なかなか、面白い本である。
アーノルド・ベネットの数ある著作の中でも、世界中で最も読まれる本となったのが、この『自分の時間』である。
「時間」について書かれた実用書で、これほど世界中の一流人たちに支持された本はないかもしれない。
ベネットはこの本で、「人間というものは、貧乏人でも金持ちでも、とにかく1日24時間しかない」という明々白々なことに目を向け、その24時間でいかに生きるかということに対する具体的なヒントを提供している。
===== 引用 おわり
ここまでは、多分、皆さん、異存ないと思う。
この本は、働いている人に向けて書かれた本である。
それを、働き終わった人、引退した立場から読み進めると、何が見えてくるか。
両方の立場から読んでいくと、両眼で見るから立体像が見えるように、立体像が見えてくる。
===== 引用 はじめ P.29
朝、目覚める。すると、不思議なことに、あなたの財布にはまっさらな24時間がぎっしり詰まっている。そして、それがすべてあなたのものなのだ。これこそ最も貴重な財産である。
===== 引用 おわり
そうは言っても、働いている人は、仕事に多くの時間を割かれる。引退するとそれがゼロになる。特に、家事をすべて奥さんに任せて、引退してもそのまま家事をしないなら、本当にまっさらな24時間にどっぷりと浸かることになる。
===== 引用 はじめ P.58
… 朝10時から夕方6時までの勤務時間があくまで本当の意味での「1日」だとみなし、勤務時間の前の10時間とあとの6時間は、単なるプロローグとエピローグに過ぎないと思っている。
===== 引用 おわり
10時から? ロンドンの朝は、遅いのだろうか。それは、さておき、
「仕事人間」は、こうであろう。その人が引退すると、「単なるプロローグとエピローグに過ぎないと思っている」ものにいきなり24時間が割り当てられて、どうすればよいか困ってしまう。現役時代に元気にバリバリ働いていた人こそ、危ない。
「定年後も、時々顔を出して指導してください」と送り出されて、それを真に受けて、定年後に会社に行くと、現実を思い知らされる。邪魔者以外の何者でもない。かといって会社以外に行くところもない。あれほど存在感があった人に、もはや存在感がない。
巨大な時間に飲み込まれ、もはや自分を見失い、心身ともにむしばまれていく。存在感がまるで無くなる。
===== 引用 はじめ P.59
… 頭の中で、1日の中にもうひとつ別の1日を設けるようにしなければならない。
この「内なる1日」は、ひとまわり大きな箱の中に入っている小さな箱のようなもので、夕方6時に始まって10時に終わる。16時間の1日というわけである。
そして、この16時間はすべて、もっぱら自分の心と身体を成長させ、同胞を啓発することだけに使うのだ。
この16時間はすべてのものから解放されている。まず、給料を稼いでくる必要がない。そして、金銭上の問題に気をとられることがない。つまり、働かずとも食べていける同じような、結構な身分なのだ。
===== 引用おわり
「結構な身分」が、現役の人は16時間だが、引退すると24時間になる。この本は、現役の人を対象として書いたものであるが、働いている8時間のところについては、何も書いていない。16時間の部分をどのように充実できるかに焦点を当てている。引退している人は、16時間が24時間になるだけで、大切にしたいところは同じである。
つまり、この部分をどのようにして充実させようかと考えることは、現役の人にも、退職した人にも、役立つことである。
注意すべきことが、2点ある。
先ず、16時間というが、その間に、寝なければならないし、食事もとられねばならないし風呂にも入らねばならない、家事もあるだろう。また、行き帰りの通勤時間分も目減りする。残業すると更に減る。
例えば、「睡眠7時間、食事・風呂2時間、家事1時間、往復通勤2時間、残業1時間」とすると、「可処分時間」は、16時間から3時間まで減る。引退して、「睡眠7時間、食事・風呂2時間、家事1時間」になるとすると、「可処分時間」は、24時間から14時間まで減る。
「可処分時間」は、3時間から14時間まで激増する。これは、仮数字で計算した結果であり、当然、人により違う。自分の生活の実際の時間に置き換えていただくと、自分の生活のバランスが見えてくる。
次に、この本は、働いていることを前提として、「「朝起きてから仕事を始めるまでの時間」、「仕事が終わってから寝るまでの時間」、「寝ている時間」をどう効率化するかという工夫が書いてある。しかし、引退した人は「働いていることを前提」が崩れている。そういう意味では、引退している人には、そのままは当てはまらないところもある。
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