画面の説明

このブログは、左側の投稿欄と右側の情報欄とから成り立っています。

2020年9月27日日曜日

(2104)  デフォー『ペストの記憶』(4-2) / 100分de名著

  

◆ 最新投稿情報

=====

(K1245)  死後の後始末 遺言とセットで <死後事務>

http://kagayakiken.blogspot.com/2020/09/k1245.html

=====

 

☆☆

デフォーの存命時の版画。右(強調のため一部を拡大したもの)はデフォーの隣に悪魔を配し、二人を仲間とみなしたもの。左はデフォーの背中を悪魔が馬跳びで越えようとしている。悪魔の仲間・同類とみなされている

☆☆

(添付図)

 

第4回  28日放送/ 30日再放送

  タイトル: 記録すること、記憶すること

 

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50

再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55

 及び        午後 00:00~00:25

 

 

【テキストの項目】

(1)   油断が招いた第二波

(2)   終息も「神のご意思」

(3)  「それでもぼくは生きている!」

(4)   埋葬地のその後まで描いたデフォーの観察眼

(5)  「ごちゃ混ぜの作品」の魅力

 

(6)   文学スタイルの宝庫

(7)   真の主人公は誰か

(8)   デフォーもペスト?

(9)  他の災害文学との比較

(10)果たしてこれは小説か

(11)災害を記憶するために文学にできること

 

【展開】

(1)  油断が招いた第二波

(2)  終息も「神のご意思」

(3)  「それでもぼくは生きている!」

(4)  埋葬地のその後まで描いたデフォーの観察眼

(5)  「ごちゃ混ぜの作品」の魅力

 以上は、既に書きました。

 

(6)  文学スタイルの宝庫

 三つ目の「ごちゃ混ぜ」は、様々な文学的スタイルが出てきて、読者を飽きさせないということです。

 例えば、H・Fの悩める心のうちを描いたエピソードは、一人称の告白文学として読めますし、「さすらい三人衆」の長いエピソードは、ピカレスクロマン(悪漢小説)として読むことも可能でしょう。そして、『ペストの記憶』は当時の条例や死亡週報をそのまま引用しています。ここにはジャーナリズム的な記録文学の側面が見られます。さらに、フランツ・カフカなど二十世紀の不条理文学を想起させるエピソードもあります。

 

(7)  真の主人公は誰か

 『ペストの記憶』において、真の主人公がいるとすれば、それは誰なのでしょうか。形式的には、語り手H・Fが主人公ということになるでしょう。しかし、本人の体験談はこの本の一部に過ぎません。主人公はロンドンである、と指摘する人もいます。作品のほぼすべてがロンドンにおける出来事に捧げられています。

 この本の真の主人公は、ペストという考えもあります。『ペストの記憶』は、語り手H・Fがペストを議論する場面から始まります。雑談の主題はペストです。以降、視点はひっきりなしに移り変わりますが、すべてのエピソードをつなげる唯一の共通点はペストなのです。

 

(8)  デフォーもペスト?

 デフォーは、なぜこのような不思議な作品を書くことができたのでしょうか。それは、他ならぬデフォー自身が常識の枠から大きくはみ出した人物だったからだと思います。

 作家業だけでなく、変な事業に手を出したり、投獄されたり、政府のスパイを務めたりと、無数の顔を持つ人物、デフォー。 … この本を書いたデフォーという人間もまたペストのように予測不能で、荒唐無稽で、怪物的なエネルギーを持っていたのです。デフォーがペストについて書いたということ自体が、文学史的に見てひとつの奇跡ではないかと思います。

 

(9)  他の災害文学との比較

 最もよく比較される『ペスト』(アルベール・カミュ)は、人間の存在をめぐる哲学的な問いを突きつけています。執筆に五年以上を費やしたとされるこの傑作は、文学作品としての完成度が高く、「ごちゃ混ぜ」の『ペストの記憶』とは読んだ印象がかなり異なります。

 また、『ペスト』は、現実に生じたパンデミックの記録ではなく、いわば人間が直面する様々な極限状況の比喩として疫病流行が扱われています。

 

(10)果たしてこれは小説か

 『ペストの記憶』は、崇高さと卑俗さが独自の融合を遂げ、読者の好奇心を刺激しつつ、倫理的・宗教的な問題にも通じている作品です。周到に構成された文学作品とは異なり、一気呵成に書かれたがゆえに、現代の私たちが読んでも緊迫感と生々しさか充溢しているのを感じることができます。 … 『ペストの記憶』は混沌とした記録文学です。しかし、それこそが『ペストの記憶』の個性であり、他にはない魅力なのです。

 

(11)災害を記憶するために文学にできること

 「これは現代の問題じゃないか」という生々しい感覚は、かえって言葉だけで描かれたものから強く呼び起こされます。それこそが言葉のカであり、文学の持つ喚起力なのです。

 『ベストの記憶』を読むことで、忘れられた災厄の記憶を思い出す。しかもグロテスクな無意識のような形のままで遭遇する。これは、未来の私たちも含めた、あらゆる時代の都市に暮らす人々にとって、意味を持つことになるでしょう。

 

<出典>

武田将明(2020/9)、デフォー『ペストの記憶』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



0 件のコメント:

コメントを投稿