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2021年5月29日土曜日

(2349) レイ・ブラッドベリ 『 華氏451度 』(1-2) / 100分de名著

 【 読書 】ディストピア の典型的・模範的な住人である ミルドレッド と、そこからはみ出した「狂人」 クラリス 。開巻早々この二人が相次いで登場することで、この近未来世界の人々が生きる「地獄」の実相が鮮やかに浮き彫りになります。


第1回  531日放送/ 62日再放送

  タイトル: 本が燃やされるディストピア

 

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50

再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55

 及び        午後 00:00~00:25

 

 

【テキストの項目】

(1)    図書館での9日間

(2)    作品執筆の時代背景

(3)    「白紙」の主人公モンターグ

(4)    最初の教師--クラリス

(5)    クラリスのレッスン--「あなた幸福?」

(6)    白さ、月、ろうそく

 

(7)    妻は、死んだように生きている

(8)    機械と人間

(9)    テレビの中の「家族」

(10)   反省的思考が否定される社会

(11)   取り替え可能な存在

(12)   クラリスとミルドレッドの対比

 

【展開】

(1)    図書館での9日間

(2)    作品執筆の時代背景

(3)    「白紙」の主人公モンターグ

(4)    最初の教師--クラリス

(5)    クラリスのレッスン--「あなた幸福?」

(6)    白さ、月、ろうそく

 以上は、既に書きました。

 

(7)    妻は、死んだように生きている

 クラリスと別れ、帰宅したモンターグ。ミルドレッドが寝ている寝室に入っていくのですが、そこは闇と冷たさと死のイメージに満ちています。そのとき、モンターグはさきほどクラリスに問われたことの答えに気づきます。「おれは幸福じゃない」。

 冷たい自分のベッドにもぐり込もうとするモンターグの足に何かが当たりました。それは睡眠薬が入っていたはずの空き瓶。ベッドの上のミルドレッドは薬の飲みすぎで死にかけていました。死にかけの半屍体として登場する。生きていると同時に死んでいる。

 

(8)    機械と人間

 救急で駆け付けたオペレーター(医者)たちは体液を入れ替えることでミルドレッドを修理(治療)しました。人間は機械になっています。お風呂の排水口が詰まったらバキューム装置を携えた作業員が来て「はい、こんなのが取れましたよ」と直してくれた感じです。

 さて翌朝、目覚めると、前夜の記憶はすべてなくなっていました。自殺未遂をしたことや、そうしたくなるほどに空虚だったり悩んだりしていたことを、忘れている。ミルドレッドは修理されて新品になった。この社会では人生はいくらでもリセット可能なのです。

 

(9)    テレビの中の「家族」

 ミルドレッドのお気に入りはホームドラマ。それは双方向的に作られていて、視聴者が

ドラマの登場人物の一員になれる仕掛けになっています。

 テレビ壁に囲まれてドラマにバーチャル参加するミルドレッド。このシーンからは、彼らが暮らすディストピアの特徴が明らかになります。四つほど挙げてみましょう。

 一つは、テクノロジーに媒介されたコミュニケーションが優勢な社会だということ。

 第二に、バーチヤルな存在とのコミュニケーシヨンが優位な社会であるということ。

 

(10)   反省的思考が否定される社会

 第三の特徴は、すぐに答えを迫る社会だということ。立ち止まってゆっくり考えてはいけない。反省的思考ではなく、反射的思考が推奨されている社会なのです。

 質問にはすぐ答える。人が言ったことには直ちに反応する。いままさにそうなっていますよね。SNSでは、送られてきたメッセージに直ちに返事をしないと「マナー違反」と非難される。流れてきた情報に対して、よくよく事実を調べ、じっくり考えてから意見を言いましょう、なんてことは通じない。

 

(11)   取り替え可能な存在

 ディストピアの第四の特徴。この社会ではひとびとはみな取り替えのきく存在であること。他の誰がやっても構わない。誰でもいいのです。

 双方向テレビの中でミルドレッドに与えられるのは、誰でも演じられるような「役」であって、彼女は台本の空欄を埋めるだけの存在になっています。取り替えがきく役割です。

 冒頭の文「火を燃やすのは愉しかった」は、原文では「It was a pleasure to Burn」です。すべてのファイアマンの代理にすぎないモンターグの名前は、冒頭では出てこない。

 

(12)   クラリスとミルドレッドの対比

 クラリスとミルドレッドがきわめて対比的に描かれています。

 ミルドレッドが好きなものは、五〇年代の良きアメリカンライフの必需品です。高度消費社会に生きるマジョリティの戯画になっているのがミルドレッドです。

 一方クラリスは、ミルドレッドが好きなものはことごとく嫌いで、季節の香りを楽しみながら散歩をしたり、リアルな家族との団らんを夜中まで楽しんだりする。

 ディストピアの典型的・模範的な住人であるミルドレッドと、そこからはみ出した「狂人」クラリス。開巻早々この二人が相次いで登場します。

 

<出典>

戸田山和久(2021/6)、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』、100de名著、NHKテキスト(


NHK出版)


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