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『100分で名著』 8月7日(月) 22:25 ~ 22:50 Eテレ
放映
【構成】
(1) スタンダリアンから小説家へ
(2) 「異端」の視点から『野火』を書く
(3) 熱帯雨林をさまよう主人公
(4) インテリ田村と「坐せる者等」
(5) 生き延びるための知性とユーモア
【詳細】
(1) スタンダリアンから小説家へ
略
(2) 「異端」の視点から『野火』を書く
略
(3) 熱帯雨林をさまよう主人公
=====引用はじめ
冒頭、主人公の「私」(田村一等兵)が、いきなり頬を打たれるシーンから始まります。田村は肺病を病み、しかしながら病院から追い出されて部隊に戻ったところ、分隊長から「馬鹿やろ。帰れっていわれて、黙って帰って来る奴があるか。帰るところがありませんって、がんばるんだよ」と怒鳴られるのです。=====引用おわり
=====引用はじめ
さて田村は、分隊長から戦力外通告を出され、病院に帰るか、そうでなければ死ねといわれて部隊を追い出されます。最後にもらったのは六本の芋だけ。いわば、六本の芋を退職金として与えられ、追放されたわけです。
=====引用おわり
=====引用はじめ
あちこちで白骨化した死体に遭遇し、またその死体が道しるべとなって密林を進むけれども、靴は破れて、ほとんど裸足。重い小銃を捨ててしまう者もいた。生ものを食べると下痢で体力を奪われるので、調理用の飯盒だけはかろうじてぶら下げている … というような、ほぼ戦闘能力も意欲も消滅している状態です。
=====引用おわり
(4) インテリ田村と「坐せる者等」
孤独にあって、自意識は肥大化していくので、否応なく自己と対話するしかない。
「一種陰性の幸福感が身内に溢れるのを私は感じた。行く先がないというはかない自由ではあるが、私はとにかく生涯の最後の幾日かを、軍人の思うままではなく、私自身の思うままに使うことが出来るのである」
田村はジャングルを彷徨いながら、初めて歩く道なのに、自分はもう二度とここを歩かないだろうという奇怪な実感を抱く。
「比島の林中の小径を再び通らないのが奇怪と感じられたのも、やはりこの時私が死を予感していたためであろう。我々はどんな辺鄙な日本の地方を行く時も、決してこういう観念には襲われない。好む時にまた来る可能性が、意識下に仮定されているためであろうか。してみれば我々の所謂生命感とは、今行うところを無限に繰り返し得る予感にあるのではないだろうか」
このように田村は「死」を抽象的な観念ではなく、極めて具体的な感覚や映像で意識するのです。
(5) 生き延びるための知性とユーモア
=====引用はじめ
劣悪な状況に意識がベッタリと貼りついた者は、自らの境遇を呪うことしかできないから弱い。強いのは、自分を突き放して見ることができる人です。
「名状し難いものが私を駆っていた。行く手に死と惨禍のほか何もないのは、既に明らかであったが、熱帯の野の人知れぬ一隅で死に絶えるまでも、最後の息を引き取るその瞬間まで、私自身の孤独と絶望を見究めようという、暗い好奇心かも知れなかった」
=====引用おわり
そして、自分が置かれている極めて不愉快な逆境から精神的に距離を置くということは、ユーモアの境地に似ている。
出典:
島田雅彦、大岡昇平『野火』~汝、殺すなかれ、「100分DEで名著」、NHKテキスト(2017/8)
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