2017年7月8日土曜日

(927) 認識をゆがめるもの / 『高慢と偏見』ジェイン・オースティン(2)


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(K0068) サードエイジ / 社会学から見た「少子高齢・人口減少社会」(2) <個人の発達>
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   『100分で名著』 7月10日() 22:25 22:50 Eテレ 放映
 

 主人公エリザベスの周りには、コリンズ、ウィッカム、ダーシーという三人の男性が登場する。エリザベスにとって、コリンズは恋愛の対象外、ウィッカムは適切な判断ができずに好きになった相手、ダーシーは偏見の目で見ることによって徹底的に嫌いになった男性である。結論から言うと、エリザベスはこのダーシーと結婚するのだから訳が分からない。そもそも、恋愛は訳が分からないということになる。しかし、この小説はその結婚の必然性を示している。キーワードは、エリザベスの「成上り」意識と男たちの会話力である。
 

エリザベスの「成上り」意識(P.33)

=====  引用はじめ
 では、「成上り」とは、どういう心理状態にある人なのでしょうか。成上りには、自分に対して根本的な自信があります。なぜなら、自信をたやさないことによって初めて、上昇するために不可欠の動力が働くからです。その一方で、自分がもって生まれたものは「低い」もしくは「足りない」という不変の意識があるため、自分で何とか開拓し、頑張って本来あるべき「高さ」に這い上がり、もつべきものをもって「充足」させなければならないと考えます。こうして「成上り」は、つねに上昇志向に突き動かされるのです。
===== おわり

 
 コリンズは、口は立つけれど、他人の気持ちが読めないという点で会話能力に致命的な傷をもっている。エリザベスはコリンズに自分と同じ「成上り」を感じるとともに、知的レベルの低さを感じ取った。知的レベルの高い「成上り」が何よりも嫌うのは、知的レベルの低い「成上り」である。

 
 ウィッカムは、コリンズより一段レベルが上で、見事な手並みで作り話をエリザベスに信じ込ませた。しかし、彼は会話を自分の策略の手段としてしか使わず、言葉で真実を伝え、他者と「対話」をしようという態度が欠落している。ウィッカムも明らかに「成上り」であり、エリザベスは一種の同胞意識のようなものを抱き、好意を抱いたのではないか。過度によく見るという認知の歪みがあり、偏見があったと言える。


 エリザベスに「成上り」が内在している一方、膨大な家伝の財産を持つダーシーは、「成上り」の対極にいる「本物」である。その本物から「踊りたいというほどの美人じゃないね」と言われ、またウィッカムから悪印象を与えられたため、エリザベスは攻撃性をもった「偏見」を示し、二人の出会いはひどい状態で始まった。しかし、ダーシーの会話能力は高く、エリザベスとダーシーは、物語のなかで知的な会話を幾度もかわす。要所要所で二人が交わす会話が、彼らの恋愛の段階的な発展を跡づけた。

 

出典:
廣野由美子、ジェイン・オースティン『高慢と偏見』~虚栄心は乗り越えられるか~、「100DEで名著」、NHKテキスト(2017/7)
添付:第2回人物相関図、舞踏会の出会い


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