「水の巻」に書かれているのは剣術の鍛錬法である。単なる「剣術の鍛錬法」ならば、剣術を学ぼうとしていない人には役立たない。しかし、この本は、そうでないところがすごい。何故か。
「他の流派の剣術伝書において、記述の中心になるのは、数多くある技のやり方の解説です。対して武蔵は、基礎を非常に重視しています。心の持ち方、身構え、目付、刀の持ち方、足遣いなど技の基礎を詳しく書いている」
基礎まで降りていくと、剣術という枠を越える。いかなるジャンルであれ、基礎まで降りていくと、同じ「広場」に出るのではないか。
「兵法の利にまかせて諸芸諸能の道となせば、万事におゐて我に師匠なし」(兵法の道で会得した道理に拠って、他のさまざまな芸能の道を行っているので、全てにおいて、私に師匠はいないのである)
「諸芸諸能」とは、水墨画、茶の湯、連歌などの芸能のことである。客分であった武蔵は、大名家に出入りするそれらの道の名人たちと交流があった。達磨絵を描いているので、座禅もしていたと思われる。
さて、「水の巻」は、三つのまとまりに分かれる
(1)
術の基礎となること
「心持(心の持ち方)」「兵法の身なり(姿勢)」「目付(目の付け方)」など
(2)
太刀の構え方と太刀遣いの原理、そして稽古法
「五方の構え」「太刀の道(太刀遣い)」「有構無構のおしへ」など
(3)
敵と打ち合う際の実践的な心得
「拍子」「一人で大勢と戦う」「今日は昨日の我に勝つ」など
2回後(501)に続く
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