2021年1月7日木曜日

(2207)  カール・マルクス『資本論』(2-1) / 100分de名著

 

◆ 最新投稿情報

=====

(K1348)  超後期高齢者世代の三つの難関~高齢者の自立 / 自立期と仕上期との間にて(12) <自立期~仕上期>

http://kagayakiken.blogspot.com/2021/01/k1348-12.html

=====

 

☆☆

「何のために、どんな物を作るのか」という生産目的が違う。商品の「使用価値」ではなく、「価値」こそが生産の目的となり、必要かどうかではなく、売れそうかどうかでモノを作るようになってしまうのです

☆☆


第2回  11日放送/ 13日再放送

  タイトル: なぜ過労死はなくならないのか

 

 

【テキストの項目】

(1)   資本は”運動”である

(2)   資本家が金儲けをやめられない理由

(3)  「生産」という秘められた場所

(4)  「労働力」と「労働」の違い

(5)   長時間労働が蔓延するカラクリ

 

(6)   繰り返される「過労死」という悲劇

(7)  「自由」が労働者を追いつめる

(8)   そこまでして、なぜ頑張るのか

(9)   賃上げより「労働日」の短縮

(10) 資本家から「富」を取り戻す

(11) 労働時間の短縮に向けて

 

【展開】

(1)  資本は”運動”である

 資本は「お金」ではなく、工場や機械や商品のような「物」でもない。マルクスは資本を“運動”と定義しているのです。どんな運動かというと、絶えず価値を増やしながら自己増殖していく運動です。この運動を「G-W-G’(ゲー・ヴェー・ゲー)」という式で表し、マルクスはこれを「資本の一般定式」と呼びました。「G」は貨幣、「W」は商品です。

 資本主義社会では、元手となるお金で靴を作って販売し、手にしたお金でまた靴を作る。それが売れたら、さらに売れそうな靴作りに手元のお金を投じる。「G」とは最初の「G」に儲けが上乗せされた状態を表します。「G-W-G」の運動をひたすら続けます。簡単にいうと、資本とは、金儲けの運動であり、金儲けを延々と続けるのが「資本主義」なのです。

 

(2)   資本家が金儲けをやめられない理由

 金儲けの主軸となるのは、モノの「使用価値」ではなく、「価値」です。G-W-Gにおいては、価値が増大するとともに、その力を増していき、自立した「主体」になって、ますます人間を振り回すようになっていきます。

 市場では常に競争が行われるので、儲けにこだわり、規模を拡大していかなければ、他社とのシェア争いに敗れて淘汰され、従業員の賃金を払うどころではなくなるかもしれない。事業を継続していくには、効率化やコストカットを進め、競争力をつけて、儲け続けなければなりません。つまり、資本家も、自動化された価値増殖運動の歯車でしかない、ということです。資本家は、資本の自動運動に従うしかない。そして、労働者は、そんな資本家に従うしかないのです。

 

(3)  「生産」という秘められた場所

 前述の一般定式「G-W-G」が示唆する通り、手元の資金を懐に貯め込んでいても価値は生まれません。そのお金を使って、常に「売れそう」なモノを生産し続けなければいけない。価値は「生産という秘められた場所」でしか生まれない、とマルクスは言っています。

 ここで重要なのは、労働者が、自分の「労働力」を売った対価として受け取る賃金よりも大きな価値を、自らの労働によって生み出している、という事実です。その差額が資本家の儲けとなります。労働者からすれば、資本家によって搾取されていることになります。これをマルクスは「剰余価値」と呼んでいます(添付図③)。そして、この剰余価値によって資本は増殖するのです。

 人間の労働を介した価値の自己増殖は、誰にも止められません。そして、人間にはコントロールできない価値の「神秘的な性質」が、労働者を追い詰めていくのです。

 

(4)  「労働力」と「労働」の違い

 マルクスは「労働力」と「労働」の違いを説明しています。

 「労働力」とは、労働する能力です。労働者と資本家の間で等価で売買されているのは、この「労働力」。 1万円という日給は、労働力という商品の日価値(1日分の価値)に見合う対価です。

 しかし、労働者が自分の労働力を「日給1万円で売る」と決めた時点、あるいは資本家がそれを買うと決めた時点では、まだ「労働」は行われていません。資本家が、労働者から買った「労働力」という商品を実際に使って(つまり、労働者を働かせて)初めて「労働」が発生する。16,000円という新しい価値を生み出しているのは、この「労働」です。

 ここで重要なのは、資本家は「労働が生み出す価値」を労働者から買っているのではなく、「労働力という商品の価値」に賃金を支払っているということです。

 

(5)  長時間労働が蔓延するカラクリ

 1時間の労働で2,000円の価値を生み出す労働者を日給1万円で雇い、その労働力を5時間しか使わなければ、労働によって生み出される価値は1万円で、資本家の儲けはゼロです。しかし、5時間を超えた分の労働は、すべて剰余価値として資本家のものになります。8時間働いてもらえば、16,000円の価値が生まれ、6,000円の剰余価値を手にできる。12時間働かせれば、余剰価値を8,000円も増やせます(添付図③)。

 労働力は、人間が持っている能力で、本来は「富」の一つです。労働力という富を使って、 … 働く人に幸福感や充実感をもたらしてくれるような活かし方ができるはずです。ところが、資本主義は、この労働力という「富」を「商品」に閉じ込めてしまう。資本家にとって、買った商品を使うにあたり、労働者の生活の質や夢、やりがいに配慮することは関心事ではありません。

 

 以下は、後日、書きます。

(6)   繰り返される「過労死」という悲劇

(7)  「自由」が労働者を追いつめる

(8)   そこまでして、なぜ頑張るのか

(9)   賃上げより「労働日」の短縮

(10) 資本家から「富」を取り戻す

(11) 労働時間の短縮に向けて

 

<出典>

斎藤幸平(2021/1)、カール・マルクス『資本論』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



0 件のコメント:

コメントを投稿