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2016年7月16日土曜日

(570) 「舞姫」 (森鷗外)


2016713日(水)放映済み BS朝日「あらすじ名作劇場」


「舞姫」 (森鷗外)
 
===== あらすじ はじめ

時は19世紀末。主人公でドイツ帝国に留学した官吏・太田豊太郎が帰国途上の船内客室で、回想録の形で綴る。書き出したのはサイゴン寄港・停泊中。

 
太田は下宿に帰る途中、クロステル通りの教会の前で涙に暮れる美少女エリスと出会い、心を奪われる。父の葬儀代を工面してやり、以後交際を続けるが、仲間の讒言によって豊太郎は免職される。

 
その後豊太郎はエリスと同棲し、生活費を工面するため、新聞社のドイツ駐在通信員という職を得た。エリスはやがて豊太郎の子を身篭る。友人である相沢謙吉の紹介で大臣のロシア訪問に随行し、信頼を得ることができた。復職のめども立ち、また相沢の忠告もあり、豊太郎は日本へ帰国することを約する。

 
しかし、豊太郎の帰国を心配するエリスに、彼は真実を告げられず、その心労で人事不省に陥る。その間に、相沢から事態を知らされたエリスは、衝撃の余り発狂し、パラノイアと診断された。治癒の望みが無いと告げられたエリスに後ろ髪を引かれつつ、豊太郎は日本に帰国する。「相沢謙吉が如き良友は、世にまた得がたかるべし。されど我が脳裡に一点の彼を憎む心、今日までも残れりけり。」 ……豊太郎の心からの呟きであった。

===== あらすじ おわり
Wikipedia 『舞姫』

 

エリスのモデルと言われているエリーゼ・マリー・カロリーネ・ヴィーゲルトは、その後、森鴎外を追って日本まで来て、帰されたとのこと。実際にあったこととしてこの小説を読むと、悲しくなってしまう。

 
エリスとの出会いの場面を原文で読んでみる。「高雅な文体と浪漫的な内容」と言われているが、それを追うには、原文が一番である。

 
===== 出会いの場面 引用はじめ

 今この処を過ぎんとするとき、鎖とざしたる寺門の扉に倚りて、声を呑みつゝ泣くひとりの少女をとめあるを見たり。年は十六七なるべし。被かむりし巾きれを洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に驚かされてかへりみたる面おもて、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。この青く清らにて物問ひたげに愁うれひを含める目まみの、半ば露を宿せる長き睫毛まつげに掩おほはれたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我心の底までは徹したるか。

 
  彼は料はからぬ深き歎きに遭あひて、前後を顧みる遑いとまなく、こゝに立ちて泣くにや。わが臆病なる心は憐憫れんびんの情に打ち勝たれて、余は覚えず側そばに倚り、「何故に泣き玉ふか。ところに繋累けいるゐなき外人よそびとは、却かへりて力を借し易きこともあらん。」といひ掛けたるが、我ながらわが大胆なるに呆あきれたり。

 
  彼は驚きてわが黄なる面を打守りしが、我が真率なる心や色に形あらはれたりけん。「君は善き人なりと見ゆ。彼の如く酷むごくはあらじ。又また我母の如く。」暫し涸れたる涙の泉は又溢れて愛らしき頬ほを流れ落つ。

 
 「我を救ひ玉へ、君。わが恥なき人とならんを。母はわが彼の言葉に従はねばとて、我を打ちき。父は死にたり。明日あすは葬らでは※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)かなはぬに、家に一銭の貯たくはへだになし。」

 
  跡は欷歔ききよの声のみ。我眼まなこはこのうつむきたる少女の顫ふるふ項うなじにのみ注がれたり。

 
 「君が家やに送り行かんに、先まづ心を鎮しづめ玉へ。声をな人に聞かせ玉ひそ。こゝは往来なるに。」彼は物語するうちに、覚えず我肩に倚りしが、この時ふと頭かしらを擡もたげ、又始てわれを見たるが如く、恥ぢて我側を飛びのきつ。

===== 出会いの場面 引用おわり

 
 「彼女は話をしているうちに、思わず私の肩に寄り添っていたが、このときふと頭を上げて、また初めて私を見たように、恥ずかしがって側を飛び退いた。」

 

 あらすじというより、叙述に惹かれる。

 

次回は、「犬を連れた奥さん」ほか

720日(水)22:00-23:00 放送】 BS朝日
(野球放送の延長などで、放映開始時刻が遅くなることがある)

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