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2017年12月16日土曜日

(1088) 人間とは何か、自己とは何か / スタニスワフ・レム『ソラリス』(3)


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(1080)  心の奥底にうごめくもの / スタニスワフ・レム『ソラリス』(2)
http://kagayaki56.blogspot.jp/2017/12/1080-2.html
 


 クリスの前に突然現れた、自殺をしてしまったかつての思い人ハリー。彼女はもちろん本物のハリーではなく、ソラリスの海が送り込んできた「お客さん」なのだが、二人の間にはいつしか恋愛感情が芽生えていた。

 海が送ってよこした「お客さん」は、実は両義的な存在である。抑圧されたトラウマが実体化された、グロテスクで嘲笑的なものであると同時に、亡くなった人にもう一度会えたという、抒情的で「懐かしい」側面も秘めている。だからこそ、クリスとハリーの疑似恋愛が本物の恋愛に変わっていくという愛の奇跡を、読者はここで目撃することになる。この恋愛小説の要素がなかったら、『ソラリス』はこれほど世界のベストセラーにはならなかっただろうというのは、多くの読者や研究者の一致するところだろう。
 

 ソラリスのステーションに滞在していた科学者ギバリャンは、海から送られてきた「お客さん」が原因で、クリスが到着する前に自殺していた。そのギバリャンが自殺する前に、自分の身に何が起こったかを説明するメッセージを録音したテープレコーダーがあり、クリスはそれをベッドの下に押し込んでいた。クリスはあるとき、そのテープレコーダーがなくなっていることに気づいた。でも、なくなった理由はわからない。

 クリスの記憶の中にあるハリーを、ソラリスの海が読み取り、それに模して実体化し送り込んできたのが、目の前にいる「お客さん」のハリーである。本物のハリーは、クリスの恋人であったが、喧嘩の末に自殺させてしまった。

 「どんな『お客さん』でも、現れた当初はほとんど幽霊みたいなもので、自分のもとになる人間…まあ、アダムとでも言っておくかな…そのアダムから汲み取った思い出とかイメージなどのとりとめのないごちゃまぜの他には、そもそも全く空っぽなんだ。でも人間といっしょにここに長くいればいるほど、人間らしくなってくる。それと同時に、自主性も持つようになる」とソラリスのステーションに滞在していた科学者スナウトは言った。
 

 送り込まれてきたハリーは最初、不完全なものだったが、今や成長している。知性もあり、感情もある。そのハリーが、テープレコーダーを持ち出して中身を聞いてしまった。

 ソラリスの観測ステーションに現れたハリーのような存在が、実は本物の人間ではなく、ソラリスの海が送り込んできたお客さんなのだ、とギバリャンはテープレコーダーの中で説明している。自分がどこから来たのかよくわからない存在で、過去の記憶は空白だったが、今やハリーは、自分が本物の人間ではないことを理解し、自分の身をどう処したらいいのかと真剣に考え始める。

 ハリーは自分の正体と知った。しかしクリスはその事実を知らない。この状況で、二人の間にいろいろな人間的な感情のやりとりが進んでいく(このやりとりが面白く、かつ、考えさせられるのだが、ここでは詳しい説明を省略する)。

 ハリーはクリスに本当のことを言うように問いかけるが、二人の関係を崩したくないクリスは説明しない。思い余ったハリーは液体酸素で自殺を図ろうとするが、不死身のハリーは、幸か不幸か、蘇る。

 その後、ハリーが昔のハリーとは違う存在として進化を遂げ、ハリー自身もそう感じ、それを前提に二人の関係をこれから築いていくのだ、という方向に話が進んでいく。クリスとハリーの恋愛は、普通の人間同士の恋愛以上に濃厚な感じがする。人間同士では成立しないようなピュアな愛も、人間とお客さんの間には成立するかもしれない。恋愛と並行するように、「自己とは何か」「他者とは何か」「人間とは何か」という問いかけも進んでいく。
 

 クリスはハリーといっしょにここを出ていくつもりだと仲間に告げるが、反対される。スナウトは言う「ニュートリノでできているハリーがステーションを出れば、ハリーは消滅する」。クリスはそれを認めつつも、彼女といっしょに暮らし続ける可能性をあきらめきれず、「ぼくは…彼女を愛しているのだ」とつぶやく。「誰を? 自分の思い出をじゃないのか」と冷静なスナウトから指摘が返ってきた。
 

出典
沼野充義(2017/12)、スタニスワフ・レム『ソラリス』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)

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