2021年2月13日土曜日

(2242)  フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』(3-1) / 100分de名著

 

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自分と見た目の異なる人(たち)に対して、誤った固定観念やステレオタイプに引きずられず、日の前にいる相手をちゃんと見ることができれば、つまりその人自身を見ることができれば、人種差別からは自由になれます

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第3回  15日放送/ 17日再放送

  タイトル: 「呪われたる者」の叫び

 

 

【テキストの項目】

(1)   まなざしが他者を規定する

(2)  「ほら、ニグロだよ!」

(3)   体験を思想に落とし込む

(4)   対象化され、切断される自己

 

(5)  「ニグロであること」を引き受ける

(6)   躍動する「非合理」

(7)   ネグリチュードへの疑念

(8)   サルトルへの失望

 

【展開】

(1)   まなざしが他者を規定する

 人種差別とは、自分とは外見の異なる他者を肌や髪や日の色、体つきなどのちがいをもとに、その人やその人に近い外見をしている(と思われる)人たちを差別する態度だと理解されます。そしてその外見上のちがいはあくまでも主観的なものです。その差異を認識した人がどのように感じるかにすべてがかかっていると言えます。

 「皮膚の色にもかかわらず」とか「皮膚の色のせいではない」という言葉の背後には、皮膚の色のちがう集団に対する抜きがたい差別意識が含まれています。日の前に存在する人をまっすぐに見ることは本当にむずかしい。他者をどのように見るかによって僕たちの現実そのものが変わる。僕たちのまなざしこそが他者がどのような存在であるかを決めるということでしょう。

 

(2)  「ほら、ニグロだよ!」

 他者のまなざしとの出会い、あるいは対峙が、ファノンという人の存在を根底から揺るがしたことは間違いありません。その個人的な体験は第5章「黒人の生体験」に克明に描かれています。

 その体験は衝撃的なものです。ある日、街を歩いていると、小さな子供の声が聞こえます。「ほら、ニグロ!」。それは通りがかりに私を小突いた外的刺激だった。…「ママ、見て、ニグロだよ、ぼくこわい!」。こわい! こわい! この私が恐れられ始めたのだ。

 戦争に志願兵として参加し、軍隊にはびこる人種差別を肌身で感じていた若者が、小さな子供にニグロと呼ばれ、さらにシヨツクを受けるわけです。 … ファノンはこの個人的な体験をそのままにせず徹底的に考え抜いたのです。

 

(3)   体験を思想に落とし込む

 白人による黒人に対する差別というこの体験の苛酷さを広く人々に伝えるには、それを個人的な体験の次元に留めるのではなく、より客観的な次元へと開いていく必要があります。人種差別を生じさせる社会的・歴史的な条件を明らかにしながら、同時に人種差別が人々の意識と無意識にどのような作用を及ぼしているかを分析しなければならない。

 あの「ほらニグロだよ!」の一節において、白人の「まなざし」を論じるにあたって、ファノンがサルトルの『存在と無』に多くを負っていることは間違いありません。この部分で描かれているのは、他者のまなざしによって自分の生きている世界が足元から崩れ落ちていくような体験ですが、これはサルトルのいうところの「他有化」(あるいは「疎外」)の経験にほかなりません。

 

(4)   対象化され、切断される自己

 白人のまなざしがファノンを「人間」の世界から追放するのです。ニグロは「新しいひとりの人間」ではなく、「新しいタイプ」に過ぎず、「人喰い、精神遅滞、物神崇拝、人種的欠陥、奴隷商人」といった否定的な表象と結びつけ黒人の黒人としての自己意識は、白人のまなざしによって構成されると指摘しています。「ニグロとは、〈他者〉がニグロとして見る人間のことである」。

 ファノンは自人のまなざしの対象であることを拒絶し、彼を「他有化」しようとする白人をまなざし返すのです。「ニグロがいい男だからってどうなんです」。注目したいのは、「ニグロがいい男だからってどうなんです」というとき、ファノンがニグロとして語っているということです。ニグロとして白人に対峙しているのです。

 

 以下は、後日、書きます。

(5)  「ニグロであること」を引き受ける

(6)   躍動する「非合理」

(7)   ネグリチュードへの疑念

(8)   サルトルへの失望

 

<出典>

小野正嗣(2021/2)、フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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