2020年11月7日土曜日

(2143)  『伊勢物語』(2-1) / 100分de名著

(2143)  『伊勢物語』(2-1) / 100de名著

 

 

◆ 最新投稿情報

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『伊勢物語』の中心にあるのは、物語ではなく和歌。まず歌を集めてきて、その歌を補足するための文章が加えられた。さまざまな人が歌や文章を付け足した。その過程で希求されたのが「物語」だったのではないか

☆☆

 

第2回  9日放送/ 11日再放送

  タイトル: 愛の教科書、恋の指南書

 

 

【テキストの項目】

(1)  平安貴族の恋愛事情

(2)  年上の女性が恋の手ほどき

(3)  簡潔な構成に見る物語の芽

(4)  受け身の恋

(5)  頼まれて結婚、律儀ゆえの災難

 

(6)  運命の女① 藤原高子

(7)  露とこたへて消えなましものを

(8)  国母となった高子と歌人業平

(9)  運命の女② 恬子内親王

(10)恬子の覚悟とその後

(11)女の自我を描く

 

【展開】

(1)  平安貴族の恋愛事情

 業平の恋模様を繙く前に、平安貴族の恋愛事情、結婚制度について説明しておきましょう。平安時代の貴族の女性は、家族以外には顔や姿を見せずに暮らしていました。そこで男性は、思い定めた女性に手紙や歌を送ることから恋をスタートさせます。何度か文をやりとりし、承諾の返事が来たら、男性は夜に女性の家を訪ねて共寝します。そして夜明け前に帰ります。

 男性が三日続けて通ったら結婚成立。「三日夜の餅」と呼ばれる餅を食べ、夫婦となりました。結婚後も夫婦は一緒には暮らさず、夫が妻の家に通う「通い婚」のかたちが採られていました。夫は正式な妻のほかに恋人を持つことが制度的に許されていたからです。夫婦の家計は、基本的には妻側の家によって賄われていました。

 

 男は、女にもほかに男がいるのではないかと疑って、河内に行くふりをして植え込みに隠れて見ていると、女はきれいに化粧をして外を眺めて歌を詠みました。

     風吹けば沖つ白浪龍田山

      夜半にや君がひとり越ゆらむ

《風が吹くと沖の白浪が立つのと同じに、恐ろしい名前のたつた山です。あの人はこんな夜半に、 一人で越えて行かれるのでしょうか。どうぞご無事で。》

 それを聞いた男は女をかぎりなくいとしく思い、河内には行かなくなりました。

 

(2)  年上の女性が恋の手ほどき

 業平にとって最初の重要な女性は、「西の京の女」でしょう。年上で包容力のある西ノ京の女は、他に通っている男があるのに若い業平を受け入れ、おそらく寝所で男女のことも、いろいろと教えてくれたのでしょう。業平に、女についての手ほどきをしてくれた人がいたとすれば、この西の京の女だったと思います。

 業平はここから成長する中で、さまざまな女性と恋をし、ときに裏切られ、傷ついたりもしていくのですが、決して「ひどい目に遭った」という負の経験としてとらえてはいません。モテ男の余裕、というわけではありません。業平はどれほどつらい思いをしても、女への恨みというものをあまり持ちませんでした。つまり、業平は最後まで女を信じることができた人物であり、それが可能だったのは、若くして西の京の女に出逢ったからだと私は考えます。

 

(3)  簡潔な構成に見る物語の芽

 『伊勢物語』の章段の多くが簡潔で短いものというのが、『伊勢物語』の形式面における特徴です。状況を説明する地の文と和歌だけがあり、二人がどんなことを語り合ったか、心のうちで何を感じていたのかなどは書かれていません。このように内面描写がなく、また話も短く断ち切られているため、『伊勢物語』は全体を通して読んでもよく解らない、という声がたまに聞かれます。 …  『伊勢物語』が次の段階へと進んだのが長編物語『源氏物語』なのではないでしょうか。

 『伊勢物語』のあまりの簡潔さに戸惑うという人は、物語の芽(和歌)を起点に自分なりに想像力を働かせ、男女の心理を探ってみたり、どんな会話が交わされたのかを想像してみたりすると、この作品をより楽しむことができると思います。

 

(4)  受け身の恋

 業平は、情多きゆえにあちこちの沼に引き込まれていきます。

    いでて来しあとだにいまだかはらじを

     誰が通ひ路と今はなるらむ

《わたしがあなたの邸を出てきたのはつい数日前、まだ足跡さえ残っているのではないでしょうか。その足跡は、どなたの通う路と今はなっているのでしょう。》

 主導権を握る奔放な女に心をかき乱され、つい嫉妬の歌を詠んでしまったようです。

 

 また、女に翻弄されつつも根が誠実な業平は、何事も頼まれると断れない性格だったため、自髪交じりの女からの求愛についても情けをかけます。

    百年に一年たらぬつくも髪

     われを恋ふらしおもかげに見ゆ

《百より一を引けば白。白い髪の老女が、私を恋い慕っているらしい。面影となり、日の前にちらついておりますことで。さてはて。》

 この場面は、業平に典型的な「受け身の恋」のように感じられます。

 

(5)  頼まれて結婚、律儀ゆえの災難

 先の例は息子に頼まれて老女と逢った話でしたが、父親に頼まれて逢った娘と結婚にまで至る話もあります。その父親とは業平の友人である紀有常です。年上の友人である有常から「娘と結婚してほしい」との意を示されたことはありがたく、業平は家に通ったのですが、この女性はあまり業平の好みではなかったようで、結婚はしたものの仲睦まじい夫婦とはなりませんでした。

 

 また、律儀で誠実だった業平は、とんだ災難に巻き込まれることもありました。

 ある女が、ずっと業平に思いを寄せていました。しかし口に出すことはできず、病気になって死にそうになったときにはじめて「実は……」と言うのを親が聞きつけました。そのことを親から涙ながらに知らされた業平は、急いで娘のところに向かうものの、間に合わずに亡くなってしまいました。当時、死の穢れに触れた人は一定期間外出を慎むことが習わしで、業平は思いがけず女の家に閉じ込められることになります。

 

 以下は、後日、書きます。

(6)  運命の女① 藤原高子

(7)  露とこたへて消えなましものを

(8)  国母となった高子と歌人業平

(9)  運命の女② 恬子内親王

(10)恬子の覚悟とその後

(11)女の自我を描く

 

<出典>

髙木のぶ子(2020/11)、『伊勢物語』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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