【 読書 ・ 100分de名著 】『移動祝祭日』は、ヘミングウェイの死後刊行された彼の青春回想録です。描かれているのは、1921年から26年にかけてのパリでの作家修業時代。綺羅星のごとくパリに集まった作家たちとの思い出が記されています。
第4回 25日放送/ 27日再放送
タイトル: 作家ヘミングウェイ誕生の軌跡~『移動祝祭日』
【テキストの項目】
(1)
ねじれた青春回想録
(2)
1920年代のパリ
(3)
ガートルード・スタインの教育
(4)
「自堕落な世界」なんてくそくらえ
(5)
奇妙な人物評
(6)
フテッツジェラルドとの思い出
(7)
なぜ恩人を悪く書くのか
(8)
ヘミングウェイの仕事術
(9)
「氷山の一角」理論
(10)
パリ時代の終わりと、人生の最後
(11)
見直される同時代の作家たち
(12)
いま、ヘミングウェイを読み直す
(13)
言語や文化の違いを超えて
【展開】
(1)
ねじれた青春回想録
『移動祝祭日』は、ヘミングウェイの死後、1964年に刊行された彼の青春回想録です。描かれているのは、1921年から26年にかけてのパリでの作家修業時代。そこには、綺羅星のごとくパリに集まった作家たちとの思い出が記されています。
本作は、「フィクションと見なしてもらってかまわない」と言って「本当はノンフイクションだろう」と読者を誘導しつつ、大事なところはばっちりフィクション、という複雑なつくりになっています。
(2)
1920年代のパリ
タイトルの「移動祝祭日」は、キリスト教の暦で年によって期日の違う祝目(復活祭など)のこと。A・E・ホツチナーの言葉から取られています。
「もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。パリは移動祝祭日だからだ。」
当時、モダニズム運動の中心地となっていたパリに行くことは、芸術を志す人にとつて大きな意味がありました。
(3)
ガートルード・スタインの教育
『移動祝祭日』で注目すべきは、本書がヘミングウェイの作家修業ドキュメンタリーの体裁をとっているという点、特に鍵になるのがガートルード・スタインとの交流です。
スタインは本物の目利きで、自身の作品を書く傍ら、芸術家のパトロンとして、まだ無名だったピカソ、セザンヌ、マティスなどの絵をいち早く購入していました。
『移動祝祭日』には直接は書かれていませんが、スタインは、文章を書くことについても手取り足取り教えてくれて、セザンヌの絵をよく見なさいとアドバイスしたそうです。
(4)
「自堕落な世界」なんてくそくらえ
スタインがヘミングウェイ世代の若者のことを「ロスト・ジェネレーション」と呼んだときの逸話も書かれています。(略) ヘミングウェイは家に帰る途中、「人を自堕落な世代と呼ぶなんて何様のつもりなんだ」「ロスト・ジェネレーションなんて彼女の言い草など、くそくらえ。薄汚い、安直なレツテル貼りなど
くそくらえ だ」と毒づきます。
ヘミングウェイは、この「あなたたちはみんな自堕落な世代なのよ」という言葉をのちに初期の長編『日はまた昇る』のエピグラフに使いました。
(5)
奇妙な人物評
スタインについて、ヘミングウェイは温かな友情に感謝しているとしつつも、彼女は自分の作品を褒めてくれない作家の作品は褒めたためしがないとか、自作の推敲と校正は嫌ったとか、ネガティブなコメントを織り交ぜながらその思い出を綴っています。そして最も読者を戸惑わせるのが、「実に奇妙な結末」と題した章です。(略)
ヘミングウェイは『移動祝祭日』の中でさまざまな人について書いていますが、自分が世話になった度合が大きい順にひどいことを書いています。その筆頭がスタインだった。
(6)
フテッツジェラルドとの思い出
もう一人、ヘミングウェイが複数の章を割いてその思い出を綴っているのがF・スコット・フィッツジェラルドです。フィッツジェラルドもヘミングウェイにとっては大変な恩人です。当時まだ無名だったヘミングウェイがスクリブナーという大きな出版社から本を出版することができたのは、フィッツジェラルドの推薦があったからでした。そしてヘミングウェイは、そこでフィッツジェラルドを担当していた優秀な編集者に出会いました。
しかし、ヘミングウェイのフィッツジェラルドに関する描写はひどいものです。
(7)
なぜ恩人を悪く書くのか
なぜヘミングウェイは、受けた恩については語らず、世話になった人についてネガティブなことばかり書いたのでしょうか。 … 作家たるもの、自分が将軍になるためには世話になった人について「世話になった」などと言ってはいけない。かなり屈折していますが、そう考えていた可能性はあると思います。
もう一つ考えられるのは、「オリジナルであること」への信仰です。 … 作家は「全部自分で考えた」と言わなければいけないと考えていたし、読者もそれを求めていた。
以下は、後に書きます。
(8)
ヘミングウェイの仕事術
(9)
「氷山の一角」理論
(10)
パリ時代の終わりと、人生の最後
(11)
見直される同時代の作家たち
(12)
いま、ヘミングウェイを読み直す
(13)
言語や文化の違いを超えて
<出典>
都甲幸治(2021/10)、『ヘミングウェイ スペシャル』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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