたと言ってモンターグを非難します。
啓蒙という行為がもつ構造的な要因もあります。それなりに愉しく暮らしている人に「あなたは、本当は不幸なのだ」と言って、相手が見ないようにしている事実を突き付けるという暴力性です。目覚めることを強要する暴力と言ってもよいでしょう。要するに余計なお世話。モンターグが感じた罪悪感は、すべての啓蒙家に共通する罪悪感でもあります。
(3)
ベイティーの反読書論再び
モンターグはいよいよベイティーと対峙します。
… ベイティーは、お前が大事に思っている本がお前を破壊したのだ、本は裏切り者だとあおり立てる。これに対し、フェーバーはモンターグが正気を保てるように、通信機を通じて声をかけ続けます。 … モンターグには同時に二つの声が聞こえています。彼の魂をファイアマンの方に奪い取ろうとする悪魔の声と、それを聞いてはいけないという悪魔祓い師(エクソシスト)の声。緊迫した場面です。
ここで署内にベルが鳴り響き、モンターグたちは出動します。通報を受けて到着したのは、なんと、モンターグ自身の家でした(通報は、ミルドレッドによるものでした)。
(4)
モンターグ、本と家とベイティーを焼く
自分の家を燃やしにきたモンターグ。本と家具を焼いているうちに、モンターグに「燃やす喜び」が戻ってきます。空虚な結婚生活、その象徴ともいえるラウンジのテレビを燃やすのは、ある種の復讐だし、「浄化」でもあるのでしょう。
…ベイティーは通信機の発信元を突き止めて、フェーバーの家にも行かせてもらうと言います。「だめだ!」と叫び、モンターグは手にしていた火炎放射器をベイティーに向けます。ベイティーはシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』を引用し、やれるものならやってみろとなおもモンターグを挑発します。その挑発に乗った形でモンターグは引き金を引き、ベイティーを焼き殺してしまいました。
以後は、後に書きます。
(5)
ベイティーとは何者か
(6)
追跡のエンターテイメント化
(7)
モンターグの回心
(8)
追跡劇の結末
(9)
記憶の中の図書館
(10)
鏡工場を再生する?
(11)
黙示録的エンディング
(12)
『華氏451度』をどう読むべきか
<出典>
戸田山和久(2021/6)、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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