2018年6月8日金曜日

(1263) 「災厄は天罰か」「アンチ・ヒロイズム」 / アルベール・カミュ『ペスト』(2-1) / 100分de名著

 
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第2回  11日放送/ 13日再放送
  タイトル: 神なき世界で生きる
 


【第2回の目次】

(1)  災厄は天罰か…?
(2)  アンチ・ヒロイズム――できることをする
(3)  理念は人を殺す
(4)  ペストの第二段階――停滞の恐ろしさ
 


【展開】 今回の投稿は、(1)(2)
 
(1)  災厄は天罰か…?

 ペストという災厄に、パヌルー神父と[タル―青年とリウー医師]は異なる対応をした。①パヌルー神父は「災厄は天罰だ」と説教した。②タル―青年とリウー医師は「神なき世界での実践」を開始した。
 
   パヌルー神父は「災厄は天罰だ」と説教した
 パヌルー神父の「今日、ペストがあなたがたに関わるようになったのは、反省すべき時が来たということなのです。心正しい人は恐れることはありません。しかし悪しき人々は恐れおののく必要があるでしょう。…」という説教は、人々に「自分たちは何か知らない罪を犯したために有罪を宣告され、想像を絶した監禁状態に服従させられている」と感じさせた。
 何の理由もなく災厄を受けた人々が、それが自分に降りかかったことに必然性があったと思わされてしまう。そんな力をもつ言葉「天罰」の恐ろしさ、危険性を、カミュはちゃんと押さえている。
 
   タル―青年とリウー医師は「神なき世界での実践」を開始した
 タル―青年(数週間前にオランのホテルに居を定めた裕福で娯楽を愛好する青年)は、志願者による保健隊を結成するためにリウー医師と長い対話を行った。
 「なぜ、あなた自身はそんなに献身的になれるのですか、神を信じていないのに?」というタルーの質問に、リウーは「もし自分が全能の神を信じていたら、人々を治療するのをやめて、人間の面倒をすべて神に任せてしまうだろうから」といった。
 ここでリウーは、神ではなく人間の側に立つために、無神論を選択している。その意味では、「実存主義はヒューマニズムである」と宣言したサルトルの立場に近いといえる。
 


(2)  アンチ・ヒロイズム――できることをする

 『ペスト』は、アンチ・ヒロイズムの小説と言える。①献身的で美しい行為を実践したタルーを過剰に賛美することを警戒し、②グランというどこにも英雄的なところのない男を評価した
 
  献身的で美しい行為を実践したタルーを過剰に賛美することを警戒した
 タルーはさっそく翌日から仕事にとりかかり、有志を集めて保健隊を結成した。

===== 引用はじめ
 … たとえ善意から発しても、結果として悪に結びついてしまう行為はあるし、その逆もありえる。美徳も悪徳も、どちらも人間の無知から生じうることには変わりがないというのです。… 英雄主義に対する懐疑は随所で言及されています。かくして、この一節の結論として、
   可能な限りの洞察力がなければ、真の善良さも美しい愛もない。
と書かれています。 … タルーの尽力によって実現された保健隊の行動についても、まずは客観性をもって、明確に見ることを忘れてはならないということです。
===== 引用おわり


  グランというどこにも英雄的なところのない男を評価した
 グランは役所勤めの凡庸な人物であったが、志願して保健隊に加わった。

===== 引用はじめ
 このいかにもその辺にいそうな凡庸きわまる人物こそ、ただ自分にできることをするという「静かな美徳」を備えた、「とるに足らない地味な」ヒーローであったというのです。読者にとって、このヒーローが自分であってもおかしくないようなありふれた人物として造形されているところに共感が湧きます。
===== 引用おわり
 


<出典>
中条省平(2018/6)、アルベール・カミュ『ペスト』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)
この本から写真を転載。


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