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=====(K0031) 絶望のどん底 / 新しい人生が始まった(7) <自立喪失からの脱却>
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『100分で名著』 6月5日(月) 22:25 ~ 22:50 Eテレ
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維摩経は、お経らしくないお経である。早い時期に日本に伝わり、その後の日本の仏教に多大な影響を与えたにもかかわらず、あまり知られていない。文学性に富んだドラマ仕立てになっており(P.4,21)、物語を読みすすんでいくうちに「慈悲」「空」「不二の法門」など、仏教を深く学べる構成になっている。
他の多くの経典は釈迦が教えを説き、それを弟子たちや菩薩たちが聴聞するスタイルで書かれているのに対して、『維摩経』は「維摩」という在家仏教信者が教えを説くというユニークなお経である(P.5)。
仏教経典というと「俗な暮らしを捨ててストイックに生きろ」とか「成仏した先にはこんな素晴らしい世界が待っている」といったことが書かれていると思われがちだが、『維摩経』にはそのようなことはほとんど書かれていない。じつはこの経典には、それまで当たり前だと思っていたものを一度解体して、新たな価値観や視点を作り出すための手順、プロセスが示されている(P.6-7)。
聖徳太子の編集とされている日本最古書であり仏典注釈書である『三経義疏』の中に、『法華経』『勝鬘経』とともに『維摩経』が取り上げられている(P.20-21)。これらはいずれも、出家の形態を重要視しない経典であり、聖俗平等に救われる教えであり、むしろ在家・在俗重視の経典である(P.66)。『維摩経』が示した「出家にこだわらず、世俗の中で執着せずに生きる」という新たなライフスタイルは、その後の日本仏教のベースとなっていった(P.65-66)。
維摩は、お経の中で、それまでの仏教のスタンダードな教義や考え方を根底からひっくり返していく。在家者にとっては尊敬の対象であるはずの釈迦の弟子たちや菩薩たちと維摩が真正面から対峙し、「あなたの言っていること、やっていることは本当に正しいのか」と問い、次から次へとやりこめていくストーリーは、まるで痛快活劇を見ているかのようである(P.5)。
『維摩経』は、面白いだけでなく、仏教の本筋を外していない。ふと気づくと仏教についての理解が深まっているという、なんともよく考えられた構成になっている(P.5-6)。
出典:
釈徹宗、『維摩経』~とらわれない、こだわらない~、「100分DEで名著」、NHKテキスト(2017/6)添付:「仏教思想の大転換」。写真は、維摩居士像(興福寺蔵。写真提供/飛鳥園)