【 読書 ・ 100分de名著 】群衆は事情次第で、単独の個人よりも優ることも、また劣ることもある。すべては、群衆に対する暗示の仕方如何にかかっている。(中略)確かに群衆はしばしば犯罪的である。しかし、またしばしば英雄的でもあるのだ
第4回 27日放送/ 29日再放送
タイトル: 群衆心理の暴走は止められるか
【テキストの項目】
(1)
群衆には「特性」がある
(2)
コロナ禍と群衆
(3)
群衆の特性を引き出す指導者は現れるか
(4)
教育は群衆化を防ぐ砦となりうるか
(5)
「暗示的な見解」の行間を埋めていく
(6)
ささやかな抵抗のために
(7)
「わかったつもり」の恐ろしさ
(8)
複雑な時代の必読書
【展開】
(1)
群衆には「特性」がある
群衆は暴走して、異分子を吊るし上げたり、凄惨な殺数に手を染めたりする。
しかし、そのエネルギーが良い方向に発揮されれば、社会運動や革命という形で大きなうねりを生み、世の中を変える可能性もあるとル・ボンはいいます。
具体例として挙げているのは、二月革命でテュイルリー宮に乱入した群衆です。彼らが装飾品を何一つ盗まなかったとして、暴徒や悪党であっても群衆になった途端に厳格な道徳を身につけることがあるといいます。群衆化によって徳性を具えた例といえるでしょう。
つまり、群衆心理は必ずしも悪い側面ばかりではない。第4回は、ル・ボンのいう群衆の「徳性」に注目して、いかにすれば暴徒化を免れるかを考えていきたいと思います。
(2)
コロナ禍と群衆
2020年、世界で最初に都市封鎖された武漢に在住する作家の方方が、『武漢日記』という本を出版しています。都市封鎖が強行された武漢から、60日間にわたって発信し続けたブログを一冊にまとめたものですが、この本にも地縁・血縁をはじめ、いろいろな形、様々なレベルで、困難を乗り越えるべく協力する人々の姿が記録されています。
もちろん、徳性ばかりがみられたわけではありません。たとえば、マスクが品薄状態だった時期には、限られているマスクを隣人と分けあう人もいれば、買い占めて転売する人もいました。二つの動きは同時進行していたのです。道徳行為と反道徳行為のどちらに転ぶかは、結局のところ紙一重なのかもしれませんが、群衆心理がときにポジティブな方向に働きうることを、ル・ボンが書いていることは重要だと思います。
(3)
群衆の特性を引き出す指導者は現れるか
群衆が暴徒と化すか、あるいは連帯して社会を変えていく力となるか。どちらに転ぶかは、群衆を率いる指導者の思想に依るところが大きい、とル・ボンは述べています。
また、社会を変えうる発信者として、世界的なムーブメントを起こしたスウェーデンの環境活動家グレタ・トウーンベリや、女子教育の必要性を訴えてノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。その活動は称賛すべきですが、彼女たちを指導者として祭り上げようとしたり、その反対に彼女らを仮想敵にして人々を煽動したりする動きも起きていて、そこは注意しなければならないと感じています。
(4)
教育は群衆化を防ぐ砦となりうるか
ル・ボンは、当時のフランスで行われていた、知識詰込み型の教育を批判しました。
『判断力、経験、創意、気概などが、人生における成功の条件であって、教科書のなかで、それらを学ぶのではない。教科書とは、辞書のようなものであって、参考の資料とすれば役に立つが、その冗長な断片的知識を頭につめこむのは、全く無用のことである。』
ル・ボンが批判しているように、教科書を鵜呑みにしている限り、群衆の精神は改善される見込みがない。裏を返していえば、群衆心理の暴走を防ぎうる教育があるとすれば、それは教科書のような「規範」に対し、違和感を投げかけるタイプの学びでしょう。
以下は、後に書きます。
(5)
「暗示的な見解」の行間を埋めていく
(6)
ささやかな抵抗のために
(7)
「わかったつもり」の恐ろしさ
(8)
複雑な時代の必読書
<出典>
武田砂鉄(2021/9)、ル・ボン『群衆心理』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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