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2016年8月13日土曜日

(599) 人間の悪が平和の条件である / カント『永遠平和のために』(3) (8月15日(月) 22:25- Eテレ 放送)


カントは、平和について、次のように述べている。

(1)   自然は、人間にそなわる自然な傾向を利用しながら、永遠平和を保証している
(2)   この保証は、たんなる夢想にすぎないものではない
(3)   この目的に向かって努力することが、われわれの義務となっている

 
===== 引用 はじめ  P.74

 カントは、第一追加条項の「永遠平和の保証について」の最後で、自然と私たちの理性との関係について、こう述べています。

 
自然はこのような方法で人間にそなわる自然な傾向を利用しながら、永遠平和を保証しているのである。もちろんこの保証は、永遠平和の将来を理論的に予言することのできるほどに十分なものではないが、実践的な観点からは十分なものであり、たんなる夢想にすぎないものではない。この目的に向かって努力することが、われわれの義務となっている。

===== 引用 おわり

 
「自然」という言葉が指し示すことは、

===== 引用 はじめ  P.65

… 「自然」といってもここでは、海や山、動植物などのことではなく、地球のあらゆるものを創りだして動かしている自然の摂理を指しています。ですので、そこには人間の本性 - すなわち、放っておけば欲望を追求する方向に向かっていく人間の自然的傾向も含まれています。この追加条項でカントが述べているのは、「そうした自然こそが、じつは私たちに永遠平和を保証してくれている」ということです。

===== 引用 おわり

 
 「人間の本性 - すなわち、放っておけば欲望を追求する方向に向かっていく人間の自然的傾向」として「利己心を満たそうとする」を取り上げ、次のように述べている。

===== 引用 はじめ  P.73P.74

 人間が利己心を満たそうとする際、人間には二つのベクトルが存在します。ひとつは暴力や収奪でそれを満たそうというベクトル、もう一つはそれを回避して、法や商業活動を介して非暴力的にそれを満たそうとするベクトルです。人間はどちらにも転びうる可能性を持ち、常に二つのベクトルの間でせめぎあっています。そうした人間の存在を改めて認識し、利己心のなかにある人間の自然的傾向を平和のために活用するには、なにをして、どんな社会をつくるべきなのか - それを考えることこそが、自然の中で理性が担うべき役割なのです。

===== 引用 おわり

 
「暴力や収奪でそれ(利己心)を満たそうというベクトル」よりも「それを回避して、法や商業活動を介して非暴力的にそれ(利己心)を満たそうとするベクトル」の方が、結局はお得である。「人間は得しようとする」という「自然」が働けば、後者が選択され、永久平和が実現する。

 
「平和連合」からなる世界では、国の中においても、国の間においても、この原理は働き得る。永久平和を実現するには、この原理の働く「国の中」と「国の間」を作ればよい。

 
自然の中で理性がその役割を担えば、可能となる。その役割とは、「そうした人間の存在を改めて認識し、利己心のなかにある人間の自然的傾向を平和のために活用するには、なにをして、どんな社会をつくるべきなのか - それを考える」ことである。

「もともと人間に備わった自然の傾向を知り、それをうまく利用するための社会の仕組みや制度を考えていくことが必要である」(P.73

 
 最後に、「国の中においても、国の間においても、この原理は働き得る」を例示する。


「国の中」において、この原理は働き得る

===== 引用 はじめ  P.70P.71

 … まず、もともとの自然状態では、すべての人間は利己的にふるまいます。やがて、そのままだと人びとは他者と衝突して自分の権利や利益が侵害されるので、なんらかの法・ルールをつくってそれを他者に守らせたいと考え始めます。このときは、各自、自分だけはそのルールに縛られたくないと心の中では思っていますが、最終的にはそのルールに自分も含めた全員がしたがっていきます。なぜならじつはそれが、自分にとっていちばんの得になるからです。要するに、自分の利益を最大化しようとすれば、人びとは法で支配された国家を形成する方向に向かうのです。これが自然の意図にほかなりません。

===== 引用 おわり

 
「国の間」において、この原理は働き得る。

===== 引用 はじめ  P.72

 たとえば、もし現在、中国とアメリカが戦争を始めたとしたら、どんなことが起こるでしょうか。アメリカで売られている商品の多くは中国でつくられているため、戦争が始まって輸入がストップすると、全米のスーパーマーケットやショッピングセンターから多くの商品が消えてしまいます。一方の中国も最大の輸出相手国を失うことになるので、大きな損失を被ることになります。戦争は、どちらの国にとっても利益をもたらしません。

===== 引用 おわり

 
出典:
萱野稔人(2016/8)、カント「永遠平和のために」、100de名著、NHKテキスト

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