【 読書 ・ 100分de名著 】音楽家も、一般にその作品は「年月とともに進歩する」と言います。「老齢期のバッハの諸作品は彼のもっとも美しい作品のなかに数えられる」し、ベートーヴェンは晩年の四重奏曲で「それまでの自己を凌駕」しました。
第2回 7日放送/ 9日再放送
タイトル: 老いに直面した人びと
【テキストの項目】
(1)
老いを比較する
(2)
「お若いですね」は本当に褒め言葉か?
(3)
作家の老い--60過ぎて書くものは二番煎じ
(4)
学者の老い、芸術家の老い
(5)
政治家の老い--新しい時代の理解に失敗
(6)
日本の知識人の老い
(7)
英雄的な老いもある
(8)
ボーヴォワールが実践したリアリズム
(9)
老いと自己模倣
【展開】
(1)
老いを比較する
また、この本の目的は「今日のわれわれの社会における老人たちの境涯に照明をあてること」であるが、老いは生物学的には「超歴史的事実」(どの時代に生まれても人は老いる)だとしても、その運命は「社会的背景にしたがつて多種多様に生きられる」ため、歴史を参照しないわけにはいかないと言います。
ボーヴォワールは、第二章「未開社会における老い」および第三章「歴史社会における老い」のなかで、前近代の世界の諸地域・文化における老いを詳細に比較検討しています。こうしたアプローチは、学問の世界では比較老年学と呼ばれます。
(2)
「お若いですね」は本当に褒め言葉か?
現在では、高齢者に対する「お若いですね」は最高の褒め言葉のように使われていますが、若さに価値があるのは、古さの価値が否定される変化の速い近代社会です。
ボーヴォワールによれば、移動する社会、変化する社会、つまり近代化は老人の地位を低めた、と。加えて、彼女は二つの知見について書いています。一つは、親子関係の厳格さが高齢者の処遇に反映するということ。もう一つは経済格差で、文明社会の裕福な老人は長命だということ。後者は大変鋭い知見です(最近の健康疫学という学問のジャンル)。
(3)
作家の老い--60過ぎて書くものは二番煎じ
ボーヴォワールは、作家と学者の老いに対してとても辛辣なのです。まず、作家の老いに対して「一般には高齢は文学的創造にとって好適ではない」「年取った人間にもっとも適さない文学のジヤンルは小説である」など容赦のないことを述べています。
多くの老人は、習慣から、あるいは生活のために、また自分の凋落を認めたくないために、書きつづける。しかしその大部分は次のベレンソンの言葉が事実であることを例証している。「人が60歳を過ぎて書くものは、まず二番煎じのお茶ほどの価値しかない。」
(4)
学者の老い、芸術家の老い
「ある55歳になる大数学者」によると、年取った学者に新しい発見がむずかしいのは、 学問の進展のスピードが速く、新しい用語などを学ぶのが間に合わない(あるいは学ぶ決心がつかない)こと、自説を否定するのがむずかしいことが挙げられると言います。
知的職業人に対し辛辣だったボーヴォワールですが、例外は画家と音楽家です。画家は、技術の習得に時間がかかるため「彼らがその傑作を産むのはしばしばその最晩年期である」と言います。例えば、ゴヤは66歳で85枚の銅版画『戦争の惨禍』の制作を始めました。
以下は、後に書きます。
(5)
政治家の老い--新しい時代の理解に失敗
(6)
日本の知識人の老い
(7)
英雄的な老いもある
(8)
ボーヴォワールが実践したリアリズム
(9)
老いと自己模倣
<出典>
上野千鶴子(2021/7)、ボーヴォワール『老い』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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