【 読書 ・ 100分de名著 】私が少尉に恋をしているって誰にも打ち明けたことはなかった。(中略)その少尉を埋葬したの… (中略)お別れが始まって言われたの、「まず、お前から」。(中略)それでみんなが知っていたことが分かった
第2回 16日放送/ 18日再放送
タイトル: ジェンダーという戦争
放映は、 月曜日 午後 10:25~10:50
再放送は、 水曜日 午前 05:30~05:55
及び 午後 00:00~00:25
【テキストの項目】
(1)
「兄弟姉妹たちよ!」の呼びかけに応えて
(2)
銃を手に最前線で戦った女性たち
(3)
勇敢な兵士と良妻賢母、二つの顔
(4)
「身体の記憶」を書きとる
(5)
貫之とアレクシエーヴィチ
(6)
ハイヒールと銃弾
(7)
戦場で唯一私的な営み--恋愛
【展開】
(1)
「兄弟姉妹たちよ!」の呼びかけに応えて
(2)
銃を手に最前線で戦った女性たち
(3)
勇敢な兵士と良妻賢母、二つの顔
(4)
「身体の記憶」を書きとる
以上は、既に書きました。
(5)
貫之とアレクシエーヴィチ
『土佐日記』を書いたとき、紀貫之はわが子を亡くした悲しみの淵にいて、その悲しみを漢語では伝えられないので、仮名で書くことを選んだ、という解釈があります。女性が使う言葉は、私的で、感情表現に優れていると感じていたのでしょうか。漢字と仮名の間に、男言葉と女言葉、公式の言葉と個人的な感情表現という差があったとするなら、紀貫之とアレクシエーヴイチには、通じるものがあるのかもしれません。
アレクシエーヴイチは、それまで周縁に置かれ、劣ったものであるとされてきた「女の語り」に、むしろ革新性と真実味があると感じたのでしょう。これは、欧米のフェミニズムの思想とも響き合うものがあると思います。
(6)
ハイヒールと銃弾
ヴェ―ラ・ヨーシフォヴナ・ホレワ(外科医) 「前線に向かうときのこと……(中略)お店に飛び込んで、ハイヒールを買ったのを憶えてます。 …なぜかハイヒールが買いたくなった。(中略)とてもエレガントなハイヒールだった。香水も買つたの。」
タマーラ・イラリオノヴナ・ダヴィドヴィチ
軍曹(運転手) 「春のことで射撃訓練が終わって、戻る時。スミレの花をたくさん摘んで小さな花束にして、銃剣につけて帰った。(中略)花束をライフルに結びつけたのを忘れたままでした。」
ハイヒールと銃弾。スミレの花束とライフル。相反するように思えるものが、彼女たちの戦場の記憶には同居しています。
(7)
戦場で唯一私的な営み--恋愛
『戦争は女の顔をしていない』には、恋愛についての証言だけを集めた章があります。その証言の一つひとつがかけがえのない記憶であり、それぞれが一編の小説になりそうな話ばかりです。 … アレクシエーヴイチは「恋は戦時中で唯一の個人的な出来事」「誰もが恋愛については死についてほど率直に語りたがらなかった」と書いています。
恋愛とは、極めて私的な営みです。軍隊という集団主義的な組織の中にあって、そうした私的な営為は、集団の規律を破る力、価値観を持っています。恋愛やセックスは、極めて無防備なもので、最も戦争に向いていない、個と個の結びつきです。大きな理念やイデオロギーが作用している戦争という強烈な磁場にあって、女たちは個人の恋愛という小さな、些細な感情を大切にしていました。
<出典>
沼野恭子(2021/8)、アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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