画面の説明

このブログは、左側の投稿欄と右側の情報欄とから成り立っています。

2021年10月3日日曜日

(2475) 『ヘミングウェイ スペシャル』(1-2) / 100分de名著

 【 読書 ・ 100de名著 】老人は海そのものに対して謙虚です。「老人の頭のなかで、海は一貫してクラ・マールクだった。スペイン語で海を女性扱いしてそう呼ぶのが、海を愛する者の慣わしだった」。老人にとって海はいわゆる母なる海でした。


第1回  4日放送/ 6日再放送

  タイトル: 大いなる自然との対峙~『老人と海』①

 

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50

再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55

 及び        午後 00:00~00:25

 

 

【テキストの項目】

(1) アメリカ現代文学のバイオニア

(2) ヘミングウェイの戦争体験

(3) ヘミングウェイらしさの集大成『老人と海』

(4) 前半はカジキとの闘い

(5) 自然と結ぶ友愛

 

(6) 漁師の経験を読者にどう追体験させるか

(7) 大事なことは口にしない

(8) 対抗心から同情へ

(9) カジキとの一体化

(10)     エコロジカルなメッセージ

 

【展開】

(1) アメリカ現代文学のバイオニア

(2) ヘミングウェイの戦争体験

(3) ヘミングウェイらしさの集大成『老人と海』

(4) 前半はカジキとの闘い

(5) 自然と結ぶ友愛

 以上は、既に書きました。

 

(6) 漁師の経験を読者にどう追体験させるか

 またヘミングウェイは、「読者が何を経験するか」を何より重視して小説を書いていました。『老人と海』の主人公は子どものときから老人になるまでずっと漁師をやっていますから、 … 陸ではわからないハリケーンの予兆も海に出ていたらわかるといいます。

 言ってみれば、洋上で誰よりも経験を積んだ結果、もはや常人の域を超えた知識と感覚の持ち主になっているのです。そしてこの小説は、そんな老人がどのように世界を体験しているのかを、読者が一緒に、ありありと体験できるように書かれている。ここがまずもってこの小説のすごいところです。シンプルに書かれているようでありながら、ヘミングウェイの豊かな人生経験と、作家としての高い技術力を感じずにはいられません。

 

(7) 大事なことは口にしない

 老人は、釣り綱を握る手に伝わってくる感触だけで、深海でカジキがどういう状況にあり、どう餌を食っているかがわかるわけです。それを言わない。ここは重要です。何でも口に出してしまう現代社会とは対照的に、この人は、大事なことは絶対に言ってはいけないという考えの持ち主なのです。老人はよく舟の上で独り言を言っていますが、よく読んでみると、それは他愛のないことや、自分を鼓舞する言葉であって、自分の本心や真に大事なことではありません。これも考えてみると矛盾しています。文学は言葉で組み立てる芸術ですから、何を表現するにも言葉を費やさざるを得ないのですが、書かれている内容は、言葉に頼つたら大事なことなどわからないと考えている人の、ほとんどしゃべらない暮らしなのです。

 

(8) 対抗心から同情へ

 翌日の食事用にシイラを一匹釣り上げ、「きらめく友人たち」と老人が呼ぶ夜空の星を眺める老人。「あれほどの魚は見たことも聞いたこともない。なのに、やつを殺さにゃならん。だが、あの星たちは、嬉しいことに、殺さなくていいのだ」。そう思うと、老人は急に、釣り綱でつながっているカジキに哀れみを感じました。

 『あいつ一匹で、いったい何人の腹を満たせるだろう。だが、そういう人間たちにあいつを食う資格があるのか? もちろん、ない。あれだけ堂々とした、風格のある魚を食う資格のあるやつなどいるもんじゃない。』

 しかし、兄弟とすら思えるカジキを殺す意思がなくなったわけではありません。

 

(9) カジキとの一体化

 老人はこんなことを思います。

 『手でさわって、やつを感じたい。やつはおれの宝物さ、と老人は思った。しかし、それだからさわりたいわけじゃない。おれはやつの心臓にさわったんだ。そう、三度目に錯を押し込んだときに』

 老人には、銛を打ち込んで魚を殺したという感覚はないのです。むしろそれは、銛が手の延長となって、心臓に直接触れる行為だったのだと。心臓は英語でハートですから、感情や想いを象徴するものと考えられます。そこに触れるということは、相手の魂の中心に手を突っ込んでつかむ、すなわち相手と一体化することだと言えるのではないでしようか。

 

(10)     エコロジカルなメッセージ

 自然との関係、人間以外の生き物との関係、子どもとの関係――。こうした、現代人が普段あまり考えないことばかりと付き合っているのが、一人でカジキと闘ったこの老人です。そんなことを考えていると計算が狂い、段取りがうまくいかずに仕事が滞ってしまうよ、と思わず言いたくなるようなことが出てきて、ひたすら、それらとどう付き合うかが語られる。それが『老人と海』という小説であり、そここそが、いまこの作品を読む上での重要なテーマなのではないかと思います。それは、人間と自然との、垂直ではない水平な相互関係を再認識する、生態系(エコロジー)の思想です。そのエコロジーの思想が、恵みの海と繊細に付き合う老人の姿をつうじて具体的に語られる。

 

<出典>

都甲幸治(2021/10)、『ヘミングウェイ スペシャル』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



0 件のコメント:

コメントを投稿