2017年6月30日金曜日

(920) 日本文化と儒教 / 仏教と儒教(10)


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(K0061) 今、ジェンダー(性)の抱える問題とは / 「生きづらさの中を生きる」(3) <インクルーシブ社会>
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 日本文化はつねに中国文化の影響を受けていた。儒教の受容は一般的には仏教以前であったといわれている。しかし思想の受容自体において日本独自の展開をする。

中世五山の禅宗において、朱子学が移入され仏教と儒教の関係が生まれる。その後、近世において儒教は禅宗と分離する。

同時に、儒教は神道・武士道などと関連して発達する。神道と結びついた儒教が儒家神道である。武士道を儒教により再編したものが士道である。儒教は仏教より先に伝来した。
 

【構成】 第10章 日本文化と儒教

 日本文化と儒教の受容 - 王仁

 日本儒教の特徴

 儒教と仏教 - 五山の禅宗

 儒教と神道 - 儒家神道

 儒教と武士道 - 山鹿素行の士道

 

【各論】

 日本文化と儒教の受容 - 王仁(ワニ)
 日本文化は、今日のかたちとなるにあたって、外部からたえず文物を移入し、その刺激を賦活剤として形成されてきた。『日本書紀』には応神天皇16年、百済の王仁が来貢したとある。日本における儒教の伝来は、仏教よりも早い。


 日本儒教の特徴
 日本儒教の主要な特徴は、日本社会には、

   宗族という家庭制度がなかった
   科挙の制度(官吏採用試験)がなかった
 日本と中国との基本的な相違点から、日本独特の儒教が展開することになる。

 
 儒教と仏教 - 五山の禅宗
 中世に本において文化の中心となったのは五山である。五山の禅僧は積極的に宋学に関心をもち、「儒仏道の三教一致」あるいは「禅儒一致」・「儒仏不二」という理解で、儒教が受容された。

  ◆ 藤原惺窩
  ◆ 林羅山
  ◆  山崎闇斎
 

 儒教と神道 - 儒家神道
 初期の日本朱子学はつねに神道と習合思想を形成していた。これを儒家神道という。代表的なものは林羅山「理当心地神道」、山崎闇斎「垂加神道」である。神道と儒教に共通する考え方は、「神」を「理」と解釈していたことである。

【Ⅰ】 存在論-「天人唯一」(神人一体)  神と人との関係
 人は神によって存在する。「神」の来臨・加護により、人が人として存在する。
神とは「国常立尊」「天御中主尊」であり、生命力・生生力・宇宙のエネルギーである。

【Ⅱ】 人間論-「神明の舎(ヤドリドコロ)」  人間とは何であり、どうあるべきなのか
 人の「心」には神が宿る。「聖人」になるのではなく、「神」を心に受け入れる

【Ⅲ】 実践論-「祈祷と正直」「敬(ツツシム)」  どのようにして心は神を受け入れるのか
 神が来臨すべく場の条件を整えなくてはならない。条件とは、「祈祷」し「正直」であること。「神へ参た時の心持」は、「しまる」。「しまる」は「つつしむ」である。
 

 儒教と武士道 - 山鹿素行の士道

 戦闘がなくなった太平無事の江戸時代には、武士の生き方に二つの方向が生まれた。
   武士道:「死のいさぎよさ、死の覚悟」が根本。「主君に使える戦闘員としての心組」を重んずる伝統。葉隠
   士道:「人倫の道の自覚」が根本。「支配者的為政者的徳性」を重んずる伝統。山鹿素行。

 山鹿素行は、武士は「人倫の指導者」であり、その職分は、四民(士農工商)において「人倫」「人の道」を明らかに示し、正すところにあるとした。儒教の「仁」「礼」などの言葉を用い、素行には一貫した思想の体系があった。

 「宗教がない。それでは、どのようにして道徳教育を授けるのですか」というベルギーの法学者の質問に対し、新渡戸稲造は、日本人の精神的な支柱になっている武士道(明治武士道)を示した。著書『武士道』で、日本文化に高度で普遍的な精神性があることを証明した。

 
 
引用
高島元洋、「第10章 日本文化と儒教」
竹村牧男・高島元洋編、仏教と儒教~日本人の心を形成してきたもの~、放送大学教材(2013)

(919) ジェンダーによる進路選択と教育 / 子供・若者の文化と教育(10)


 教育には男女の平等を推進する機能があるが、その反面、固定的な性別役割規範を再生産するはたらきもある。ジェンダーによる教育機会や進路選択の差異は何によって決定されるのか。「ジェンダー・トラップ」の背景として、家族におけるジェンダーの社会化や学校教育の顕在・潜在双方のカリキュラムについて注目して論じる。
 

【目次】

第10章 ジェンダーによる進路選択と教育

1. はじめに

2. ジェンダーによる進路分化
(1)  高校進学におけるジェンダー・トラック
(2)  高等教育(大学・短大)の進学におけるジェンダー・トラック

3. 家庭における進学期待のジェンダー差

4. 学校におけるジェンダー形成
(1)  カリキュラムと学校知
(2)  隠れたカリキュラム
(3)  学校文化

5. まとめ

 

【各論】 第10章 ジェンダーによる進路選択と教育


1. はじめに
 学校教育では、性による区別や差別をなくし男女平等に扱う原理と、男女を区別して固定的な性役割にそって教育するという二つの原理が同時に働いている。

 性役割観による進路選択の機会と範囲の制約を生みだす構造、または性による進路や専攻の偏りを「ジェンダー・トラック」という。「トラック」とは、そもそも陸上競技場にある周回走路を指し、進路選択の場面では「法制的には生徒の進路を限定はしていないものの、実質的には卒業後の進路選択の機会と範囲を制約する」システムを指す。

 
2. ジェンダーによる進路分化

(1)  高校進学におけるジェンダー・トラック
男子生徒の多い学科:工業、水産
女子生徒の多い学科:看護、家庭、福祉、商業

(2)  高等教育(大学・短大)の進学におけるジェンダー・トラック
 高等教育進学に際して、女子のほうが浪人忌避の傾向が高く、推薦入学や併設校の優先入学といった制度や、女子大・短大など男子と直接競争を回避するルートを利用することが多い
 

3. 家庭における進学期待のジェンダー差
 かつては、家庭外での労働参加率が低く、学歴の経済的な見返りが期待できない女子でなく、男子に対する教育投資が合理的な選択とされていた。

 社会全体が豊かになると、高い階層で成績上位の女子の四大進学志向が高まるようになった。

 
4. 学校におけるジェンダー形成

(1)  カリキュラムと学校知
 現在のところ、男女別修の教科はない

(2)  隠れたカリキュラム
 「隠れたカリキュラム」とは、教育などフォーマルな教育課程以外に、学校における慣習や文化または教師の言動から暗黙のうちに児童・生徒が学びとる社会の価値観や規範のことをいう。
教師による日常の言動:「男だろう、重いものを持ちなさい」「さすが女子だ。きれいに掃除できたね」など
学校の慣習:男女別名簿、男子が前で女子が後に並ぶ整列など
学校教員組織、特に教員の男女比:学校段階が下位になるほど、女性教諭・教員が増える

(3)  学校文化
 女子教育の理念・実践のモデルとして、①②の他に、③を目指している女子高校もある
「エリート型教育」:社会的・経済的な成功を手にする
「良妻賢母型教育」:男性(夫)や子どもの出世や成功を陰で支える
「女性性利用型教育」:「女性であること」や「女性にしかできない役割」(これらを「女性性」という)を積極的に引き受け、将来は女としてふさわしい能力を発揮することで社会的・経済的成功とともに、女として愛され、子どもの養育にも励む幸福な結婚・家庭生活をも手に入れる

 
5. まとめ
 ジェンダー・センシティブな(ジェンダーに意識的な)教育が不可欠で、そのためには「学びの5点の視点」が必要である。①性別役割分業の解消、②ジェンダーの視点、③人権と自己尊重、④個人の経験の尊重と社会的認識、⑤エンパワメント。

 
引用
小針誠「第10章 ジェンダーによる進路選択と教育」
竹内清・岩田弘三編、子供・若者の文化と教育、放送大学教材(2011)

2017年6月29日木曜日

(918) ユニバーサルマナー


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(K0060) 家庭内の暴力 児童虐待 / 「生きづらさの中を生きる」(2) <家族の再形成>
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昨日(6/28)は、ユニバーサルマナーの3・2級検定試験を同時に受けてきた。

 ユニバーサルマナー検定3級は「高齢者や障害者への基本的な向き合い方やお声がけ方法を学ぶ、導入のための講座」。ユニバーサルマナー検定2級は、「車いすの操作方法など、実践的なサポート方法とより詳しい知識を学ぶ講座」。
http://www.universal-manners.jp/

 ユニバーサルマナー検定3級を受けて、「支援者が作った講座というより、当事者の思いが随分織り込まれた講座だ」という印象を受けた。

 ユニバーサルマナー検定2級の実技研修のテーマは「車いす使用者」「視覚障碍者」「高齢者」だった。これはしあわせの村の「ふれあい体験学習」に似ている。
http://www.shiawasenomura.org/learn/experience.html

 違うこととして「検定試験」がある。プレッシャーではあるが、これがあると総復習になり、締まりがあった。70点以上だと後日「2級認定書」を送ってくれるらしく、今回は「3級認定書」だけをもらって帰ってきた(写真)。

 ちなみに嵐・櫻井翔さんも挑戦し、筆記試験は満点だったらしい。
http://www.universal-manners.jp/media/post-348.html

 
独り言

  「体験キッド(写真)を着用して高齢者体験をしてください」 → 「そんなもの着用しなくても、私(昨日まで65歳)は毎日、高齢者体験している」

  「曇りゴーグルを着用して白内障体験してください」 → 「そんなもの着用しなくても、私は毎日、白内障体験している」 → 「どうですか、8ポイント・明朝体で見えにくかった文字も、12ポイント・ゴシック体にすると、ずいぶん見やすくなったでしょう」 → 「私はW白内障で、真っ白な世界。どちらも、文字があることすら、わからない」

 

 家に帰ってきたら、おりしもNHKで「今月、格安航空会社のバニラ・エアを利用した車いすの男性が、鹿児島県の奄美空港で車いすから降りてタラップの階段を腕の力で自力で上っていたことがわかりました」というニュースが流れていた。
「車いすから降り自力でタラップ上る バニラ・エアが謝罪」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170628/k10011033261000.html

 様々な意見があるようだ。
「ネット大荒れ! バニラ・エアが車いす客への対応で謝罪」
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1498631417178.html

 
 ニュースを見ていると航空会社が非人道的だという印象を受けたが、(航空会社ではないものの)企業で働いたことのある者としては、聞いていて切ない。航空会社としては、安全を守る絶対的な義務があり、規則は勝手に破れない。

 
 このようなことを二度と起こさないようにしなければならず、ハード・ソフト両面での対策が必要だろうが、それだけではなく、乗客と航空会社とが力を合わせて改善していくことも大切で、航空会社を一方的に非難して済ませられる問題ではない。「車いすを担いで(タラップを)下りる」ことを許可して、もしも事故が起きたら、誰が責任を負うのだろうか。乗客の協力なしでは、いかんともしがたいこともある。と、私は思った。




 

2017年6月27日火曜日

(917) 祝 29連勝(将棋)


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(K0059)  対人援助という活動 -アマチュアリズムと専門家、どう違うか- / 「生きづらさの中を生きる」(1) <共助>
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今朝(6/27)の朝刊の第一面にデカデカと「藤井四段 最多29連勝 30年ぶり新記録」。
テレビでも大騒ぎである。
見た目普通の男の子が、謙虚にインタビューに答えながら勝ち進むのが、快感なのだろうか。


振り返ると、将棋・碁の世界で、一連の華やかなニュースがあった。

  将棋:羽生の七冠独占(1996214=王将奪取日-730=棋聖失冠日)
  囲碁:井山の七冠独占(2016420=十段奪取日-113=名人失冠日)

それ以来の、注目度である。

 

一方、寂しいニュースもあった。

将棋:将棋の第2期電王戦二番勝負第2局が20日、兵庫県姫路市の姫路城で指され、後手のコンピューターソフト「PONANZA(ポナンザ)」が第1局に続き佐藤天彦名人(29)を破った。棋士とソフトが戦う電王戦は2012年に始まり、形を変えながら続いてきたが、今回で終了。昨年から棋士とソフトの代表が二番勝負を戦う形となり、2年連続で棋士の連敗で終わった。(2017/05/27。日本経済新聞)

囲碁:米グーグルが開発した囲碁用の人工知能(AI)「アルファ碁」と世界最強とされるプロ棋士、柯潔九段(か・けつ、19)との三番勝負の第3局が27日、上海近郊の烏鎮で打たれ、アルファ碁が勝った。第1、2局に続く3連勝で、もっとも難しい知的な盤上ゲームの囲碁でもAIが人間トップを圧倒する実力を備えたことを示した。(2017/05/20。日本経済新聞)
 

将棋・碁の勝負の世界で、AI対人間の対決は、結論が出たようだ。

ただ、AIは「感動」を呼び込まない。
将棋も碁も、これから人々に愛されることは、変わらないだろう。


それでも、悔しいな。
AIは、人間から学んで、人間より強くなった。
藤井四段は、AIからも学んだ。いつの日か、AIより強くなってほしい。
ちょっと、期待してしまった。
そもそも、AIに教えてあげたのは、人間だ。


写真はいずれも、日本経済新聞より。
 

2017年6月26日月曜日

(916) 中国文化と儒教 / 仏教と儒教(9)


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(K0058) 8つのテーマ / 「生きづらさの中を生きる」(0) <共助>
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儒教は古代中国において成立する。春秋戦国時代、諸子百家といわれる思想家群が出現する。これらの諸学派は、陰陽家・儒家・墨家・法家・名家・道家の六家などとも分類される。この一つが儒教である。儒教が思想としてまとまるのは孔子・孟子においてである。儒教が成立する意味、仁・義という思想について考える。また儒教が体系として完成するのは、十二世紀の朱子による。今日のいわゆる儒教文化圏が形成される所以である。ここでは朱子学・陽明学の構造を理解する。
 

【構成】
 古代の中国文明
 中国の古代思想
 儒教の思想
 倫理と宗教
 儒教体系の成立-朱子学と陽明学

 

<各論>

 古代の中国文明
 (略)


 中国の古代思想
 (略)


 儒教の思想
 古代中国の思想として、最もまとまった世界観を示し後世に影響があったのが儒教である。孔子は「仁」(人間関係一般においてひとを愛すること)と「孝弟」(家族の関係において親孝行であることと年長者に従順であること)を説いた、孟子は「性善説」(人間の生まれつきの気質は善であること)を説いた。


 倫理と宗教
 日本では、「儒教」を「孔子を祖とする学派の教え」、後者を「孔子の教えの学問」として区別することはない。宗教としてあるより倫理として意味がある。日本儒教の課題は、「四書五経」を解釈し「五倫五常」を学習することにあった。


 儒教体系の成立-朱子学と陽明学
 朱子学の新しい部分は、儒教に「理」「気」などの概念を取り込み、四書および五経を体系的に解釈したところにある。壮大な宇宙論にはじまり、あるべき天下国家を論じ、日々なすべき実践にいたるまでを包括的に論じた。

【Ⅰ】 存在論-「天人合一」
 朱子学の存在理解の基本となるのは、中国思想の古くからの伝統である天人合一という考え方である。天と人とのあり方は、構造あるいは形態として対応している。人のあるべきありようとは、厳密に天と相即する。厳密に天と相似であることによって、人の行為は天の運行に即するものとなる。

【Ⅱ】 人間論-「聖人学びて至るべし」
 天人合一を完全に実現した人間を聖人という。学問の目的は、この聖人になることである。聖人はすべての「理」を実現する。「理」とは、物を物たらしめる根拠であり、その物がいかなるものであるかを規定する意味である。

【Ⅲ】 実践論-「居敬・窮理」
 朱子学では、「居敬・窮理」の二つの実践が公式の学問として提案された。「居敬」は、人の内面の確立を目的とする。主体性の究極的な向上をめざす。「窮理」は、外部の理(あるべき姿)を知ることを目的とする。

 南宋の朱子学は、明において王陽明による新しい展開を迎えた。陽明学は、実践を中心とし、朱子学の「窮理」を重視しない。「知行合一」などの陽明学の思想が展開された。


引用
高島元洋、「第九章 中国文化と儒教」
竹村牧男・高島元洋編、仏教と儒教~日本人の心を形成してきたもの~、放送大学教材(2013)

(915) 大学受験 / 子供・若者の文化と教育(9)


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(K0057)  催し物情報(3) <催し物紹介>
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 若者にとっての大学受験は、これまでどのような意味をもってきたのか、また高等教育が大衆化(マス化)・ユニバーサル化した現在において、それはどのように変わりつつあるのかを、現在の大学入試がもつ問題を含めて考察する。
 

【目次】 第9章 大学受験

1.   大学受験が重要な意味をもつ社会と、そうでない社会
(1)  「庇護移動」社会、「競争移動」社会、学歴社会
(2)  「タテの学歴社会」vs「ヨコの学歴社会」(学校歴社会)、「資格試験」vs「競争試験」

2.   高等教育の発展段階と大学入試
(1)  高等教育の発展段階
(2)  日本における高等教育の発展段階

3.   マス高等教育段階と大学入試
(1)  「エリート選抜」と「マス選抜」
(2)  共通1次学力試験制度
(3)  推薦入学制度の公認
(4)  特別選抜の増加

4.   大学入試教科目の変遷
(1)  1980年代以前
(2)  1990年代以降
(3)  学部教育の位置づけの変化と「マス選抜」への転換

5.   だれもが大学に進学する時代の受験
(1)  日本における大学入試・受験の転換
(2)  大学入試倍率と平均出願校数

6.   大学ユニバーサル化時代の大学のあり方と入試

 

<各論>

1.   大学受験が重要な意味をもつ社会と、そうでない社会

(1)  「庇護移動」社会、「競争移動」社会、学歴社会
ラルフ・ターナーによれば、

   「庇護移動」社会
 早い段階で一旦エリートとして選ばれた人は、その後の人生において、さまざまな「庇護」を受けて、エリートの地位を確保していく

   「競争移動」社会
 エリートとしての地位・身分を確保するためには、まず良い大学を卒業しなければならないが、その後も常に競争に勝ち残っていかなければならない。

それに対して、日本は

   「学歴」社会だと信じられてきた
 18歳あるいは、その後、数年以内の時期に、どこの大学に入学したかで、その後の地位、つまり一生が決まるような社会だと、みなされてきた。

 
(2)  「タテの学歴社会」vs「ヨコの学歴社会」(学校歴社会)、「資格試験」vs「競争試験」

学歴社会には二つの種類がある。

   「タテの学歴社会」
 初等・中等・高等教育の、どの段階の学歴をもっているかが大きな意味をもつ

   「ヨコの学歴社会」(学校歴社会)
 同じ大学のなかでも、どこの大学を卒業したかが重要な意味を持つ

入試制度には、二つの種類がある

   「資格試験」
 資格を取得すれば、基本的には無条件で好きな大学・学部・学科に入学できる

   「競争試験」
 入学に際して各大学ごとに予め定員が定められており、その定員に入るために、他の受験生と試験で競争しなければならない。

 日本は、「ヨコの学歴社会」「競争試験」だったため、大学受験競争は先鋭化・過熱化し、また、受験競争が低年齢化した。

 
2.   高等教育の発展段階と大学入試

マーチン・トウロによれば、

   「エリート段階」。高等教育進学率15%に達していない。
 高等教育進学がごく少数者にのみ許された特権に留まっている段階

   「マス段階」。高等教育進学率15%50%
 高等教育進学が多くの人にとって権利とみなされる段階

   「ユニバーサル段階」。高等教育進学率50%を超えた。
 誰もが進学する状態のもとで、高等教育進学が万人の義務に近くなる

日本は現在、「ユニバーサル段階」にある → 図参照

 
3.   マス高等教育段階と大学入試

(1)  「エリート選抜」と「マス選抜」

中村高康によれば、

   「エリート選抜」
 「エリート段階」では、公平性の原理重視のもとで、入学試験の成績などの能力主義的基準を基礎においた入学者選抜が主流を占める

   「マス選抜」
 知的能力とは関係ない選抜基準をもとに、必ずしもエリートとは呼べない大衆を高等教育に呼び込むために行われる入学選抜方式


(2)  共通1次学力試験制度
 共通1次試験による改革はその意図に反して大学入試を再び強固な学力選抜の世界へ引き戻す役割を果たし、「マス選択に向けての入試改革」としては失敗に終わった。

 
(3)  推薦入学制度の公認
 知的能力とは関係ない、すなわちエリート的・能力主義的とはいえない選抜基準が入り込んできた。その一つの典型例が推薦入学制度だ。

 
(4)  特別選抜の増加
 2000年に入ると、AO(アドミッション・オフィス)入試が浸透・普及した。高校時代に行った、ボランティア活動や生徒活動などの実績を中心に評価する入試である。さらに、学芸やスポーツなど何か一芸に秀でている、といった実績が評価されるのが「一芸入試」である。自己推薦入試の別法としても位置付けられた。

 
4.   大学入試教科目の変遷

 入試科目の削減傾向は顕著である。
 

5.   だれもが大学に進学する時代の受験

(1)  日本における大学入試・受験の転換
 日本が「マス段階」を経由して「ユニバーサル段階」に移行するのに伴い、「入試の多様化」が進んだ。背景として、志願者確保が切実な現実問題と意識され始めたことがある

(2)  大学入試倍率と平均出願校数
 入学倍率と平均出願校数のどちらからみても、1990年代を転機として、大学入学が容易になり、だれもが大学に進学できる時代になってきたことは明らかである。

 
6.   大学ユニバーサル化時代の大学のあり方と入試

 「分数・小数のできない大学生」などに代表される学力低下問題。
 近年の入試改革の方向性に揺れがみられる。
 性別・学力・親の経済状況の組み合わせによって、大学の進学機会に大きな格差が存在する。

 

引用
岩田弘三「第9章 大学受験」
竹内清・岩田弘三編、子供・若者の文化と教育、放送大学教材(2011)
9-1 高校及び高等教育への進学率の推移