8月の「100分de名著」は、カント『永遠平和のために』である。
タイトルを見た時に思ったのは「つきあえるだろうか?」であった。
でも、読んでみたら、結構、面白かった。
「食わず嫌い」は、自分の拡がりを抑えてしまう。
8月1日・8日・15日・22日 いずれも(月) 22:25- Eテレ 放送
読む前の私の疑問
1.カントを読めるのか?
2.「永遠平和」は、検討に値するテーマか?
3.哲学者が平和を語って、何の意味があるのか?
4.理想主義者にお付き合いして、どうする?
5.道徳主義者にお付き合いして、どうする?
6.220年経ったが、平和になっていないではないか。
読む前の私の疑問に対する、読んでみての私なりのコメント
1.カントを読めるのか?
→ 『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』は読みにくいが、『永遠平和のために』は、抽象的な問題ではなく現実の社会をテーマに書かれているので、他の著書と比べると比較的読みやすい。しかも、カント哲学の入門書としても読むことができる
2.「永遠平和」は、検討に値するテーマか?
→ 多くの平和条約は対処療法的なものであり、それ自体に紛争の種を宿していることが多い。そういう平和ではなく、持続的に平和を維持できるような理論的な仕組みを取り込んだ平和を、カントは「永遠平和」と呼んでおり、それは検討に値するテーマである
3.哲学者が平和を語って、何の意味があるのか?
→ 一時的な平和を実現する「対処療法的な平和」と、持続的平和を実現する仕組みを伴った「永遠平和」があって、両者とも必要である。前者を政治学が、後者を哲学が担うが、両者は個別のものではない
4.理想主義者にお付き合いして、どうする?
→ カントは理想主義者と思われがちであるが、実際は現実主義者である。「人間は邪悪な存在である」と考え、それを踏まえたうえで、永遠平和を実現するための仕組みを創ろうとしている
5.道徳主義者にお付き合いして、どうする?
→ カント哲学では道徳的な考え方を重視しているが、カントの『道徳』は世間でいうところの「道徳」と違う面がある。平和は道徳的な理想から生まれるのではなく、法が支配する社会の仕組みを一歩ずつ創りあげることで、はじめて実現可能となる。その仕組みづくりに『道徳』は重要な役割を果たす
6.220年経ったが、平和になっていないではないか。
→ 「国際連盟」も「国際連合」も「国際的な連合」の考え方をベースに作られたものではあるが、背景には「世界国家」の考えがあり、いまだ不十分である。「平和連合」の理念は次第に広がり、永遠の平和が実現される可能性を示すことができる
【各論】
1.
カントを読めるのか? → 『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』は読みにくいが、『永遠平和のために』は、抽象的な問題ではなく現実の社会をテーマに書かれているので、他の著書と比べると比較的読みやすい。しかも、カント哲学の入門書としても読むことができる
比較的読みやすい。
===== 引用 はじめ P.5 – P.6
カントの著書としては『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』が特に有名ですが、正直なところ、この三冊はあまりに抽象的で難解すぎて専門家でさえも手を焼くほどです。おそらほとんどの人が、いざ手にとって読もうとしても最初の数頁を読んだだけで断念してしまうでしょう。
このようにカントの著書には難解なものが多いのですが、今回名著として取り上げる『永遠平和のために』は、抽象的な問題ではなく現実の社会をテーマに書かれているので、他の著書と比べると比較的読みやすい内容となっています。
===== 引用 おわり
カント哲学の入門書としても読むことができる
===== 引用 はじめ P.7
…この本を読んでいくと、彼の考えた「理性」、とりわけ「実践理性」というものがどんなものかおのずとわかってきます。つまり、カント哲学の入門書としても読むことができるのです。
===== 引用 おわり
2.
「永遠平和」は、検討に値するテーマか? → 多くの平和条約は対処療法的なものであり、それ自体に紛争の種を宿していることが多い。そういう平和ではなく、持続的に平和を維持できるような理論的な仕組みを取り込んだ平和を、カントは「永遠平和」と呼んでおり、それは検討に値するテーマである
===== 引用 はじめ P.13 – P.14
… この条約(バーゼル平和条約)に対してカントは強い不信を抱いていました。なぜなら、この条約は戦争を永久に終わらせるようなものでなく、秘密条項も多く含む、単なる停戦条約のような内容だったからです。「平和のために」ではなく「永遠平和のために」というタイトルを付けたのも、こうした形だけの平和条約に対するカントの不信感の現れとみることができるのです。
===== 引用 おわり
紛争しているあるいは紛争が拡大する恐れのある当事国間で、紛争を終息に向かわせたりあるいは紛争の拡大を未然に防いだりするための「平和条約」が世の中には多いだろう。しかし、その場の対症療法であり、問題を先送りしたり、妥協の結果双方の不満を助長させたりして、将来の紛争の種になることもある。そういう平和ではなく、持続的に平和を維持できるような理論的な仕組みを取り込んだ平和を、カントは「永遠平和」と呼んでいる。そのような「永遠平和」は、検討に値するテーマだと思う。
3.
哲学者が平和を語って、何の意味があるのか? → 一時的な平和を実現する「対処療法的な平和」と、持続的平和を実現する仕組みを伴った「永遠平和」があって、両者とも必要である。前者を政治学が、後者を哲学が担うが、両者は個別のものではない
===== 引用 はじめ P.5
平和や戦争というと政治学の領域の問題ととらえられがちですが、哲学の分野でも戦争の問題は古くから論じられてきて、これまでも多くの哲学者が、「人間はなぜ戦争をするのか」「平和な世界を作るためには何をすべきか」について深く考えを巡らせてきました。
===== 引用 おわり
「対処療法的な平和」と「永遠平和」の両方の考察が必要であり、政治学と哲学がすみ分けている。同じ平和を取り扱うので無関係ではなく、「対処療法的な平和」でもたらされた今の平和を元に、それだけでは欠けている理論的な仕組みや永続性を「永遠平和」がカバーするものと考える。
4.
理想主義者にお付き合いして、どうする? → カントは理想主義者と思われがちであるが、実際は現実主義者である。「人間は邪悪な存在である」と考え、それを踏まえたうえで、永遠平和を実現するための仕組みを創ろうとしている
===== 引用 はじめ `P.18
… 多くの研究者がこの本を「道徳的な理想論を述べただけの平和説法である」と否定的にとらえてきました。
===== 引用 おわり
しかし、
===== 引用 はじめ P.27
カントがいかに現実主義者だったかは、彼の人間観にも現れています。その人間観はかなり悲観的です。人間はもともと道徳を備えているとも、道徳的に完成できるとも言っていません。「人間は邪悪な存在である」というのが、カントのそもそもの出発点です。
===== 引用 おわり
「永遠平和」といった、叶えられそうにない理想を掲げるので、カントは理想主義者のように思われがちであるが、実際には、現実主義者である。
===== 引用 はじめ P.62
第1回でもお話したように、「人間は邪悪な存在である」という人間関係をカントは持っていました。人間は好きなことをしていい状況におかれると、自分だけの利益を考えてよからぬ方向に向かうものである。だからこそ、そうならないために、立法と行政はしっかり分けるべきだ - とカントは考えたのです。
===== 引用 おわり
5.
道徳主義者にお付き合いして、どうする? → カント哲学では道徳的な考え方を重視しているが、カントの『道徳』は世間でいうところの「道徳」と違う面がある。平和は道徳的な理想から生まれるのではなく、法が支配する社会の仕組みを一歩ずつ創りあげることで、はじめて実現可能となる。その仕組みづくりに『道徳』は重要な役割を果たす。
===== 引用 はじめ P.9
カント哲学の大きな特徴としては、道徳的な考え方を重視し、道徳に厳密さ、厳格さを要求した点が挙げられます。
===== 引用 おわり
ここでいう『道徳』は、世間でいうところの「道徳」と違う面があり(共通するところもあるが)厳密に定義されている。
===== 引用 はじめ P.75
カントによれば、ただ義務から行為する意思だけが善である。では、義務からの行為とは? 何をなすべきかを絶対的に指示する命令に従うこと。この絶対的な命令こそが「道徳法則(道徳律)」である
===== 引用 おわり
平和は道徳的な理想から生まれるのではない
===== 引用 はじめ P.32
… 平和は道徳的な理想から生まれるのではなく、法が支配する社会の仕組みを一歩ずつ創りあげることで、はじめて実現可能となるのです
===== 引用おわり
6.
220年経ったが、平和になっていないではないか → 「国際連盟」も「国際連合」も「国際的な連合」の考え方をベースに作られたものではあるが、背景には「世界国家」の考えがあり、いまだ不十分である。「平和連合」の理念は次第に広がり、永遠の平和が実現されるか可能性を示すことができる。
疑問が残っています。
===== 引用 はじめ P.52
… カントが示した国際的な連合の考え方をベースにつくられたはずの「国連」がすでに存在しているのに、なぜ未だに永遠の平和は実現されていないのか
===== 引用 おわり
国際連盟については、
===== 引用 はじめ P.53
… 国際連盟は敗戦国ドイツを懲罰するために戦勝国がつくったもの… 強国の支配を裏付ける世界国家に近かったのです。また、すべての国を総括できずに“外部”をつくってしまったことも、失敗の大きな要因といっていいでしょう。…最終的には国際連盟の外で戦争が起こってしまいました。
==== 引用 おわり
国際連合については、
===== 引用 はじめ P.53 – P.54
… 国際連盟との違いとしては、国連軍を創設したこと、常任理事国に強い権限を与えたことなどが挙げられます。… 国連軍をつくったということは、国連の意向にしたがわない国に対しては暴力で制裁を加えてよい、ということになってしまいます。… カントの目指したのはそこではなく、あらゆる係争が武力を使わずに、法的に解決される仕組みをつくることだったはずです
===== 引用 おわり
「永遠平和」は、実現可能なのか
===== 引用 はじめ P.54
… カントが思い描いた世界はまだずっと遠くにあると言わざるをえませんが、カントはそれは決してたどりつけない夢ではなく、絶対に実現可能であるとして、次のように述べています。
この連合の理念は次第に広がっていってすべての国家が加盟するようになり、こうして永遠の平和が実現されるようになるべきだが、その実現可能性、すなわち客観的な実現性は明確に示すことができるのである。
===== 引用 おわり
出典:
萱野稔人(2016/8)、カント「永遠平和のために」、100分de名著、NHKテキスト
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