~ 『100分で名著』 5月22日(月) 22:25~22:50 Eテレ
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===== 引用はじめ
英雄続々と去る。『三国志』の終わり
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曹操は216年に魏王となるが帝位に届かないまま220年に病没。
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後嗣ぎの曹丕が献帝から禅譲を受け魏帝に即位したことで、四百年続いた漢は完全に終焉を迎える。
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一方、219年に「漢中王」(前漢の劉邦が「漢中王」から「漢帝」に昇った故事に倣う)を称していた劉備は、221年に自らが帝位に就き蜀(蜀漢)を建国。漢の継承を宣言した。
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しかし皇帝となった劉備の最初の矛先は魏の曹丕にではなく、義兄弟・関羽の仇である孫権に向けられる。
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情の人たる所以であるが、劉備は「夷陵の戦い」で大敗を喫した。
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229年、孫権は曹丕、劉備に遅れて帝位に就き呉を建国、三つの国家が並び立った。
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その間、劉備は223年、諸葛亮(孔明)に後事を託して死去し、劉禅が即位。
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諸葛亮は劉禅に「出師表(スイシノヒョウ)」を上奏、先帝(劉備)に誓った劉氏の漢による天下統一の実現を目指し、五度にわたる北伐を敢行する。
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その諸葛亮も234年、「五丈原の戦い」で魏の大将軍・司馬懿(仲達)と対峙中に陣没。
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その戦いぶりは敵の司馬懿でさえ讃えた。
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やがて、その司馬懿によって晋(西晋)建国の端緒が開かれ、『三国志』は終焉を迎える――。
===== 引用おわり
小見出しを一通り洗い出すと次のようになる(番号をふった)
(1) 関羽の仇討ち
(2) 劉備の乱命
(3) 南征
(4) 出師表
(5) 諸葛亮の歴史観
(6) 「三顧の礼」はあったのか
(7) 北伐
(8) 五丈原の戦い
<各論>
(1) 関羽の仇討ち
221年に漢(蜀漢)を建国し帝位についた劉備は、軍勢を曹丕ではなく孫権へ向けた。関羽の仇討ちのためである。劉備らしい「仁義」ではあるが、「漢の復興」という理想より情を優先させ、結果として夷陵の戦いで大敗を喫した。「情」をもって乱世を生き抜いてきた劉備だが、「情」によってその死期を早めた。度重なる悲劇(関羽や張飛に先立たれた)や大敗により、心身疲労困憊した劉備は、病床に諸葛亮などを呼び寄せた。
(2) 劉備の乱命
死に臨んだ劉備は、諸葛亮に「もし嗣子(劉禅)が補佐するに値すれば補佐してほしい。もし才がなければ、君みずから(君主の地位を)とるべきである」と遺言を伝えた。実際には、劉禅の器量は補佐するに値せず、さりとて、諸葛亮が君主になることはできない。王夫之は劉備の言葉を「乱命(臣下がおおよそ従うことのできないような、君主が出すべきでない命令)」とした。
(3) 南征
劉備との死別後、諸葛亮は漢室復興に向けて邁進した。孫権との関係を修復し、益州南部の反乱を鎮圧した。結果、南部からの軍事物資が届くようになり、さらにインド方面など国外への交易ルートが開発されて、蜀を潤した。「飛軍」とよばれる異民族部隊を編入した。異民族を教化して移住させ、人口の増加を図った。このようにして、東と南の不安定要素を除いた。
(4) 出師表
出師表は、諸葛亮の漢への忠誠心と北伐への決意が明らかにされた名文として、古来、多くの人々に親しまれてきた、「表」とは、天子に捧げる上奏文である。北伐遂行のため、諸葛亮は前線の漢中に丞相府という自分がトップの組織を構える一方、法の適正な運用にも言及し、さらに誠実・有能な官僚と軍人を劉禅のもと残した。二重政府状態への対処である。
(5) 諸葛亮の歴史観
「賢臣に親しみ、小人を遠ざけたことは、前漢の興隆した原因であり、小人に親しみ、賢臣を遠ざけたことは、後漢の衰微した理由でした」
(6) 「三顧の礼」はあったのか
「三顧の礼」はなく、諸葛亮の方から出向いたという文献もある。しかし、「出師表」を読めば、「三顧の礼」が歴史的事実であることがわかる。「… 先帝は臣の卑しきことを厭わず、みずから身を屈して、三たび臣を草廬に顧みられ、…」。「表」とは公開を前提とした文章なので、嘘を書くことができない。
(7) 北伐
「天下三分の計」の指針であった荊州・益州の二方面からの中原進出は、関羽の荊州失陥により不可能となった。蜀軍は長安を中心とした関中平原を目指すことになったが、勝機の見出しにくいものであった。北伐は都合七年で、五回の出兵となった。
(8) 五丈原の戦い
第五次北伐で諸葛亮は五丈原に布陣したが、病魔に侵され、ついに陣中で五十四歳の生涯を閉じた。
曹操、孫権、劉備、諸葛亮ら英雄たちは、信じるもののためその命を燃焼させた。彼らは誰も最終的な勝者となっていないが、混迷の時代を生きる私たちに多くの教訓をもたらしてくれるのではないか。
出典:
渡邉義浩(2017/5)、
陳寿『三国志』~真の「英雄」とは何か~、「100分DEで名著」、NHKテキスト
地図【221年頃】、「出師表」
◆ 6月号予定 テキスト:5月25日発売予定
『維摩経~あらゆる枠組みを超えよ!』。講師:釈撤宗(如来寺住職・相愛大学教授)
かの聖徳太子が日本に紹介した仏典『維摩経』。病気になった在家仏教信者・維摩と彼を見舞った文殊菩薩との対話を通して、「縁起」や「空(クウ)」など大乗仏教の鍵となる概念をめぐる考察が、まるで現代劇のように展開される。この「維摩経」を現代的に読み解く面白さを、宗教学者で僧侶の釈撤宗氏が解説する。
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