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2021年6月20日日曜日

(2370) レイ・ブラッドベリ『華氏451度』(4-3) / 100分de名著

 【 読書 ・ 100de名著 】読書礼賛小説ではない。大事なのは本をどのように使うかということ。本より大切なのは、記憶し伝えること(本はその手段)と、それに基づく反省的思考です。この二つが失われると社会は愚者のパラダイスになります。


【 読書 ・ 100de名著 】

 

第4回  21日放送/ 23日再放送

  タイトル: 「記憶」と「記録」が人間を支える

 

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50

再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55

 及び        午後 00:00~00:25

 

 

【テキストの項目】

(1) 「ドーヴァー海峡」朗読事件

(2)  文学の両義的な情動喚起力

(3)  ベイティーの反読書論再び

(4)  モンターグ、本と家とベイティーを焼く

(5)  ベイティーとは何者か

(6)  追跡のエンターテイメント化

(7)  モンターグの回心

(8)  追跡劇の結末

 

(9)  記憶の中の図書館

(10)      鏡工場を再生する?

(11)      黙示録的エンディング

(12)     『華氏451度』をどう読むべきか

 

【展開】

(1) 「ドーヴァー海峡」朗読事件

(2)  文学の両義的な情動喚起力

(3)  ベイティーの反読書論再び

(4)  モンターグ、本と家とベイティーを焼く

(5)  ベイティーとは何者か

(6)  追跡のエンターテイメント化

(7)  モンターグの回心

(8)  追跡劇の結末

 以上は、既に書きました。

 

(9)  記憶の中の図書館

 グレンジャーたちは、それぞれが自分の選んだ本を丸暗記して、本の代わりとなり、人類の記憶を保存し伝えようとしていました。 … 映画版では、ひとびとは覚えた本を必死に暗唱して忘れないよう努めています。雪の降り始めた湖畔で、記憶した本を忘れまいとして暗唱する老若男女が行き交っているのが映画のラストシーンです。

 … これまでずっと作品に暗い影を投げかけていた戦争がついに始まります。

 そして戦争がはじまり、その瞬間に終わった。

 たった一文(原文ではわずか九語)。時の流れが加速した社会では戦争も加速していて、都市は一瞬のうちに壊滅しました。

 

(10)      鏡工場を再生する?

 グレンジャーが奇妙なことを言い出しました。「さあ、まずは鏡工場をつくって、来年は鏡だけを生産するぞ。そしてじっくりのぞきこむんだ」。

 なぜ印刷工場ではなく鏡工場なのか。でも、ここまでお読みいただいたみなさんには、この寓意の趣旨は明らかでしょう。ひとが鏡に映して見ようとするものは、まず第一に自分自身の顔ですね。つまり、鏡は反省的思考の象徴。グレンジャーは、人類が文化を再生するには、本を復活させる前に、まず自分自身の姿をありのままにとらえなければいけない、人類が己を映し出し省みるための鏡が必要だ、と言っているわけです。自己破壊を免れるためには、自己理解を深めなければならない。

 

(11)      黙示録的エンディング

 《川の左右に生命の樹ありて十二種の實を結び、その賓は月毎に生じ、その樹の葉は諸国の民を醫すなり》

 そうだ、これを昼まで大事にとっておこう。昼のために……街に着いたときのために。

 これが『華氏451度』の締めくくりです。本作品は真夜中の暗闇で始まり、朝の陽光の中で終わります。まさに洞窟の比喩を原型とする作品にふさわしいエンディングでしょう。

 最後の引用は『ヨハネの黙示録』の最終章からのものです。思い切り単純化していえば、『ヨハネの黙示録』は、神の怒りによって悪い者たちがすべてむごたらしい仕方で全減し、正しい者たちだけが生き残って(復活して)新しい町をつくる話、として読まれてきました。

 

(12)     『華氏451度』をどう読むべきか

 グレンジャーたちの目的は、やはりただ単に本を保存することではないことが明らかになりました。必要なのは、人類が自分の姿を映して反省するための「鏡」であり、本も鏡の一つなのです。重要なのは本そのものではなく、本を鏡として行われる反省的思考と、それに基づく行為です。そうした人間の主体的な行為こそが、焚書に対する最大の抵抗である。それがこの小説の一番大切でポジティブなメッセージだと私(=解説者)は思います。

 現代社会において知性への信頼を取り戻し、「みんなで賢くなって、不幸から抜け出そう」という《啓蒙》の営みをどのようにして再び立ち上げることができるのか。この問いこそが、本書に描かれた「失敗した啓蒙家たち」があなたに託したろうそくの炎なのです。

 

<出典>

戸田山和久(2021/6)、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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