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2020年9月12日土曜日

(2090)  デフォー『ペストの記憶』(2-2) / 100分de名著



◆ 最新投稿情報
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(K1231)  延命治療は「悪」なのか? <臨死期>
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レベッカ・ソルニットが呼ぶところの「災害ユートピア」。災害が起きると人はパニックになって利己的になるというイメージがあるが、実際には見知らぬ人同士で思いやりを示し合う理想的な共同体が一時的に生まれる
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第2回  14日放送/ 16日再放送
  タイトル: 生命か、生計か? 究極の選択

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50
再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55
 及び        午後 00:00~00:25


【テキストの項目】
(1)  命を取るか、仕事を取るか
(2)  命がけの生活
(3)  困窮する貧民たち
(4)  デフォーの性格の複雑さ

(5)  災害ユートピアの出現
(6)  盗みを働く女たち
(7)  ロンドン子だからこそ描けた、都市とペスト
(8)  生の根っこを見つめる

【展開】
(1)  命を取るか、仕事を取るか
(2)  命がけの生活
(3)  困窮する貧民たち
(4)  デフォーの性格の複雑さ
以上は、既に書きました。

(5)  災害ユートピアの出現
 ペストは特に貧しい人の命を直撃するなど、ロンドンにとてつもない災厄をもたらしました。しかしながら、そうした極限状態であるからこそ、平時では出現しえないポジティブな状況も生まれました。
 ひとつは、キリスト教の宗派間対立が一時的に解消されたことです。
 もうひとつの良い面は、貧しい人たちに差し伸べられる援助の手があちこちで見られたことです。(略) こうした善意の行動は多くの貧民の命を救い、略奪を防ぐことにもつながりました。これはまさに、アメリカの作家レベッカ・ソルニットが呼ぶところの「災害ユートピア」だと言えるでしょう。ソルニットは、災害が起きると人はパニックになって利己的になるというイメージがあるが、実際には見知らぬ人同士で思いやりを示し合う理想的な共同体が一時的に生まれることを、主に2021世紀のアメリカで起きた地震やハリケーンなどの災害を通じて検証しています。

(6)  盗みを働く女たち
 「一体全体なにをしてるんだ?」と言い、帽子をつかんで取り上げた。その一人は、これが盗みを働くようには見えない人だったのだけれど、「本当に申し訳ありません」と言った。「でも持ち主のない品物と伺ったものですから。…」女は哀れげな様子で泣いていた。
 ここで描かれている行為は、私たちがイメージする「略奪」とはまったく雰囲気が違います。しかしながら、女性たちがやっていることはまさに略奪です。 … 災害は、集団的な善意を発揮する舞台ともなれば、集団的な(必ずしも悪意を伴わない)犯罪を肯定する契機にもなる。

(7)  ロンドン子だからこそ描けた、都市とペスト
 ロンドンは作者デフォーの出身地であり、生涯の多くを過ごした街です。
 そのロンドンの経済活動を休止させ、全市民を死の危機へと追い込んだペストの流行は、デフォーの世界観そのものを揺るがすような、究極の危機だったと言えます。おりしも、1720年にフランスのマルセイユでペストが発生。イギリスにもその流行がやってくるのではないかとのうわさが絶えず、根っからのロンドンっ子だったデフォーはその危機を察知し、『ペストの記憶』の執筆に取り組んだのです。

(8)  生の根っこを見つめる
 今この本を読む意義は、感染症という見えない恐怖に襲われたとき、見えないことから逃げずに生きていくしかない、という冷静な観察者・生活者の視点を得られることだと思います。
 昨今、「ニューノーマル」あるいは「新しい日常」という言い方をよく耳にしますが、『ペストの記憶』から学ぶべきは、古い日常でも新しい日常でもなく、いわゆる文明社会における私たちの生の根っこにある脆さ、危うさをこれからも忘れずにいることではないかと思われます。


<出典>
武田将明(2020/9)、デフォー『ペストの記憶』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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