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2019年3月23日土曜日

(1548)  夏目漱石スペシャル(4-2) / 100分de名著

 
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(K0689) 「人工透析」中止問題(2) / 最期の選択(5) <臨死期>
http://kagayakiken.blogspot.com/2019/03/k068925.html
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第4回  25日放送/ 27日再放送

  タイトル:『明暗』の「奥」にあるもの
 
放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50
再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55
 及び        午後 00:00~00:25
 


【展開】

(1)   スパイ小説『明暗』

(2)  『明暗』の設定とストーリーライン

(3)   <バトルその1> お延 vs 津田

(4)   <バトルその2> 吉川夫人 ―― 支配欲が強く、おせっかいな後見人

(5)   <バトルその3> お秀 ―― 常識派ぶって説教する妹

(6)   小説の言葉をめぐって

(7)  「奥」をつくる硬軟の使いわけ

(8)   <場外バトル> 小林 ―― 「一枚上手」のたかり魔

(9)   <最終バトル> 清子 ―― 天然の妖気で振りまわす元カノ

(10)「奥」=他者への不安を描いた漱石

 

【展開】

(1)  スパイ小説『明暗』
 『明暗』が面白いのは、主人公に具体的な行動があまりないのに、読者から見ると作品全体が動きに満ちていて、ぐいぐい引き込まれてしまうということです。


(2)  『明暗』の設定とストーリーライン
 小説の書き方にストーリーライン、アウトライン、プロットがあります。プロットは設計図、アウトラインは概要、ストーリーラインは物語の全体像です。この小説のストーリーラインには、三つのポイントがあります。

   お延の「どうしてもお芝居に行きたい」というこだわり
 お延が芝居に見に行く日程と津田の手術の予定が重なってしまいました。何と百ページ以上かかって結局お延は芝居に行くことになります。

   お金の問題
 お金を借りようとするのですが、いろんな条件を提示されたり、意地の張り合いがあったたりと、心理的にも実際上もさまざまな取引がなされます。

   津田の温泉での療養
 表向きは療養のためですが、実はかつての婚約者である清子に会いに行くための旅です。
 

(3)   <バトルその1> お延 vs 津田
 お延はキャッチフレーズを付けるならば、「ちょっぴりわがままな行動派探偵」という感じになるでしょうか。我を通しつつ、一方で夫の不倫願望についても、直感的に何か不自然なものがあることを見抜き、するどく肉薄していきます。
 

(4)   <バトルその2> 吉川夫人 ―― 支配欲が強く、おせっかいな後見人
 「目立ちたがり屋のおせっかいおばさん」とでも言っておきましょうか。彼女は、自分がつねに座の中心にいないと気がすみません。
 かつて清子を津田に紹介し、それが破談になって、清子は別の男と結婚しています。しかし、津田が清子のことが忘れられないのだと見抜き、温泉旅行に行くように津田をそそのかします。
 

(5)   <バトルその3> お秀 ―― 常識派ぶって説教する妹
 津田の病床で生ずる、お金の貸し借りをめぐるつばぜり合いが描かれています。津田とお秀の対決であるかのように見えて、お延が参戦し、実際にはお延と義妹との戦いに発展し、お延が華麗に勝利します。『明暗』の見せ場のひとつでしょう。
 

(6)   小説の言葉をめぐって
 「言文一致運動」。時代にふさわしい、人間のこころの動きを捉えるような書き言葉を編み出そうと、小説家やジャーナリストが一生懸命いろいろな工夫をします。もちろん漱石もその渦中にいました。
 

(7)  「奥」をつくる硬軟の使いわけ
 『明暗』で人々が関心を持つのは、表から見えない隠れた「奥」です。「奥」を知ろう見ようして動き回り、ぶつかり合う。
 小説の読み所は、緊張感に満ちた人物たちの「対決」ですが、これらの「対決」が決して表立った戦争にならないことに注意しなければなりません。
 「対決」は「奥」をめぐって生じる。「奥」に隠された話者の意図や、感情、意地などを読み取りつつも、自分の「こころ」はそうやすやすとは見せないという構図になっている。
 

(8)   <場外バトル> 小林 ―― 「一枚上手」のたかり魔
 これまで見てきたのは津田と三人の女性たちが互いに繰り広げる「対決」でした。これらの女性には持ち味や戦法があります。強気だけれど、ときに感情を抑えきれなくなるお秀、観察眼を持ち、戦略的に振る舞おうとするけれど、最後は自分のペースでやるお延。一方的に攻め、問い詰め、支配しようとする吉川夫人。これに対し、津田は「女性に、してやられる」タイプの男です。
 小林という男もまて、アクの強い登場人物です。言ってみれば、悪辣な「たかり魔」。
 

(9)   <最終バトル> 清子 ―― 天然の妖気で振りまわす元カノ
 津田にとっての最大の難敵は清子です。かつて津田を振ってべつの男と結婚してしまった女性。天然ふうの色気というか妖気を持つ女性で、キャッチフレーズをつけるなら、「天然系の妖女(ファム・ファクタール)(*)」といったところでしょうか。
(*)ファム・ファタール(仏: Femme fatale)は、男にとっての「運命の女」(運命的な恋愛の相手、もしくは赤い糸で結ばれた相手)の意味。また、男を破滅させる魔性の女(悪女)のこと。(Wikipedia
 

(10)「奥」=他者への不安を描いた漱石
 清子とのバトルで、物語は終わります。物語が未完に終わっているにもかかわらず満足させてしまうのが、この小説の不思議な力です。
 敬語と丁寧さの応酬を通して目に見えない裏を操作し、「奥」をやりくりする日本語。その世界に、西洋のロジックで真実を暴こうとする地の文がわりこむことで、『明暗』は小説たりえようとした。
 私(=講師 阿部公彦)にはこの拮抗は、いかにも漱石らしい苦しみと楽しみとが同時につまった魅力的な世界に見えます。
 


<出典>
阿部公彦(2019/3)、夏目漱石スペシャル、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)

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