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2021年7月10日土曜日

(2391) ボーヴォワール『老い』(3-2) / 100分de名著

 【 読書 ・ 100de名著 】ボーヴォワールとサルトル、ランズマンとのあいだの三角関係を維持し、この「均衡」を保つためにボーヴォワールは、二人が一緒にいたときに何を話して何をしたかを、もう一人に細大漏らさず伝えたそうです


第3回  14日放送/ 16日再放送

  タイトル: 老いと性

 

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50

再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55

 及び        午後 00:00~00:25

 

 

【テキストの項目】

(1)   性を問うことは人間を問うこと

(2)   近代になって否定された老人の性

(3) 「老いて枯れる」は虚像

(4)   高齢男性の性

(5)   生殖能力が男性性の担保に

(6)   高齢女性の性

 

(7)   肉体への嫌悪、世論の圧力

(8)   老人性愛文学の達成

(9)   高齢女性の性愛文学

(10)     ボーヴォワールの性愛生活

(11)     自由を手放さなかったからこそ書けた

 

【展開】

(1)   性を問うことは人間を問うこと

(2)   近代になって否定された老人の性

(3) 「老いて枯れる」は虚像

(4)   高齢男性の性

(5)   生殖能力が男性性の担保に

(6)   高齢女性の性

 以上は、既に書きました。

 

(7)   肉体への嫌悪、世論の圧力

 またボーヴォワールは、「幸福な性生活をもった者でも、その継続を望まない理由をもつことがある」と言っています。その理由の一つは「自分自身に対する自己愛的な関係」で、「自己の肉体に対する嫌悪は、男女両性において種々の形をとるが、老齢も男女それぞれにこの感情をいだかせうる」と述べています。もう一つの理由は「世論の圧力」です。

 歴史も文学も、年取った女性の性愛について確実な証言をわれわれに残していない。この主題は、年取った男性の性愛よりもさらにいっそうタブー視されているのである。

 

(8)   老人性愛文学の達成

 人は老いても有性の個人であり続ける。これは男性にとっても女性にとっても同じで、男性が勃起できなくなり、女性が閉経したとしても、無性化されたわけではない。

 では、彼らが性愛を享受するにはどのような可能性があるのか。そこで出てくるのが性幻想、すなわち表現としてのポルノグラフィーです。文学のすごいところです。

 「老人性愛に関するもっとも痛烈な証言の一つ」として『老い』に取り上げられているのが、谷崎潤一郎の『鍵』と『瘋癲老人日記』です。それと、川端康成の『眠れる美女』。

 

(9)   高齢女性の性愛文学

 夫を亡くした60歳近い女性が亡夫の友人と恋愛をする桐野夏生の「魂萌え!』(2005)69歳の女性ドキュメンタリー作家と年下男性の性愛を描いた岸恵子の『わりなき恋』(2013)70代女性の性愛を真正面から描いた松井久子の『疼くひと』(2021)が出ました。

 こうした作品がここ15年ほどで出てきた背景には、女性解放の歴史と高齢化があります。第二波フェミニズム以降、女性の性欲肯定という世界史的な流れがあり、それを体験した人たちが順調に老いていったのです。

 

(10)     ボーヴォワールの性愛生活

 ボヴォワールは、「僕たちの恋は必然だが偶然の恋も知る必要がある」というサルトルの申し出を受け入れて、婚姻によらないパートナー関係を結んできました。「偶然の恋を知る」ということは、互いに、他の相手と恋愛することを認めたということです。

 ボーヴォワールは39歳のとき、アメリカ人の作家ネルソン・オルグレンに出会い、心身ともに彼に溺れます。40代になった彼女は、オルグレンとの出会いによって「自分は肉体を取り戻した」と言っています。

 

(11)     自由を手放さなかったからこそ書けた

 サルトルは誘惑者としては超一流で、あまたの女性の関心を惹きつけ、心理的に征服していました。ボーヴォワールは仕事でアメリカに行ってオルグレンに出会い、恋に落ちたわけですが、そのとき彼女は自分の情動の傾きを一切自制していません。

 ボーヴォワールが実践し続けた自由、そして正直さは、本人にとっても周囲にとっても残酷なものでした。しかし、そういった彼女の思想と実践がなければ、規範によって抑圧される老人の性というものをここまで総体的かつ綿密に書くことはできなかったでしょう。

 

 

<出典>

上野千鶴子(2021/7)、ボーヴォワール『老い』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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