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2021年8月18日水曜日

(2430) アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(3-1)

 【 読書 ・ 100de名著 】戦後、多くの犠牲を払い、ファシズムに辛勝したソ連の人々に対して、スターリンは、敵の捕虜になっていた人たちを、ナテスに協力した、自発的に降伏したといった理由で、強制収容所に送ってしまうのです


第3回  23日放送/ 25日再放送

  タイトル: 戦争に翻弄された人々

 

【テキストの項目】

(1) 「母なる祖国」というプロパガンダ

(2)  毎日流れる愛国の歌

(3)  プロパガンダの時代が終わっても

(4)  捕虜になった兵士を持っていたもの

 

(5)  わが国で捕虜になった者はいない

(6)  勝利を奪われ、差別された女性たち

(7)  検閲が隠す戦争の闇

(8) 「すばらしい顔」と「恐ろしい顔」

 

【展開】

(1) 「母なる祖国」というプロパガンダ

 『戦争は女の顔をしていない』の証言者たちは、みな戦争に人生を大きく左右されました。国家によるプロパガンダに駆り立てられるように戦場へ向かい、戦後は戦後で、いわれのない処罰や差別によって苦しみや悲しみの淵に追いやられます。第3回では、理想の社会主義国家を目指したソ連がたどった道のりと、その時代に翻弄された人々の姿を見ていきたいと思います。

 百万人近くもの女性が第二次世界大戦に従軍した背景には、前回お話ししたように、成人男性の多くがすでに戦争に行ってしまっていたこと、さらに、自分たちも祖国のために何かしなければという、やむにやまれぬ気持ちがありました。その気持ちを高め、彼女たちの背中を押したのは、国中にあふれていたさまざまなプロパガンダでした。

 

(2)  毎日流れる愛国の歌

 「少年少女よ、飛行機乗りになろう!」と呼びかけるスローガンも登場します。「少年少女」という呼びかけ方も、女の子には効果的だったのでしょう。

 また、歌も有効なプロパガンダの手段として使われていました。最も広く知られていたのが、「立ち上がれ!広大な国よ」という歌詞で始まる「聖なる戦争」です。 … 「聖なる戦争」は、「聖戦」である大祖国戦争ヘと人々を動員する非常に愛国的な歌です。

 戦況が厳しくなった1941年の10月からは、毎朝必ず、クレムリンの鐘の音に続けて、この歌がラジオで放送されるようになりました。 … 芸術的手法を総動員して戦争の大義名分が宣伝され、人々は次第に戦争協力をするように仕向けられていきます。

 

(3)  プロパガンダの時代が終わっても

 1991年、「赤いユートピア」であるソ連が崩壊し、旧ソ連地域で暮らしていた人々は、こうした愛国的な共産主義イデオロギーの呪縛から解放されたはずでした。しかし、一つのイデオロギー下で若い時期を過ごした人は、すべての思い出がそのイデオロギーとつながっています。そういう人にとつて、イデオロギーは、単なる主義や思想ではなく、家族、友達、学校、ありとあらゆる思い出が詰めこまれたものです。そう考えると、時代が変わったからといつて、100%それを手放すのは難しいだろうと思うのです。

 近年のロシアでも、昔の在り方に価値を置き、共産主義社会に戻った方がいいのではないかと考える人も多いのです。

 

(4)  捕虜になった兵士を持っていたもの

 『収容所群島』の作者であるアレクサンドル・ソルジェニーツインのデビュー作が、『イワン・デニーソヴィチの一日』という小説です。

 イワン・デニーソヴィチは、元はどこにでもいる農民でした。1942年にドイツ軍の捕虜になりましたが、二日後には脱走し、奇跡的に友軍に出会います。そのとき、バカ正直に、ドイツ軍の捕虜になったが逃げてきたと言ったため、「反逆罪」とされ収容所に入れられてしまうのです。そして、酷寒のシベリアで来る日も来る日も重労働をさせられます。『イワン・デニーソヴィチの一日』は、十年の刑期のうち、八年が経過したある一日の物語です。捕虜を主人公にしたのは、収容所ではよくあるケースだったからなのかもしれません。

 

 以下は、後に書きます。

(5)  わが国で捕虜になった者はいない

(6)  勝利を奪われ、差別された女性たち

(7)  検閲が隠す戦争の闇

(8) 「すばらしい顔」と「恐ろしい顔」

 

<出典>

沼野恭子(2021/8)、アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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