【 読書 ・ 100分de名著 】「だが、人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない」「叩きつぶされることはあっても、負けやせん」という、この小説の象徴的なセリフです。後半の原文は「A man can be destroyed but not defeated」。
第2回 11日放送/ 13日再放送
タイトル: 死闘から持ち帰った不屈の魂~『老人と海』②
【テキストの項目】
(1)
大物を仕留めたものの…
(2)
「考えるな、じいさん」
(3)
「いま」に集中する
(4)
意外に勝ちを重ねるサメとの闘い
(5)
なぜ諦めなかったのか
(6)
叩きつぶされても負けはしない
(7)
少年の存在とは
(8)
多文化小説としての『老人と海』
(9)
なぜキューバ人漁師なのか
(10)
偽装されたアメリカ批判
(11)
アフリカの夢
(12)
老人はヘミングウェイか
【展開】
【テキストの項目】
(1)
大物を仕留めたものの…
大物のカジキを釣り上げた老人ですが、このあと、サメが次々に襲ってきてカジキはほぼすべて食べられてしまいます。第2回は、老人がサメと闘い、港に帰り着くまでを見ていきます。
前半でカジキを仕留めたことを「勝利」と考えると、そのカジキを失ったことは「敗北」であり、結局何も残らなかったね、という話になります。しかしながら、サメの群れが来れば獲物が食べられてしまうことは、カジキが餌に食いついたときから老人にはわかっていました。にもかかわらず、老人はサメと闘い続けます。なぜ彼は闘い続けるのか。これが後半の読みどころです。
(2)
「考えるな、じいさん」
サメとの闘いの中で、老人は何度も自分に「考えるな」と言います。
『いま考えられることってあるか、と老人は思った。何もない。何も考えずに、次に襲ってくるやつを待つ。それしかない。すべてが夢だったら、どんなに良かったか。いや、どうかな。いい結果に終わったかもしれんのだから。』
人間の意識というものは過去と未来に引っ張られがちです。老人も、つい「これが夢だったらよかったのに」などと思ってしまう。でもそれではいけないと自分に言い聞かせ、意識を現在に引き戻そうとします。しっかりと「いま」にとどまって、日の前の状況に自分なりの能力を最大限発揮して対応する。老人はひたすらそう考え、実践するのです。
(3)
「いま」に集中する
「できるだけ考えない、将来を予測しない」という考え方は、とても現代的だと思います。最近注目されている瞑想やマインドフルネスの目指すところとも共通します。禅もそうですね。「いま」に意識を集中させることによって、自分の内にある無意識的なものとつながり、体がおのずと動いて、逆境に対処できる。この考え方は、他の作品にもしばしば登場します。「敗れざる者」(1925年)では、言葉で考えていたら動作が遅れて牛に殺されるという、闘牛士の「言葉を介さない」世界が描かれます。 … 頭で考えず、日の前の現実や体の感覚に自分を開いていく。そのことが大事なのだというヘミングウェイの指摘は、身体性を置き去りに進んできた我々現代人にとって、重要な教えなのではないでしょうか。
(4)
意外に勝ちを重ねるサメとの闘い
次に、サメとの闘いを具体的に見ていきましょう。
一騎打ちだったカジキとの闘いと違ってこちらは多勢に無勢。結果としては、老人はボロ負けです。しかし、一つひとつの闘いを見てみると、実は意外と勝っているのです。
たとえば、最初のサメに対しては、老人はサメの「両目を結ぶ線が鼻から背中に走る線と交差する一点に、錯を突き下ろし」て殺しました。 … 次に二匹でやってきたサメは、 …すかさず目を突き刺して撃退。もう一匹とも格闘の末、 …口を開けさせてカジキを放させました。サメは絶命して海に沈んでいきます。こんなふうに、老人はとにかく強いのです。刃物をすべて奪われ、梶棒で闘う四度目の襲来の場面もすごい。 …
(5)
なぜ諦めなかったのか
サメが来たが最後、カジキが食われてしまうことは初めからわかっていたわけですが、老人はそれでも闘い続け、最後までやり抜きました。なぜ老人は最後までやり抜くのか。
一つは、釣り上げたカジキに対して真の尊敬の念を抱いていたからです。
もう一つ、老人が諦めなかつた理由として考えられるのが、少年マノーリンの存在です。老人は最後まで諦めずに闘い抜くことで、本当にすごい漁師というものはこうなのだ、という姿をマノーリンに見せたかったのではないか。そして、漁師として誇り高く生きる意志を受け継がせたかったのではないか。老人は一人でサメと闘っているように見えて、実は二人で闘っていたのです。
(6)
叩きつぶされても負けはしない
老人がつぶやくのが、「だが、人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない」「叩きつぶされることはあっても、負けやせん」という、この小説の象徴的なセリフです。後半の原文は「A man can be destroyed but not defeated」。「destroy」は、イメージとしては体も引き裂かれてバラバラに壊される感じですが、それでも負けないと老人は言っている。これは、「男は負けない」といった典型的なマッチョ宣言だとも解釈できるでしょう。
人生の後半に入った人にとっては胸に泌みるセリフではないでしょうか。客観的に見てダメな人が、主観的な解釈のしようで負けなかったと言い張る話は、読み手もいろいろなダメさを抱えている分、共感しやすい。自分の人生も重ね合わせられる。
以下は、後に書きます。
(7)
少年の存在とは
(8)
多文化小説としての『老人と海』
(9)
なぜキューバ人漁師なのか
(10)
偽装されたアメリカ批判
(11)
アフリカの夢
(12)
老人はヘミングウェイか
<出典>
都甲幸治(2021/10)、『ヘミングウェイ スペシャル』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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