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2017年12月9日土曜日

(1080)  心の奥底にうごめくもの / スタニスワフ・レム『ソラリス』(2)


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   (1075) 未知なるものとのコンタクト / スタニスワフ・レム『ソラリス』(1)
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 人間の中には、実行には移さなかったかもしれないけれど、下劣で言葉にもできないような願望や、常軌を逸した欲望がひそんでいるかもしれない。それは普段は抑制しているため表には出ないし、本人すら忘れてしまっていることもある。人間とは表向きの言葉と行動がすべてであり、心の中に何を隠していようが、どんな願望を抱いていようが、実行に移さなければそれは不問に付すというのが社会生活の通常のルールである。しかし、ここではそうではない。

 「お客さん」とは、自分の中の抑圧された記憶が実体化されたもの、あえて実現させようとは思わず、「茫然自失、退廃、狂気」などの状態にあるときに一瞬頭の中だけで思い描いたことが肉体を持ったものだ。表向きの言動や行動の記憶が実体化されるのなら、まだそんなに恐ろしくはない。しかし、本人でさえ忘れているような抑圧された記憶、人前にはとても出せないような恥ずかしい願望、すなわち現実に起こらなかったことが形をもって現れる。だから恐ろしいのだ。


 これは「異文化とのコンタクト」であり、このコンタクトにソラリスの海が関与している。

 クリスがやってきた惑星ソラリスは、表面が原形質(生物の細胞の中で生命活動の基礎となっている構造系の総称。核と細胞質)状の「海」に覆われている。ソラリスの海は、高度な知性を持った巨大な生物ではないかと考えられるが、人間がこの「生物」と接触して互いに理解しあうことはいまだできないままである。この小説は、意思疎通のできない絶対的他者との出会いと、それに対して人間の知性がどう振る舞えるかという物語になっている。

 ソラリスの海は、クリスの記憶の中からハリーをつくりだし、送り込んできた。人間の心の中にある抑圧されたトラウマを引き出して本人と対峙させているとも言える。


 クリスは不死身だった。ロケットで宇宙に放出したが、翌朝には何事もなかったかのようにクリスのところに戻ってきた。血まみれになっても、たちまち再生した。驚愕しつつも、科学者であるクリスは、ハリーの血液をプレパラートに取り、調べた。その結果、ニュートリノでできているのではないかという考えに至った。

 それならば「ニュートリノ破壊装置」を使えば、ハリーを破壊できるとソラリスのステーションに滞在していた科学者サルトリウスが言ったが、その使用にクリスは反対した。

 時間が経過するにつれ、「ハリーは自分の妻だ」と言うまでにクリスの気持ちが変化していた。クリスとハリーの間には、いつのまにか本物の恋愛感情と呼べるような感情が育っていた。
 

出典
沼野充義(2017/12)、スタニスワフ・レム『ソラリス』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)

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