2018年2月5日月曜日

(1139)  天才ユゴーの驚くべき「神話的小説」 /ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』 (1-1)


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Eテレ
第1回 2月5日放送/2月7日再放送
月曜日   午後 10:25~10:50

()水曜日 午前 05:30~05:55
      午後 00:00~00:25
 

【第1回 目次】

1. 不思議なプレリュード

2. 「成り上がり」の時代

3. ロマン派はロックンローラー

4. 神話的小説とは

5. 演劇的な「キャラ」たち

6. 「奇跡御殿」の人々

 

今回は、「神話的小説」について

(1) 『ノートル=ダム・ド・パリ』は、複数の作者の声によって語られている

(2)  複数の声は、集団的無意識の古層から現れてくる

(3)  ユゴーは、古層の声に耳を傾け、それを言葉として転写している

(4) 「おおまかなストーリー」はあるけれども、これといった定まったテクストがない

(5)  再話(リメイク)や編集(アレンジメント)に耐える

(6)  細部を変更してもよいが、おおもとのストーリーを変えてはいけな

(7)  細部のストーリーを変えてもよいが、基本的なキャラを変えてはいけない

 

【各論】

(1) 『ノートル=ダム・ド・パリ』は、複数の作者の声によって語られている
 ギリシャ神話や日本神話などと同じく、複数の(というよりも無数の)作者の声によって語られています。といっても、ユゴーの「ほかに」複数の語り手がいるという意味ではありません。ユゴーの「中に」複数の語り手が存在しているということなのです。
 

(2)  複数の声は、集団的無意識の古層から現れてくる
 父方からの共和主義的、平等主義的な声もあり、母方からの、王道派的で自主独立的な声もありますが、どちらも、集団的無意識の古層から発せられてくる声であることに変わりはありません。これらの声たちが、ユゴーの中に互いに相矛盾しながら共存しています。
 

(3)  ユゴーは、古層の声に耳を傾け、それを言葉として転写している
 本質的に霊媒体質であるユゴーは、ホメロスがギリシャの神々の声を聞くことができたように、自分の中に互いに相矛盾したままに存在しているフランスのさまざまな古層の声に耳を傾け、それを言葉として転写するという姿勢を見せているのです。
 

(4) 「おおまかなストーリー」はあるけれども、これといった定まったテクストがない
 神話というのは、ギリシャ神話にしろ日本神話(『古事記』)にしろ、だれもテクストを読んだことはなくても、その内容くらいは知っているものです。実は、これが神話の特徴なのです。つまり「おおまかなストーリー」はあるけれども、これといって定まったテクストがないということなのです。
 

(5)  再話(リメイク)や編集(アレンジメント)に耐える
 映画やミュージカル、アニメなどに翻案されて人気を博し、何度も繰り返しリメイクされています。『ノートル=ダム・ド・パリ』は再話(リメイク)や編集(アレンジメント)に耐えるという意味においても神話的と言うことができます。
 

(6)  細部を変更してもよいが、おおもとのストーリーを変えてはいけない
 新しく神話の創造に加わろうとする人が現れると、細部を変更してかまわない約束になっています。神話は歴代の書き手、語り手が自由に細部を付け加えた結果、さまざまなバリエーションをもつ物語に膨れ上がっていますが、おおもとのストーリーそのものは変わりません。
 

(7)  細部のストーリーを変えてもよいが、基本的なキャラを変えてはいけない
 基本的なキャラクター、つまりキャラを変えることは禁じられています。なぜなら、無数の作者・語り手が新しい要素を付け加えていくには「キャラ」の同一性が保たれていなくてはいけないからです。
 

出典
鹿島茂(2018/2)、ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)

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