2017年6月30日金曜日

(919) ジェンダーによる進路選択と教育 / 子供・若者の文化と教育(10)


 教育には男女の平等を推進する機能があるが、その反面、固定的な性別役割規範を再生産するはたらきもある。ジェンダーによる教育機会や進路選択の差異は何によって決定されるのか。「ジェンダー・トラップ」の背景として、家族におけるジェンダーの社会化や学校教育の顕在・潜在双方のカリキュラムについて注目して論じる。
 

【目次】

第10章 ジェンダーによる進路選択と教育

1. はじめに

2. ジェンダーによる進路分化
(1)  高校進学におけるジェンダー・トラック
(2)  高等教育(大学・短大)の進学におけるジェンダー・トラック

3. 家庭における進学期待のジェンダー差

4. 学校におけるジェンダー形成
(1)  カリキュラムと学校知
(2)  隠れたカリキュラム
(3)  学校文化

5. まとめ

 

【各論】 第10章 ジェンダーによる進路選択と教育


1. はじめに
 学校教育では、性による区別や差別をなくし男女平等に扱う原理と、男女を区別して固定的な性役割にそって教育するという二つの原理が同時に働いている。

 性役割観による進路選択の機会と範囲の制約を生みだす構造、または性による進路や専攻の偏りを「ジェンダー・トラック」という。「トラック」とは、そもそも陸上競技場にある周回走路を指し、進路選択の場面では「法制的には生徒の進路を限定はしていないものの、実質的には卒業後の進路選択の機会と範囲を制約する」システムを指す。

 
2. ジェンダーによる進路分化

(1)  高校進学におけるジェンダー・トラック
男子生徒の多い学科:工業、水産
女子生徒の多い学科:看護、家庭、福祉、商業

(2)  高等教育(大学・短大)の進学におけるジェンダー・トラック
 高等教育進学に際して、女子のほうが浪人忌避の傾向が高く、推薦入学や併設校の優先入学といった制度や、女子大・短大など男子と直接競争を回避するルートを利用することが多い
 

3. 家庭における進学期待のジェンダー差
 かつては、家庭外での労働参加率が低く、学歴の経済的な見返りが期待できない女子でなく、男子に対する教育投資が合理的な選択とされていた。

 社会全体が豊かになると、高い階層で成績上位の女子の四大進学志向が高まるようになった。

 
4. 学校におけるジェンダー形成

(1)  カリキュラムと学校知
 現在のところ、男女別修の教科はない

(2)  隠れたカリキュラム
 「隠れたカリキュラム」とは、教育などフォーマルな教育課程以外に、学校における慣習や文化または教師の言動から暗黙のうちに児童・生徒が学びとる社会の価値観や規範のことをいう。
教師による日常の言動:「男だろう、重いものを持ちなさい」「さすが女子だ。きれいに掃除できたね」など
学校の慣習:男女別名簿、男子が前で女子が後に並ぶ整列など
学校教員組織、特に教員の男女比:学校段階が下位になるほど、女性教諭・教員が増える

(3)  学校文化
 女子教育の理念・実践のモデルとして、①②の他に、③を目指している女子高校もある
「エリート型教育」:社会的・経済的な成功を手にする
「良妻賢母型教育」:男性(夫)や子どもの出世や成功を陰で支える
「女性性利用型教育」:「女性であること」や「女性にしかできない役割」(これらを「女性性」という)を積極的に引き受け、将来は女としてふさわしい能力を発揮することで社会的・経済的成功とともに、女として愛され、子どもの養育にも励む幸福な結婚・家庭生活をも手に入れる

 
5. まとめ
 ジェンダー・センシティブな(ジェンダーに意識的な)教育が不可欠で、そのためには「学びの5点の視点」が必要である。①性別役割分業の解消、②ジェンダーの視点、③人権と自己尊重、④個人の経験の尊重と社会的認識、⑤エンパワメント。

 
引用
小針誠「第10章 ジェンダーによる進路選択と教育」
竹内清・岩田弘三編、子供・若者の文化と教育、放送大学教材(2011)

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