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2019年4月19日金曜日

(1575)  マルクス・アウレリウス『自省録』(4-1) / 100分de名著

 
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第4回 22日放送/24日再放送


  タイトル: 「今ここ」を生きる
 


【テキストの項目】

(1)   死なない人はいない
(2)  「今」を生きる
(3)  「ここ」を生きる
(4)   他者とのつながり
(5)  『自省録』を超えて
 

【展開】

(1)  死なない人はいない

 確実なことは二つあります。
 一つは、人は必ず死ぬということです。
「あらゆるものは本性的に死ぬものである」(一〇・一八)
 もう一つは、死がどのようなものであっても、それが別れであるということです。別れである以上、悲しくないはずはありません。
 
 アウレリウスは次のように書いています。
「死は出生と同じく神秘である」(四・五)
 生も死もそれ自体では善とも悪ともいえないともいえます。アウレリウスは、誰もが避けることができない死と向き合うために必要な生き方について積極的な提言をしています。
 

(2)  「今」を生きる

 アウレリウスは次のように書いています。
「各人は今だけを生き、かつそれだけを失う」(一二・二六)
「各人は束の間のこの今だけを生きている。それ以外はすでに生き終えてしまったか、不確かなものだ」(三・一○)
 過去は、もはやどこにもありません。未来は、想像している通りなることはなく、不確かなものです。人は「束の間のこの今」だけを生きています。
 
「今この世から立ち去ることができる者のように、どんなことでも行い、語り、考えられるようにせよ」(二・一一)
 生きることの主眼は、今できることの最善を尽くすことであり、この人生に積極的に生きる姿勢を示しています。
 
「お前がこんな目に遭うのは当然だ。今日善くなるよりも、明日善くなろうとしているからだ」(八・二二)
 人は過去においても、未来においても幸福になることはできません。今しか生きられず、今しか幸福になれないということを忘れてしまうのです。
 

(3)  「ここ」を生きる

「お前が今いる状況ほど哲学するために適した生活はない」(一一・七)「宮廷でも善く生きることができる」(五・一六)
 ここではない別のどこかに自分の人生があると思わないで、ここで生きるという現実しかないことをアウレリウスは自分に言い聞かせています。
 

(4)   他者とのつながり

「枝は隣の枝から切り離されたら、木全体からも切り離されないわけにはいかない。まさにそのように、人間も一人の人間から引き離されたら、共同体(エコノーニア)全体から離脱することになる。ところで、枝は(枝とは)別の者が切り離すが、人間は隣人を憎み背を向けることで、自分で自分を隣人から分離する。しかし、同時に共同体からも自分を切り離してしまうことになるのを知らない。」(一一・八)
 共同体(エコノーニア)は、人と人とのつながりという意味です。
 たった一人の目の前にいる人に憎しみを持つだけでも、人とのつながりから自分を切り離してしまうことになる。学校で誰かをいじめる人がいれば、そうすることで自分がいじめる人をグループから切り離しているようでいて、実は、自分を切り離しているのです。
 

(5)  『自省録』を超えて

 人の生と死は価値から独立しているのか。人の生死は善悪無記であり、それ自体では善とも悪とも決められないのかどうか。ただ生きるのではなく、「善く」生きることに価値があるとすれば、善く生きられない人は生きる価値がないのか。
 「善く」生きるという時の「善く」ということの本来的な意味は「幸福に」という意味ですが、今の時代は生産性、つまり何かができることに価値があり、何かを作り出し、さらに成功することが「善く」、つまり「幸福に」生きることだと考えている人が少なくないように思います。
 その一方、自分の価値は何かができることにあるのではなく、生きていることにあると思っている人もいます。
 

 すぐに答えを求める人にとっては、『自省録』はなかなか近づきがたい本に思えるかもしれません。どこからでも読み始め、読み終えられることができる『自省録』は、枕頭の書にすることもできます。まとまった時間をかけなければ読めない本ではありません。
 

<出典>
岸見一郎(2019/4)、マルクス・アウレリウス『自省録』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)

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