『三国志』の「元本」は2つあるようだ。
(1) 陳寿『三国志』
(2) 『三国志演義』
陳寿『三国志』は、現在、中国の「正史」の一つとされている。一方、「演義」とは「中国で、歴史上の事実をおもしろく脚色し、俗語をまじえて平易に述べた小説」(デジタル大辞泉)である。
我々が慣れ親しんでいるのは、吉川英治の小説『三国志』、NHKの人形劇『三国志』、横山光輝の漫画『三国志』などであろうが、これらは全て『三国志演義』を土台としている。つまり、我々の多くが知っている『三国志』は、史実ではなく創作物である。
この「100分de名著」のテキストは、陳寿『三国志』を土台として解説され、折に触れて『三国志演義』との違いの説明がある。そのため、このテキストで示される『三国志』は、我々が慣れ親しんでいる『三国志』ではなく、史実に近い。
では、「正史」である陳寿『三国志』の記述は正しいのか。小説である『三国志演義』よりは史実に近いが、「正しい」とは限らない。何故か。
===== 引用はじめ
「正史」とは「正しい歴史」ではなく、
あくまで国家の「正」統性を示す目的で記された「史」書である。
===== 引用おわり
話が逸れるが、これを読んでなるほどと合点したことがある。
中国や韓国がさかんに「正しい歴史」を日本に要求している。
日本人は、史実によって示される「正しい」歴史に向き合おうとする傾向が強い。それが自分の国に都合が良くても悪くても、「正しい」ものは正しいのだ。
一方、中国人や韓国人にとっては、自分たちに都合の良い歴史は「正しい」歴史であり、自分たちに都合の悪い歴史は「誤った」歴史なのだ。
こう考えると、次の二つの現実が、うまく説明できる。
(1) 中国人や韓国人が、自分たちに都合のよい「正しい歴史」を主張するのは、「愛国者」である国民として自然な状態だ。さらに、彼等はかつて学校で、今は国やマスコミから、統制された情報を与え続けられている
(2) 日本が南京や慰安婦の問題でいくら史実にもとづき説明しても、中国や韓国は、聞く耳を持たず、かみあわず、議論は平行線になり進まない。彼らは「日本は都合の良いように歴史をねじまげようとしている」と主張している。自分たちがそうしているので相手もそうだろうと想像するのは不思議ではない。そもそもの発想が違うので、日本人はわけがわからず、固まってしまう。
一方、次の二つは、理解できない
(1) 自分たちに都合の良い「正しい歴史」を自分たちが信じようとしていることは、「正しい」か否かをとりあえず棚上げすれば、心情としては理解できる。しかし、その「自分たちの国にとって正しい」歴史を他国に強要することはありえないことだと私は思うが、現実にはそういうことが起こっている
(2) 中国・韓国にとって都合の良い歴史を中国人・韓国人が主張するのは、現実としては十分ありえる。しかし、それを主張する「日本人」が少なくないのは、私から見ると奇異である。「日本にとって都合が良かろうと悪かろうと正しいものは正しい」と学問的に主張するならわかるが、聞いているとそのその根拠は、史実に基づくものではなく、中国や韓国にとっての「正しい歴史」に基づいているようである。なぜその人たちが「日本人」なのか、よくわからない。たまたま日本に住んでいるということなのだろうか
このあたりで止めておこう。
日本の歴史上の人物は、必ずしも司馬遼太郎の小説の通りではなかっただろうと私は思っている。しかし、その小説を多くの日本人が愛しているのは事実であり、また、その小説から自分の生き方の指針や目標を見出している人も少なからずいるだろう。そのことも無視でない。
===== 引用はじめ
『三国志演義』は魅力的な作品ではありますが、あくまでも『三国志』や後世のさまざまな伝承、そして中国の近世のさまざまな文化的土壌をもとに成立した創作物です。もちろん、そこから『三国志』が受容された社会のあり方、中国の民心、さらにそれを受け入れた日本の考え方が見えてきますので、『三国志演義』というフィクションそのものにも重要な意味があります。
===== 引用おわり
陳寿『三国志』によれば、
・ 220年、後漢最後の皇帝である献帝(劉協)は、曹操の子・曹丕に禅譲した(漢→魏)
・ 265年、魏の第五代皇帝・曹奐(曹操の孫)は、晋の初代皇帝・司馬炎に禅譲した(魏→晋)
陳寿『三国志』は、晋が正統な国であることを示している正史である。陳寿は晋の臣下だったので、晋を悪くは書けない。
一方、『三国志演義』は、主として蜀の立場から書かれている。
私には「曹操は悪人」といったイメージが強いが、『三国志演義』の流れの本から知識を得ているからだろう。歴史は、歴史書を書いた人の立場により、ずいぶん違ったものに見えてくる。
出典:
渡邉義浩(2017/5)、
陳寿『三国志』~真の「英雄」とは何か~、「100分DEで名著」、NHK出版
写真:陳寿
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