~ 『100分で名著』 12月19日(月) 22:25 – 22:50 Eテレ 放映 ~
ところがサルトルは『弁証法的理性批判』の中で、民俗学・人類学そのものに否定的な評価を下します。いわゆる「未開社会」は、歴史の「全体化作用」というものに組み込まれておらず、そこには「分析的理性」しかなく、「弁証法的理性」、すなわち世界を歴史的に動かしていくような思考方法はないと、サルトルは論じました。
===== 引用 おわり
レヴィ=ストロースは、サルトルに対決した。
その柱となるのが「構造主義」である。
===== 引用 はじめ P.59 – P.60
… ここから人類の心的構造の働きがつくりだしてきたものすべてを、変換の体系として統一的にとらえることができるのではないかという、きわめて野心的な企てが浮上してきます。レヴィ=ストロースはそのことを実証的に検証してみようと企てます。
===== 引用 おわり
(1)
複雑な婚姻規制
オーストラリア先住民の婚姻制度の形は部族ごとに違っていて、社会組織の形や自然界との関係をつぎつぎと変換していくことによって、自分たちの部族の知的財産を他の部族のものとは異なるように仕立て上げていきます。先住民はその細部の「部品」の構造や全体システムの作動について正確な理解を持っていました。ところがそれを観察していた西欧人にはあまりに複雑すぎてなかなか理解できませんでした。
(2)
自然と文化の矛盾
分類することにより文化がつくられるけれども、それによって自然の全体性は否定され、文化は自然との間に矛盾をはらむことになります。その矛盾を思考によって乗り越えるものとして神話は生まれました。
(3)
虹の蛇
この世界は雨期と乾期のように対立したものでつくられており、どちらか一方だけでは成り立たず、不毛に陥ってしまいます。不毛を乗り越えるには世界が矛盾を引き受け、ネガティブな自然である雨期が、豊かな世界を繰り返し飲み込むことで、生命が発生できるのです。ムルギン族の「虹の蛇」という神話は、そのように読み取れます。
(4)
サンタクロース
レヴィ=ストロースは、… 「死者との交換」のような「野生の思考」の産物が、現代の資本主義文化の深層部でしたたかな活動を続けている様子を、あきらかにしています。それどころか資本主義自体が、「贈与」や「増殖」をめぐる「野生の思考」から生命を得ています(P.78 – P.79)。
<各論>
(1)
複雑な婚姻規制
===== 引用 はじめ P.62
彼ら(オーストラリア先住民)は経済的にはとても貧しく、物質文明にほとんど関心を示しませんが、社会組織に関してはおそろしく知的で、結婚制度などについても四分組織や八分組織といった手の込んだ制度をつくりあげました。 …
こういう制度の形は部族ごとに違っていて、社会組織の形や自然界との関係をつぎつぎと変換していくことによって、自分たちの部族の知的財産を他の部族のものとは異なるように仕立て上げていきます。トーテムの変換過程におおいに柔軟性があって、先住民はその細部の「部品」の構造や全体システムの作動について正確な理解を持っていました。ところがそれを観察していた西欧人にはあまりに複雑すぎてなかなか理解できない。…
===== 引用 おわり
(2)
自然と文化の矛盾
===== 引用 はじめ P.69
神話思考は、この世界が矛盾として成り立っているという認識に立ちます。分類することにより文化がつくられるけれども、それによって自然の全体性は否定され、文化は自然との間に矛盾をはらむことになります。この自然と文化の矛盾は、人間(ホモ・サピエンス)が地上に出現したことから発生した根本的矛盾です。動物たちにはこの矛盾はありません。人間だけが、文化を持つことによって解消不能な矛盾を発生させました。宇宙の中で人間とはいったい何なのか。これは思考に解きがたい謎を突きつけてきました。その矛盾を思考によって乗り越えるものとして神話は生まれました。
===== 引用 おわり
(3)
虹の蛇
===== 引用 はじめ P.72 – P.74
さて(オーストラリア北部のムルギン族の「虹の蛇」という)神話では、 … 大蛇が鎌首を持ち上げると水が激しく湧き上がって、大地は水で覆われて大洪水なってしまいます(蛇が鎌首を持ち上げるのは、天空に虹が架かったことをも意味します)。蛇が池の底に戻っていくと、洪水も退いていきました。
…
この世界は雨期と乾期のように対立したものでつくられており、どちらか一方だけでは成り立たず、不毛に陥ってしまいます。不毛を乗り越えるには世界が矛盾を引き受け、ネガティブな自然である雨期が、豊かな世界を繰り返し飲み込むことで、生命が発生できるのです。自然だけでも、文化だけでも、豊かな生命の世界は生まれず、二つがたがいに入れ替わり、相互混入し、循環をおこなっていくことで、生ある世界は持続できます。生命自体が矛盾そのものなのです。死が生を飲み込み、生が死の中から誕生するという矛盾的過程を繰り返すことによって、宇宙が持続できる。これが人類最初の哲学であり、それはまず弁証法論理として生まれました。
===== 引用 おわり
(4)
サンタクロース
===== 引用 はじめ P.75 , P.77 – P.78
ヨーロッパのクリスマス祭が、古代ローマやケルトの異教の祭がベースになっていることは、よく知られています。 …
冬は古代の異教社会では「贈与の季節」と考えられていました。盛大なお祝いの祭がくりひろげられ、贈り物を交換し合うのです。「十二夜」もこの贈与の祭の一環でした。サンタクロースが子供に贈り物を持ってきてくれるのも、その前身である冬の祭において、子供や若者組の扮した死者に贈り物をするのも、共同体どうしがさかんに贈り物を贈答合戦するのも、みな「冬は贈与の季節」という未開社会いらいの「野生の思考」的な感覚が残されているからです。そこに目をつけたのが、近代の資本主義でした。「冬は贈与の季節」という感覚に手が加えられて、クリスマスは盛大な「商戦」のくりひろげられる時期へと変貌したのです。
===== 引用 おわり
引用:
中沢新一(2016/12)、レヴィ=ストロース『野生の思考』、100分de名著、NHKテキスト
写真:婚姻規則、虹の蛇
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