(537) 自由と依存 / ルソー『エミール』(2-2)(6月13日(月) 22:25- Eテレ放送)
「最期まで「自立」する」(534)で私は、「支援を得て、自立した生活を得る」ということは、論理的にありえないように見えるが、大切なことだと述べた。
関連する話が「エミール」で出てくるので紹介する。
「自由な活動ができるためには依存が必要だ」
===== 引用はじめ (P.53)
つまり見守ってくれる家庭教師がいるからこそ、エミールは安心して心ゆくまで野原で遊んだりできるわけですね。
心理学における「愛着理論」には、「安全基地」と「探索行動」という概念があります。子どもの自由な活動(探索行動)は、親や教師の見守り(安全基地)があってはじめて可能になる、というのです。
この見方がおもしろいのは、自由と依存とが完全に対立する二項ではないということを、よく理解させてくれるところです。
だれにもまったく依存しないというのではなく、必要なときに適切な相手に適切な程度で依存することが、自立なのではないでしょうか。自立した大人というのは、仕事でも生活でも、うまく他人に頼ることができる人なのではないでしょうか。
===== 引用おわり
「自由と依存とが完全に対立する二項ではない」と書いてあるが、「支援を得て」と「自立した生活を得る」とが完全に対立する二項ではない、ということに通じる。
引用した内容は、実践的である。二例あげる。
私の現役時代、「優秀な人」と「仕事が出来る人」とは必ずしも一致しない、というケースが多くあった。「優秀な人」は優秀なため、えてして人に依存しようとはしない。「仕事の出来る人」は、よい仕事をするため、適切に人に依存する。
IQ(知能指数)とEQ(こころの知能指数)の関係も、これで説明できる。
===== 引用はじめ
IQだけでは、説明しきれない事柄
例えば、資質や学歴がだいたい同じでチャンスにも同じように恵まれた人たちが、異なる運命をつかみとる結果になるのはなぜなのか。
こうしたことに対して、アメリカなどでは「こころの知性」に目が向けられ、15年ほど前から多くの研究がなされて来ました。
ハーバードを卒業した人々を中年になるまで追跡調査したところ、大学時代に秀才だった人が、そうでない人より収入や業績や地位などの点で特に成功しているとはいえない。
「イリノイ州の高校を首席または次席で卒業した男女81人を追跡調査したデータもあります。いうまでもなく、高校時代の成績は全員優秀。大学でも素晴らしい成績をおさめている。
しかし二十代後半になった時点で調査してみると、社会的な成功度はいわゆる「並」程度でしかなかった。
高校を卒業して10年経ってみると、それぞれの職種で同年代のトップレベルにいたのはわずか4人に1人で、それ以外は目立った活躍をしていなかった。」
人生で大きな差をつけたのは、IQよりも子どものころに挫折を克服する能力、感情をコントロールする能力、他人と協調する能力があったかどうかだったのです。
(もちろん、IQを否定するものではないことは、ご理解いただけると思います。)
===== 引用おわり
「(533) 他人の手にゆだねる力」でも、同様な話を展開した。
これらは全部、ひとくくりである。
出典:
西研(2016/6)、ルソー『エミール』、NHKテキスト
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