【 読書 】主人公のガイ・モンターグは30歳、職業は禁じられた本を燃やす「ファイアマン」です。勤続10年、彼はこの仕事に大きな誇りと喜びを感じています。妻の名はミルドレッド。二人は社会が提供するモデルに完璧に適応している夫婦です。
第1回 5月31日放送/ 6月2日再放送
タイトル: 本が燃やされるディストピア
(1)
図書館での9日間
(2)
作品執筆の時代背景
(3)
「白紙」の主人公モンターグ
(4)
最初の教師--クラリス
(5)
クラリスのレッスン①--「あなた幸福?」
(6)
白さ、月、ろうそく
(7)
妻は、死んだように生きている
(8)
機械と人間
(9)
テレビの中の「家族」
(10)
反省的思考が否定される社会
(11)
取り替え可能な存在
(12)
クラリスとミルドレッドの対比
【展開】
(1)
図書館での9日間
ブラッドベリはのちに『華氏451度』に発展する中編を書き始めます。近くにあるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)内の図書館にバスで通い、地下のタイプ室にあるレンタルタイプライターで執筆することにします。焚書社会の話を図書館で書いたとは、何ともよくできたエピソードですね。そしてわずか九日後、ブラッドベリは中編「ファイアマン」を書き上げました。この中編をその後三年にわたって徐々にふくらませ、最終的には倍の長さにまで加筆して完成させたのが、『華氏451度』です。
(2)
作品執筆の時代背景
この小説で描かれる「近未来社会」は、小説が執筆された1950年代のアメリカのパロディだといえます。では、どのような時代だったのでしょうか。四つの特徴を挙げます。
一つは、ファシズムの記憶がまだ生々しい時代だということ
第二は、冷戦と核兵器。アメリカが核兵器を独占していた時代が終わりました
重要なのが三つ目、レツドパージ(赤狩り)。アメリカはパラノイア(偏執的)社会に
第四は、社会がパラノイアックになる一方、大衆消費社会が本格化したのも50年代
(3)
「白紙」の主人公モンターグ
舞台は24世紀のアメリカ。主人公のガイ・モンターグは30歳、職業は禁じられた本を燃やす「ファイアマン」です。勤続10年、彼はこの仕事に大きな誇りと喜びを感じています。妻の名はミルドレッド。二人は社会が提供するモデルに完璧に適応している夫婦です。
モンターグは世の中の本当のありさまについて何も知らない、ある意味純粋無垢な人間です。つまり心は白い紙(タブラ・ラサ)。そこに物語の後半で彼を導く先生役フェーバー(ドイツの鉛筆メーカーの英語読み)が鉛筆でいろいろな知恵を書き込んでいきます。
(4)
最初の教師--クラリス
この小説はモンターグの成長物語。教師との出会いを通じて「体制順応主義者の地獄」から脱出していきます。最初の先生は、クラリス・マクレランという17歳の少女です。
クラリスは、初対面のモンターグを質問攻めにします。クラリスが発する問いにはある重要な特徴があります。一つは、すぐには答えられない問いであるということ。もう一つは、経験の記憶についての問いであること。「お月さまのなかに人が見える」。クラリスは、自然をよく観察し、簡単には答えられない問いについて絶えず考える人です。
(5)
クラリスのレッスン①--「あなた幸福?」
別れ際、クラリスはモンターグに「あなた幸福?」と尋ねます。これは重要な問いです。「あなたの人生は幸福ですか?」という問いは、「本当の幸福とは何か」という問いにつながり、人を考えこませるからです。これが啓蒙の第一歩、というわけです。
モンターグはそれまで、やりがいのある仕事で社会に貢献し、愛する(はずの)妻もいて、人生に自足していました。そんなモンターグに「果たして自分は幸福なのか?」という問いを植えつけたのですから、クラリスはすごい仕事をしたことになります。
(6)
白さ、月、ろうそく
クラリスが登場するシーンでは「白さ」と「月」が何度も強調されます。「ミルクのように色自の顔」「月光に照らされて雪のようにかがやいている」。「クラリス」という名はclarity (明るさ、聡明さ)に通じます。クラリスはろうそくの光にもたとえられます。
月やろうそくのやさしい光に、電気の人工的でヒステリックな光が対比されます。本作ではこのあとも、本を焼き尽くす火炎放射器の凶暴な光と、月やろうそくのやわらかな光の対比など、二種類の対照的な火(光)のイメージが繰り返し用いられていきます。
以下は、後に書きます。
(7)
妻は、死んだように生きている
(8)
機械と人間
(9)
テレビの中の「家族」
(10)
反省的思考が否定される社会
(11)
取り替え可能な存在
(12)
クラリスとミルドレッドの対比
<出典>
戸田山和久(2021/6)、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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