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=====(K0117) 学生僧侶(悼みとは…大震災と向き合う) / 「寄り添う」(4) <臨死期>
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沼田真佑『影裏』が芥川賞を受賞した。
釣と自然との美しい描写から小説は始まり、ほどなく釣り仲間・飲み仲間が登場する。「そもそもこの日浅という男は、それがどういう種類のものごとであれ、何か大きなものの崩壊に脆く感動しやすくできていた」…これが底流になる。日浅以外にも、様々な人が登場するが、その心理描写にも惹かれた。
断っておくが、私は、小説はあまり読まない。小説を読みなれていない人の感想である。
それでも、ピース又吉『火花』、村田沙耶香『コンビニ人間』は、面白く読んだ。へぇっ? そうだったのか! 次はどうなるのだろう?! とそれなりにワクワクしながら読んだ。ところが、沼田真佑『影裏』は、私にとってはそういう本ではなかった。読むぞ!と決めて読み始めたので、意地で最後まで読んだが、苦痛でもあった。特に事件が起こるわけではないし、話は色々移っていくのだが、その脈絡も分からない。表現力はあるなとは思ったが、まさか、それだけではないよね、でもそれが何だか分からない、という印象が読み終わっても続いた。
賞に選ばれたということは、プロの目から見て高く評価されたのであるから、それが分からないというのは、私がいかに小説音痴かということを自白しているようなものである。私は、小説評論家として生きていくつもりはないので、恥をさらしてよいだろう。
どうやら色々議論があったようだ。
===== 引用はじめ P.508
選考会では、一作しか書いていない新人に芥川賞を与えることへの躊躇いの声もありましたが、その文章力の高さは多くの委員が認めるところでした。===== 引用おわり
一作しか書いていないのに受賞したということは、実質、すごいということだ。
あえて、厳しい評価を拾いあげてみると
(1) 村上龍:推さなかったのは、「作者が伝えようとしたこと」を「発見」できなかったというだけで、それ以外にはない。
(2) 奥泉光:短い。これは序章であって、ここから日浅と云う謎の男を追う主人公の物語がはじまるのではないかとの印象を持った。ぜひとも続きをお願いしたい
(3) 宮本輝:沼田真佑さんの「影裏」は、一回目の投票で過半数を超えた。これは私には驚きだった。そんなに高い評価を選考委員の多くが与えるとは予想していなかったのだ。…私は、受賞に賛成しなかった
宮本輝以外は、さほど厳しくない。上に拾い上げた以外は、高い評価だった。私の感想は、宮本輝に近かったが、これ以上詳しくは、ここでは書かない。
興味深かったのは、村上龍の評だった。小説は「言いたいことを言う」ための表現手段ではない、一方、「伝えたいこと」はある。村上は「影裏」に「伝えたいと」が書かれているのだが、それが露わになったので、「発見できなかった」と言っている。物語は「予定調和」の連続となり、読み手としての想像力を喚起させることがなかった。
そうか。私は「伝えたいこと」自体を読み取れなないので「苦痛」になったが、村上は「伝えたいこと」が分かってしまって、そこが不満なのだろう。
「ぽつりぽつりと置かれた描写をつなぐのは、主人公の背後にまとわりつく彼の存在。まるで、きらきらと輝く接着剤のような言葉で小説をまとめあげている」(山田詠美)。「誰もがぽつん、ぽつんとその場に取り残され、立ち往生している。ここに立ち込める、救われようのない濃密な孤独」(小川洋子)。選者の評を読んでいると、いろいろな読み方があるのだなと、思う。
描写力があるのは、私でもわかるし、選考委員も高く評価している。ただ「うまい」とだけで終わらないのが、選考委員の選考委員たる所以か。
「読者を立ち止まらせるような文章」(吉田修一)、「作者の描写力は新人の域を超えている」(村上龍)、「描写に安定があって、なるほど気持ちがよく読めた」(奥泉光)、「たしかに四人の候補者のなかでは一番うまい」(宮本輝)、「フィッシングや自然の描写は、映像的で力強い。言葉を掴んでくる視力とセンスの良さに感服し、引き込まれて読む」(高樹のぶ子)、「説明を省く。あるいは、圧縮すると、言葉の際に稲妻が光る」(堀江敏幸)、「風景をみっちり描写した時にあらわれる、なんだか妙な、描写をはみ出してしまうもの」(川上弘美)
小説を読むだけでは、受け取られないものが、私にはたくさんある。
読後、解説を参考にして、振り返った。
出典
文芸春秋(第95巻 第9号)(2017/9)、㈱文芸春秋
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