※ 長いです。
最初に目次を示します。関心のある部分のみを部分的に読んでいただいて、問題ありません。
兵庫県知事選を巡り6つの対立軸があったが、結果としては、いずれも斎藤氏に有利に働いた。それが斎藤氏の勝因だと思う。
1. 「斎藤か斎藤以外か」
2. 「デマを流すマスメディア
VS 真実伝えるネット」
3. 「『旧態依然』『既得権益』 vs. 改革者」
4. 「稲村か稲村以外か」
5. 「稲村か斎藤か」
6. 「ファクトかデマか」
7. 選挙後の、稲村氏と立花氏のコメント
「有権者が既成政党と距離を置く現状が浮き彫りになり」、「国政選挙の戦略も見直さなければならない」との認識は広がっている。「斎藤氏の勝利は、新聞やテレビなどの報道より交流サイト(SNS)がより大きな影響を及ぼした結果だと指摘されている」(産経新聞 2024/11/19)
良いことか良くないことか分かは別にして、現実はこのような動きになっていく。何が本当か、分かりにくい時代になった。マスコミやネットの情報に惑わされることなく、適切に判断する「国民の能力」が、とても大切になっていく(藤波)。
1. 「斎藤か斎藤以外か」
1.1. 「斎藤か斎藤以外か。私は絶対、負けるわけにはいかない」。斉藤氏は選挙戦初日から繰り返しこう訴え、改革を継続するとして支持を求めてきた
1.2. 「斎藤か斎藤以外か」の構図は、インターネットを中心に逆境の斎藤氏への同情を呼ぶ「判官びいき」の世論も醸成した
1.3. 「反斎藤」で一致しながら個別の対応はバラバラの各党の動きが、四面楚歌だった斎藤氏の猛追を許した点は否めない
(産経新聞
2024/11/18)
2. 「デマを流すマスメディア VS 真実伝えるネット」(コミュニケーション研究所)
2.1. SNSの力
「序盤の劣勢をSNSの力で逆転した初めての大型選挙ではないか」(立民の小西洋之参院議員)
2.2. 斎藤氏 対
稲村氏
11月16日時点の斎藤氏と稲村氏のX、Instagramのフォロワー数、およびYouTubeのチャンネル登録者数を以下(左下のグラフ:略)に示します。斎藤氏のフォロワー数は、いずれも稲村氏の10倍以上となっており、ネット上では勝敗がついている印象を受けます。(ネットコミュニケーション研究所)https://netcommu.jp/Report/hyogochijisen2024
なお、以下のようなことはあってはならない。徹底的に調査してほしい。「17日投開票の兵庫県知事選で敗れた元尼崎市長の稲村和美氏を巡り、後援会が開設した公式X(旧ツイッター)アカウントが選挙期間中、何者かによる一斉の虚偽通報が原因で2回凍結された」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF21CLX0R21C24A1000000/
2.3. 立花氏
斎藤氏は動画においても稲村氏を圧倒していましたが、今回の選挙において、YouTube上でより大きな影響を及ぼしたと考えられるのは、斎藤氏を支持・支援するネットワークでした。特に、同じく立候補していた立花孝志氏は、自身のフォロワー数63万人を誇るYouTubeチャンネルで100本以上の動画を投稿し、これらは合計で1,500万回近く再生されました。(出典は同上) 立花氏の「デマ」については、後出(「ファクトかデマか」)
2.4. SNSで広がったもの
疑惑は捏造だとする見方がSNSなどで広がった。斉藤氏を応援するとして無所属で出馬した「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、「斎藤氏は被害者」などと訴える場面もあった。(産経新聞 2024/11/18) … 後出(「ファクトかデマか」)
「外国人の地方参政権」については、後出(「稲村か稲村以外か」)
3. 「『旧態依然』『既得権益』 vs. 改革者」
3.1. 「これは『旧態依然』『既得権益』に対する嫌悪や、それに剥奪されてきたと感じる人たちがあげる狼煙なのではないか」(国民民主の伊藤孝恵参院議員)
3.2. 選挙戦最終版の14日には、県内の22市町が稲村氏支持を表明したが、斎藤氏の勢いの前に敗れた(産経新聞 2024/11/18)。稲村氏支持22市長 4勝18敗(産経新聞 2024/11/19)
『旧態依然』『既得権益』を守りたい「県内の22市町」が、稲村氏と結託したとみなされ、逆効果だったのではないか(藤波)
3.3. 大濱崎卓真氏(選挙コンサルタント・政治アナリスト)の見解
市長有志22人が最終盤に表明をしたことは、終盤戦において、稲村陣営の「焦り」を顕在化しただけでなく、既得権益側という位置付けを確定させるのに十分です。既得権益に対抗するという斎藤前知事のストーリーを、稲村氏が飲み込んでしまったこの出来事は、最後の3日間で選挙戦の構図を確定させてしまい、終盤の差が広がる結果につながったことは間違いありません。
https://news.yahoo.co.jp/articles/fad1771764de45da6ac0b992e362475877898725/comments
バラバラだった「稲村以外」が最後は斎藤氏に集まった。
4.1. 外国人の地方参政権 後出(「ファクトかデマか」)
https://news.yahoo.co.jp/articles/4fc301892285921d6a4d4b158dff1674a9e4c777?page=1
4.1.1. 外国人の地方参政権(1)
前知事の失職に伴う兵庫県知事選挙に立候補している稲村和美氏について、「当選すると外国人の地方参政権が成立」するという言説が拡散していますが、誤りです。稲村氏は外国人参政権を公約にしておらず、この言説を自ら否定しています。
4.1.2. 外国人の地方参政権(2)
自民党の岡田ゆうじ神戸市議会議員は、自身のアカウントで「稲村氏は極左の『緑の党』の共同設立者の一人で、緑の党は外国人参政権を主要政策としている。知事選出馬に際し、緑の党の役員は降りたようだが、Wikiには記載が残っている。不適格では」と10月28日に投稿している。
4.2. 行き所を失った票の行方
4.2.1. 自民党、保守層
自民党が独自候補を断念し、さらに、斎藤氏、稲村氏、清水氏に分裂し、自民党員は困惑した。特に保守層は「3人とも投票したくない。白票しかない」と思っていたが、「兵庫県知事選情勢、稲村氏わずかにリード 斎藤氏が猛追」(共同通信社 2024/11/09)というニュースが流れた。稲村氏は尼崎市で「性的少数者に対するパートナーシップ宣誓」をしており(ここまでは確認されたファクト)、「外国人参政権に賛成やLGBT法に賛成しており左寄りだ」という懸念から、稲村氏だけは避けたいとした。斉藤氏でも清水氏でもよかったが、斎藤氏の方が稲村氏に勝てる可能性が高いので、斎藤氏に投票した。斉藤氏を積極的に支持しているわけではない(藤波が聞いた話)
4.2.2. 消去法
期日前投票を済ませた兵庫県西宮市の50代の男性会社員は「これは、という候補者がいなかった」と嘆き、最後は「消去法」で投票したと語った(産経新聞 2024/11/18。彼が誰に投票したかは不明)
4.3. 何を信じればよいのか
公約はあてにならない。当選するためなら、自分の信条に反することでも、不可能なことでも、政治家は平気で嘘を語る。石破首相は次々と公約を破って平然としている。民主党は政権奪取時のマニフェストの多くを実現しなかったが、反省もしていない。トランプ次期大統領の経済政策は矛盾だらけで、実現は難しいと言われている。
「デマを流すマスメディア」は何の反省もせず(選挙当日のテレビを見たが、サンテレビは反省したが、NHKは自らを反省することはなかった)、「真実伝えるネット」も怪しげな情報も流している。
今回では稲村氏や斎藤氏が過去に何をしてきたか、何を言ってきたかをしっかり調べるのが重要だろう(マスメディアは自分の嫌いな報道をしないが、ネットを見ればわかる。ファクトと確認できたことだけを信じればよい)。「過去はそうだが現在は違う」と言うかもしれないが、それなら「現在はこうだが将来は変わるかもしれない」ということになり、今言っていることを信用しにくい。
(以上、藤波)
「これだけは言っておきたい。選挙は一時の情熱ではなく、政党や候補者の理念、政策、実績を冷静に判断して投票すべきである」(鹿間孝一氏:ジャーナリスト、コラムニスト)
https://www.sankei.com/article/20241120-4KINZOBVDNN27C4T2RYQY2EN4E/
5. 「稲村か斎藤か」
稲村氏と斎藤氏と、何が違っていたかを確認しておく。
5.1. 演説:斎藤氏は一貫していたが、稲村氏は変化した
斎藤氏の演説の内容は告示日と最終版でも大きな変化は見られず、終始一貫したものだった。 … 「改革」「県政」「必要」「支援」および、県立高校への投資という実績を強調するため「学校」「子供」
稲村氏の演説は当初は自らの政策を訴える内容が多かったが、終盤には対立候補批判が増えるなど変化がみられるようになった。
以上、産経新聞(2024/11/21)
5.2. 声
以下、「声」を4つ、拾い集めてみた。出典は、https://news.yahoo.co.jp/articles/fad1771764de45da6ac0b992e362475877898725/comments (前出)
5.2.1. 声(1)
稲村さんは斎藤さんや立花さんの悪口ばかりの選挙戦だった。かたや斎藤さんは名指しで悪口は言わず、自分の信条・誠意を貫いて支援を呼び掛けた。見えている景色が最初から違うんです。
5.2.2. 声(2)
いや、間違いなく稲村さんは斎藤候補と争おうとしてたと思うよ。でもそもそも県民はそこを争点だと思ってなかったんだよ。
実直に政策と実績を見て、県庁ではなく県民の方を向いて兵庫県の未来が潰れてしまわないように県政を進めてくれるのは誰なのか、有権者一人ひとりが考えて投票した結果だと思うよ。斎藤候補と戦って、県民に負けたんだよ。
5.2.3. 声(3)
第一声が県庁前で県庁職員向けであったこと。県民より県庁職員の既得権益ファーストが露わになりました。
5.2.4. 声(4)
根本的には、リハックの討論会で、稲村さんはまったく質問に対する返答がなってなかったのが決定打となっている気がする。あの段階では、しっかり質問に返答出来ていれば稲村さんに投票するつもりでした。
その後も他人の悪口ばかり、風通しが良い県政ってなんなのって感じです。結局、斎藤さんしかないという選択でした。
【ReHacQ討論会】兵庫県知事選挙【候補者7人vs高橋弘樹】
ReHacQ−リハック−【公式】 2024/11/01
5.2.5. 「声」総括
引用事例のバランスの悪さが気になるが、「稲村氏の演説のここが良かった」という記事に巡り合えなかった。私のパソコンにフィルターがかかっているのだろうか?
6. 「ファクトかデマか」
6.1. 「当選すると外国人の地方参政権が成立」するという言説が拡散 (前出)
これに対して「稲村氏は外国人参政権を公約にしておらず、この言説を自ら否定しています」(前出)と反論したが、これでは不十分だったと思う。
稲村氏は芦屋市長であったとき、自らの退職金を1年目の500万円から最終、3期合計5,000万円に引き上げている。(注)以下のサイトでは、稲村氏の実績も評価している。
https://iscgh2022.jp/inamura-kazumi-taisyokukin/
もちろん「退職金を合計5,000万円にする」という「公約」は掲げていなかっただろう(私は尼崎市民でないので読んでいない・未確認)。「公約にあげていないから、しない」という論理は成り立たない。更に「稲村氏は極左の『緑の党』の共同設立者の一人で、緑の党は外国人参政権を主要政策としている」(前出)という経緯(ファクト)がある。「当選すると外国人の地方参政権が成立」は、「ファクト」を積み重ねて帰結し得る、合理的な推論で「デマ」に当たらないと思う。断定的な表現になった場合には微妙だが、選挙戦になると皆さん断定的な表現になる。
マスコミ(及び稲村氏?あるいは、その支持者?)はこれを『ネットはデマをふりまく』と決めつけ、攻撃した。結果として、稲村氏は多くのネットを敵に回してしまったのだろう。(以上、藤波)
以下、https://news.yahoo.co.jp/articles/fad1771764de45da6ac0b992e362475877898725/comments (前出)
ネットの情報は、昔も今も玉石混淆です。
ですが、TV等の情報が玉ではない事が周知の事実となった今多くの人はネットでの情報から、「自分の信じる情報」、「理屈の通った情報」を追うようになりました。
今回も、メディアが出す数々の違和感ある情報に反発する形で「より論理的と思える情報」や、問題とされる事よりも「今後の県政を動かせる実行力等に期待した内容」を、是とする人が多かったのだと思います。(括弧は藤波が追記)
(以下、藤波)ネットのデマに振り回される人もいるが、マスコミからの情報のみに頼るのではなく、玉石混交のネットの中から信頼できる情報を引き出して、妥当な判断を導き出している人もたくさんいるだろう。日本人は、バカばかりではない。
6.2. 「疑惑は捏造」だ、「斎藤氏は被害者」だ (前出)
これはデマともファクトとも言えないと思う。兵庫県で折角「県議会調査特別委員会(百条委員会)」や「弁護士でつくる第三者委員会」を立ち上げたのに、その結論が出ないままに県議会が「知事は資質欠く」という恣意的(証明不可能)な理由で不信任案を通してしまったので、公式な結論はまだ出ていない。
そこで、“私は「疑惑は捏造」だ、「斎藤氏は被害者」だと思う”と言うのも自由だし、“私は「疑惑は捏造」と思わない、「斎藤氏は被害者」だと思わない”と言うのも自由だろう。今の時点で「疑惑は捏造」「斎藤氏は被害者」をデマだと決めつけることはできない(ただし、その根拠に嘘があれば、デマと言える)。デマだと決めつけるにはそれなりの根拠が必要だ。自分の気に入らない意見に安易に「デマ」というレッテルを貼って流布すれば、それこそ「デマ」と言われかねない。(以上、藤波)
6.3. 立花氏が流したという「デマ」
立花氏が流したという「デマ」については、私は直接読んだり聞いたりしていないのでよく分からない。解説記事などを読むと、事実に即しない情報や悪質なところも多々あり、かつ、少なからぬ影響があったようだ。
問題があるところについては、断罪しなければならないだろう。また、悪質なデマに惑わされないためにどのようにすればよいか、考えていかないといけない。民主主義を守るために、デマ対策は今後必須になっていくだろう。(以上、藤波)
ちなみに、斎藤陣営は「(立花側と)一切連絡を取っていない」と言っている。
以下、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/84446?page=4
もう一つ、支持者動員の大きな要因になったのが、斎藤を当選させるために出馬したというNHK党の立花孝志による発信だ。選挙制度を揺るがす、その脱法的行為に加え、YouTubeやXで文書問題に関するデマ含みの暴露情報、元県民局長の人格を貶めるような憶測、百条委の県議たちへの攻撃を流して耳目を集めた。斎藤の街宣終了後、居残った聴衆に向けて行う「ハイエナ街宣」(と本人が称していた)も人気を集め、多くの人たちがこれを「真実」と受け取っていた。
6.4. 「敗因はデマ」とは言えない
事実でない情報の拡散や悪質なデマもあっただろうが、稲村氏は多くの要因があって落選したのであって、「デマで落選した」とは言えないと思う。そう言って終わらせると、大切なことを見落としてしまう。(藤波)
7. 選挙後の、稲村氏と立花氏のコメント
7.1. 稲村氏
「候補者の資質を問うというより、何を信じるかということが大きなテーマになった選挙だと感じています」と振り返った。また、日に日に注目度が増した選挙戦に「斎藤候補と争ったというより、何と向かい合っているのかなという違和感があったのは事実です」と首をひねった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c367b06053d50bf6225fdb486e28fb194610713e
7.2. ニコニコニュースの開票特番
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202411170001755.html
7.2.1. 稲村氏
県職員や県民とのコミュニケーションを訴えたが、その点があまり争点にならなかったと語った。また、斎藤知事時代の県政のガバナンスの問題点が知事選の発端として「もともとこの問題がスタートした経緯と、今回選挙戦で(ネットで)拡散したストーリーに少しズレがあるのではないか」と振り返った。
7.2.2. 立花氏
「ネットの特徴で、テレビを見ていると総合的にやるので、自分にいいことも言ってくれるし自分に嫌なことも言ってくれるから、なるほど、と思うでしょうけど、ネットって自分が心地いい情報しか聞かない人が多い」と例をあげ「今の稲村さんの話を聞いていると、何で自分が落選したのか、よく分かっていらっしゃらない」と指摘した。