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2021年8月12日木曜日

(2424) アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(2-1)

 【 読書 ・ 100de名著 】自ら志願して入隊した若い女性の姿が浮かび上がってきます。門前払いされても徴兵司令部に通い続け、ようやく認められた。銃後の軍務はいやだ、前線に行きたいと訴えた。そんな証言が、いくつも記されているのです


第2回  16日放送/ 18日再放送

  タイトル: ジェンダーという戦争

 

【テキストの項目】

(1) 「兄弟姉妹たちよ!」の呼びかけに応えて

(2)  銃を手に最前線で戦った女性たち

(3)  勇敢な兵士と良妻賢母、二つの顔

(4) 「身体の記憶」を書きとる

 

(5)  貫之とアレクシエーヴィチ

(6)  ハイヒールと銃弾

(7)  戦場で唯一私的な営み--恋愛

 

【展開】

(1) 「兄弟姉妹たちよ!」の呼びかけに応えて

 第二次世界大戦中、旧ソ連地域では、百万人近くもの女性が従軍しました。なぜそれほど多くの女性が戦場に向かったのか。その理由は「祖国を守りたい」という、非常に純粋なものだったようです。

 「スターリンがやっと口を開いたら、国民に対してこういう言葉で呼びかけたの。「兄弟姉妹たちよ―」これでみなコロツとそれまでのくやしさを忘れてしまった。」

 このスターリンのアピールは、男も女もなく、すべてのソヴィエト市民に向けて、「ファシストという絶対悪から祖国を守り、ひいてはヨーロッパの盾になろう」という大義名分を示すものでした。この大義名分にはとても大きな効果がありました。

 

(2)  銃を手に最前線で戦った女性たち

 『戦争は女の顔をしていない』を読み進めると、戦場で女性が就いていた職責と階級が、多岐にわたっていることに驚かされます。職責の例を挙げると、狙撃兵、飛行士、高射砲兵、機関銃兵、爆撃手、斥候、軍医、看護師、衛生指導員、航空整備士、電話交換手、料理係、洗濯係、理容師など。最前線から調理場まで、戦場のありとあらゆる場所に女性がいたことが分かります。武器を持って前線で戦った女性の多さは、ソ連の特徴と言えます。

 前線に出て戦いたいという女性の意思と、実際の戦場にいる男性の気持ちとの間には、大きなギャップがありました。その背景には、女性に良妻賢母であることを求める社会的規範があります。

 

(3)  勇敢な兵士と良妻賢母、二つの顔

 戦場の女性たちは、兵士として十分な働きをするために、男性以上の苦労をします。そうでなければ、「女に何ができるんだ」とばかにしている男性に認めてもらうことができないからです。 … しかし男性たちは、兵士として戦えるようになった女性に対して、今度は「君たちは良妻賢母にはなれない」と否定するようになるのです。

 当時のソ連の「男女平等」は、「女性も男性と一緒に同じだけ働くべし」という意味での「平等」でした。 … 建前上の男女平等と、女性らしさを求める社会規範の二重性が、そのまま戦場にも持ち込まれ、女性が「男と同じように戦い、美しく優しいままでいる」ことを求められていたように思えてなりません。

 

(4) 「身体の記憶」を書きとる

 かつてロシアでは、結婚前の女性は長い髪を一本の太い三つ編みにしていて、結婚式の日に女友達が歌を歌う中、三つ編みをほどくという風習がありました。つまり、三つ編みをほどくという行為は、特にロシアの農村部では、純潔や処女性との別れ、子供時代との決別といった意味合いを持っていました。ですから、まだ結婚前の若い女性たちが、長いおさげ髪を切るという行為には、単に軍に入隊したということ以上の、女性としてのアイデンティティを失うような、非常に重い意味があったはずです。

 そうした成長途上の少女たちの身体の記憶をも集めたのが『戦争は女の顔をしていない』なのです。

 

 以下は、後に書きます。

(5)  貫之とアレクシエーヴィチ

(6)  ハイヒールと銃弾

(7)  戦場で唯一私的な営み--恋愛

 

<出典>

沼野恭子(2021/8)、アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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