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2021年8月22日日曜日

(2434) アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(3-2)

 【 読書 ・ 100de名著 】多数の女性兵士がいた、最前線で男性と伍して戦ったという事実は、アレクシエーヴィチが現れるまで四十年にわたってほとんど取り上げられることがなかった。見放され、差別された女性たちは、口を閉ざしていた


第3回  23日放送/ 25日再放送

  タイトル: 戦争に翻弄された人々

 

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50

再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55

 及び        午後 00:00~00:25

 

【テキストの項目】

(1) 「母なる祖国」というプロパガンダ

(2)  毎日流れる愛国の歌

(3)  プロパガンダの時代が終わっても

(4)  捕虜になった兵士を持っていたもの

 

(5)  わが国で捕虜になった者はいない

(6)  勝利を奪われ、差別された女性たち

(7)  検閲が隠す戦争の闇

(8) 「すばらしい顔」と「恐ろしい顔」

 

【展開】

(1) 「母なる祖国」というプロパガンダ

(2)  毎日流れる愛国の歌

(3)  プロパガンダの時代が終わっても

(4)  捕虜になった兵士を持っていたもの

 以上は、既に書きました。

 

(5)  わが国で捕虜になった者はいない

 「ソ連の兵士は降伏しない。捕虜はいない。いるとしたら裏切り者だ」。戦中からスターリンはそう公言していました。 ~(証言)「ソ連の兵士は決して虜囚とならない。スターリン同志がおっしゃるように、わが国の捕虜はいない、いるとすればそれは裏切り者だ」という命令を読み上げた。男たちはみなピストルを取り出した。

 捕虜だったことを理由に収容所に送られた人の正確な数は、分かっていません。捕虜になったというだけで懲罰を受けたという事実は、長らくソ連ではタブーとされてきました。収容所に送られ、生き延びた人たちが名誉を回復され釈放されるのは、スターリンが1953年に死去し、フルシチョフがスターリン批判を始めてからのことです。

 

(6)  勝利を奪われ、差別された女性たち

 ワレンチーナ・パーヴロヴナ・チュダーエワ 軍曹(高射砲指揮官): 男たちは戦争に勝ち、英雄になり、理想の花婿になった。でも女たちに向けられる眼は全く違っていた。私たちの勝利は取り上げられてしまったの。

 エカテリーナ・ニキーチチュナ・サンニコワ 軍曹(射撃兵): 私の司令官が復員してきました。私のところに来て、私たちは結婚しました。一年後、彼は他の女のところに行ってしまいました。私が働いていた工場の食堂の支配人のところへ。「彼女は香水の匂いがするんだ、君は軍靴と巻き布の臭いだからな」と。 それっきり、一人で暮らしてます。天涯孤独の身です。来てくれてありがとう…

 

(7)  検閲が隠す戦争の闇

 『戦争は女の顔をしていない』は、アレクシエーヴイチが、それまで閉ざされていた人々の口を少しずつ開かせて作り上げた貴重な証言集であり、ソ連の言論の自由の進み具合を示す作品でもあります。1985年版と2004年版を比べると、初めて刊行された当時はここまでしか言えなかったのか、2004年になるとこんなことも言えるようになったのだな、といったことが読み手にはっきり分かるのです。そんな作品はあまり例がありません。そういう意味でも、とても珍しいテクストだと言えるでしょう。

 2004年版では、初版時に自ら削除した部分を復活させました。検閲で削除を命じられた証言も「検閲が削除した部分」と明示して作品に組み込んでいます。

 

(8) 「すばらしい顔」と「恐ろしい顔」

 戦争が持つ、大義名分に彩られた大きな物語という「すばらしい顔」と、汚く恐ろしい「見るに耐えない顔」。しかし、「見るに耐えない」からといってその「恐ろしい顔」から目をそむけてはいけない。作品を通じて、アレクシエーヴィチはそう訴えてきます。どちらの顔も、戦争の真実なのですから。

 新聞の切り抜きや公式報告書にあるのは、イデオロギーに沿った「他人の真実」であり、検閲官が望んでいたような大きな物語にほかなりません。それにそぐわない「そのひとの真実」という小さな物語は、他者の存在、そして、自分自身によっても、圧殺されてしまうことがありました。

 

<出典>

沼野恭子(2021/8)、アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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