2019年7月21日日曜日

(1671)  小松左京『小松左京スペシャル』(4-2) / 100分de名著

 
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第4回  22日放送/ 24日再放送

  タイトル: 宇宙にとって知性とは何か--『虚無回廊』
 
放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50
再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55
 及び        午後 00:00~00:25
 


【テキストの項目】

(1)   小松SFの「未完の集大成」
(2)   二度の中断と途絶
(3)  『虚無回廊』の物語構造
(4)  「実存」は実在するのか?
(5)  「一般自然言語」
(6)  “SS”の設定の原型
(7)   目的論と知性体原理
 


【展開】

(1)  小松SFの「未完の集大成」

 『虚無回廊』は、未完結ながらイマジネーションを極限近くまで伸張させ、壮大な宇宙進化史を仮構してみせた集大成的な作品です。
 「思考過程一般において、イメージやイマジネーションがまったく使われないということは――特にそれが、未知、未踏の領域にむかう創造的な思考の場合には――人間の意識の本質からいって、あり得ないことである」(小松)
 

(2)  二度の中断と途絶

 『虚無回廊』は、足掛け15年の歳月を費やして書き継がれます。その途中で執筆が2度中断しています。一度目は大阪『国際花と緑の博覧会』(花博)の総合プロデューサーの一人となったとき、二度目は連載媒体だった月刊誌『SFアドベンチャー』の季刊化と路線変更に伴うものでした。その後、阪神淡路大震災が起こり、最終行に「完」の文字を付さないままに、小松は鬼籍に入ってしまいました。
 

(3)  『虚無回廊』の物語構造

 物語の“骨格”の単純性とは裏腹に、いわば“肉置き(シシオキ)”の方は実に豊かです。“SS”やAEをはじめ、舞台や状況、登場するキャラクター、歴史的背景、理論的装置などの諸設定について詳細に証明される。極めて特殊で容易に想像できない事象も多く、丁寧な解説が施されています。
 

(4)  「実存」は実在するのか?

 チベット仏教ゲルク派の高僧タロ・ダキニ師との問答の後、遠藤秀夫(作中の人物。若き天才人工知能開発者)は「ひょつとすると、“実存”という考え方そのものが、根本的にまちがっているのかも知れない…」という疑を抱きます。
 なお、ゲルク派は、チベット仏教の大成者ツォンカパを開祖とする主流宗派で、中観哲学という洗練された「空の思想」を伝持しています。
 

(5)  「一般自然言語」

 太陽系外の天体から訪れた彼らとコミュニケーションを取る理論装置として導入されたのが「一般自然言語」でした。天才ミシェル・ジェランの音楽と言語、両方の才能が遺伝子コード読解の能力を開花させていきました。彼には「宇宙における普遍的な言語の存在」が、“見えた”のです。
 

(6)  “SS”の設定の原型

 私たちの属している「実宇宙」とは別に、「宇宙構造のごみ捨て場」のようなところから始まり、独自の進化を遂げた「虚宇宙」が存在します。その「虚宇宙」の内進化の成果の一つが“SS”だというのです。“SS”は二つの宇宙が“交通”するための「通路」のような構造体なのではないか…。
 なお、“SS(Super Structure)”は、地球から5.8光年の距離に突如出現した、長さ2光年、直径1.2光年という驚異的スケールの円筒形の物体のこと
 

(7)  目的論と知性体原理

 小松左京の進化観は非常に目的論的だと指摘されることがあります。進化論に留まらず、宇宙観、実存観全体が一種の目的論によって貫かれていることは疑い得ないでしょう。
 また、小松SFで知性体は人間に限定されていないので、「知性体原理」といった新語を立てるべきかもしれません。
 小松SFは「現代の神話」と位置付けられます。
 


<出典>
宮崎哲也(2019/7)、小松左京『小松左京スペシャル』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)

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