【 読書 ・ 100分de名著 】前回は ル・ボン の洞察を通して、 群衆心理 がもつ負の側面をみてきました。今回は、群衆の精神構造をより子細にみていきながら、それが何によって影響を受けるのかを押さえていきたいと思います
第2回 13日放送/ 15日再放送
タイトル: 「単純化」が社会を覆う
【テキストの項目】
(1)
思想が群衆に浸透する過程
(2)
「わかりやすさ」を好む社会
(3)
群衆は正しく推理する力をもたない
(4)
群衆は心象で物事を考える
(5)
言葉は心象を呼び出す押しボタン
(6)
群衆がはまる陰謀論
(7)
暴走を止める術はないのか
(8)
道理はなぜ群衆に響かないのか
(9)
群衆化ではなく連帯を
【展開】
(1)
思想が群衆に浸透する過程
ル・ボンがいいたいのは、どんな思想も、わかりやすく単純化されたものでなければ群衆には浸透しない、ということなのです。
群衆に受けいれられるには、自分で考えに考えて、なんとか理解するようなものではなく、咀疇しなくても吸収できるくらい単純な思想でなくてはならない。そのため、高級な哲学思想も科学思想も、群衆を動かすようになった時には、まったく別物になり果てているというわけです。
啓蒙思想の何たるかは理解できなくても、それが「王政打倒」を意味するということならば肌感覚でわかる。ある思想が形を変え、極端にシンプルな形として提示されると、群衆は一気に飛びつくわけです。その結果フランス革命では群衆が途轍もない力を発揮しました。
(2)
「わかりやすさ」を好む社会
「わかりやすい」とは、自分で考えなくていいということです。それに馴れてしまうと、簡潔であること自体が価値になってしまう。よりわかりやすく、より手短なものを欲するようになる。単純化のスキルとその精度ばかりに価値が置かれる社会は、ある種のディストピアだと思います。やがて、わかりやすくないものを前にすると、それが完成形であるにもかかわらず、「これでは咀嚼できない」と加工されるのを待つようになってしまう。いや、もう、すでにそうなっているでしょうか。とにかく、複雑で粘り強い思考の産物が、切り捨てられるようになってしまいます。
(3)
群衆は正しく推理する力をもたない
単純化された思想しか受けいれられないということは、自分なりに考えて正しく推理する力をもたない、ということでもあります。群衆が用いる論法、あるいは群衆に影響をおよぼす論法は、「単に類似の点をとりあげて、この論法を推理と名づけるにすぎない」とル・ボンは批判しています。
自分が反対している社会問題について情報を得ようとする時、画面をどこまでスクロールしても出てくるのは反対している人のコメントばかり。まるで世の中の大半が自分と同じようにこの問題に反対しているかのようにみえてくる。セグメントされた情報しか入ってきていないにもかかわらず「そうか、やっぱりみんなそう思うよな」と理解してしまう。
(4)
群衆は心象で物事を考える
群衆は正しく推理する力をもたない。では、群衆はどうやって物事を考えているのでしょうか。ル・ボンは「群衆は、心象によって物事を考える」と記しています。
群衆は、心象によらなければ、物事を考えられないのであるし、また心象によらなければ、心を動かされもしないのである。この心象のみが、群衆を恐怖させたり魅惑したりして、行為の動機となる。
民衆の想像力を動かすのは、事実そのものではなくて、その事実の現われ方なのである。それらの事実が――こういっていいならば――いわば凝縮して、人心を満たし、それにつきまとうほどの切実な心象を生じねばならない。群衆の想像力を刺戟する術を心得ることは、群衆を支配する術を心得ることである。
(5)
言葉は心象を呼び出す押しボタン
道理も議論も、ある種の言葉やある種の標語に対しては抵抗することができないであろう。群衆の前で、心をこめてそれらを口にすると、たちまち、人々の面はうやうやしくなり、頭をたれる。多くの人々は、それらを自然の力、いや超自然の力であると考えた。言葉や標語は、漠然とした壮大な心象を人々の心のうちに呼び起こす。心象を暈す漠然さそのものが、神秘な力を増大させるのである。(中略)
言葉によって呼び起こされる心象は、その言葉の意味とは無関係であるから、同一の標語で示されていても、時代により民族によって種々に異なってくる。ある種の言葉には、ある種の心象が、一時的につきまとっている。けだし、言葉とは、心象を呼び出す押しボタンにほかならないのだ。
以下は、後に書きます。
(6)
群衆がはまる陰謀論
(7)
暴走を止める術はないのか
(8)
道理はなぜ群衆に響かないのか
(9)
群衆化ではなく連帯を
<出典>
武田砂鉄(2021/9)、ル・ボン『群衆心理』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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