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(K1222) 希望がなくなると絶望になる / 「死ぬこと」にも多様性を(2) <リビング・ウィル>
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同じ問題が市民の側と行政の側でまったく違う見え方をしていると想像できる。特定の立場にいる人物の視点だけで書かれていないところが『ペストの記憶』の優れたところだ。その反面、矛盾があり、一貫性がない
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第1回 7日放送/ 9日再放送
タイトル: パンデミックにどう向き合うか?
【テキストの項目】
(1) 桁外れな執筆意欲を持ったマイノリティ
(2) 縦横無尽にペストを描く
(3) 十七世紀ロンドを襲ったペストの症状
(4) 逃げるべきか、留まるべきか
(5) 「神のご意思」を現代的に読み解く
(6) 抗いがたい好奇心
(7) 怪しげなうわさ、錯乱する感染者
(8) コロナ禍に読むペストの記録文学
【展開】
(1) 桁外れな執筆意欲を持ったマイノリティ
ダニエル・デフォーは1660年、イギリスのロンドンに生まれました。この年はイギリスにおいて、王政が復古した年に当たります。王政復古後はピューリタンへの政治的圧力が強まりました。国教会を批判し、イギリスのキリスト教をよりラディカルにプロテスタント化しようとしたのが、ピューリタンと呼ばれるカルヴァン派の人たちです。
デフォーの家は、このカルヴァン派に属していました。デフォーは、宗教的にマイノリティなので、大学にも入学できませんでした。
政治パンフレット、新聞記事、詩など、デフォーは全集にして53巻という膨大な著作を残していますが、代表作である『ロビンソン・クルーソー』や『ペストの記慮』などのフィクションは実は数が少なく、執筆したのも長いキャリアの後半にあたる約五年間に集中しています。
(2) 縦横無尽にペストを描く
実際に作品を読む前に、『ペストの記憶』の形式上の特長をあらかじめ三つ述べておきましょう。
ひとつは、緻密なプロットといった、現在の私たちが慣れ親しんでいる小説ならではの構成がないことです。語り手のH・F以外に、作品を通して重要な役割を担う登場人物はいませんし、一貫した物語があるわけでもありません。
二つ目の特徴は、当時の公的な資料がしばしばそのまま引用されていることです。
三つ目は、語り手の意見がしばしば矛盾していることです。彼の考え方は決して一貫したものではないのです。
(3) 十七世紀ロンドを襲ったペストの症状
当時はまだペストの原因が特定されておらず、特効薬もありませんでした。ペスト菌が発見されるのは十九世紀末になってからのことで、現在では抗生物質によってペストを治療できますが、十七世紀のロンドンにそんなものは存在しません。
一度かかってしまえば、死ぬ確率が高い恐ろしい病気が広がり始めた――このような状况下で、人はどのような心理となり、どのような行動を取るのでしようか。ここからは、『ペストの記憶』に描かれたパンデミック下の人間心理を見ていきましょう。
(4) 逃げるべきか、留まるべきか
ロンドンを襲ったペストは、最初にシティーの西側で発生し、そこからシティーへ、さらにその東側へと広がっていきました。語り手H・Fが住んでいたのは、シティーの東にあるホワイトチャベルという通りです。比較的呑気に構えていたH・Fは、毎週発表される死亡週報の死者数が増え、金持ちの人たちが次々にロンドンを離れるのを目の当たりにし、自分も逃げた方がいいのかと迷い始めます。
結局、H・Fは、「留まれというのか本当に神の命令ならば、いまからどんな死の危険に取り巻かれようとも、神はぼくをしっかり護ってくださる」と考え、自分はやっぱり残ることにしたと兄に告げます。
以下は、後に書きます。
(5) 「神のご意思」を現代的に読み解く
(6) 抗いがたい好奇心
(7) 怪しげなうわさ、錯乱する感染者
(8) コロナ禍に読むペストの記録文学
<出典>
武田将明(2020/9)、デフォー『ペストの記憶』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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