2017年3月18日土曜日

(816)  理想と現実のはざまで / 宮沢賢治スペシャル(3-2)


「雨ニモマケズ」「毒もみの署長さん」「士神ときつね」「なめとこ山の熊」

~ 『100分で名著』 320() 22:25 22:50 Eテレ 放映 ~

 

前回からの続き。今回は、内容。

 
(1)     時を超える不思議な言葉~「雨ニモマケズ」( P.62 – P.63 , P.69 – P.70

(2)     世間で生きていくにはどのようにしなければならないか( P.68 – P.69

(3)     欲望を肯定する~「毒もみのすきな署長さん」( P.72

(4)     恐るべき嫉妬の力~「土神ときつね」( P.74 , P.76

(5)     働くことの美学~「なめとこ山の熊」( P.79 – P.80

 

前回取り上げた「心象スケッチ」は、自分の心を言葉でスケッチすることを通して自身と宇宙の一体感を表現しようとするもので、いわば現実を離れた世界にいた。
今回は、現実の中で生き、現実を直視しようとしている作品群である。

 
「雨ニモマケズ」では、現実の中でどう生きようかと模索している。「なめとこ山の熊」では、天職を通じて生き方を模索している。ここでは、熊までもが、具体的に何かは分からないが、天職に命を懸け、全うしようとしている。

 
現実に生きる人間たちの本質や、そのダークサイドを鋭く見つめた作品も残している。
「毒もみのすきな署長さん」は、人間のいかんともしがたい本質(欲望)を赤裸々に描いていて思わず笑ってしまうところもあるが、同じく人間の本質(嫉妬)を描いて笑えないのが「土神ときつね」である。

 

<各論>

(1)     時を超える不思議な言葉~「雨ニモマケズ」( P.62 – P.63 , P.69 – P.70

現実社会に生きることとはまったく別の時間軸で自分を掲げた賢治だが、一方で、まさに現実社会に生きる心得として読まれ、絶大な人気を誇る作品がある。それが「雨ニモマケズ」である。

 戦争に向かう時局と相まって、スローガンのように使われた。 … 戦中に大政翼賛会が発行する雑誌にまで掲載された。 … 戦前・戦中の価値観が否定された戦後の教科書に載って生き続けた。

 

(2)     世間で生きていくにはどのようにしなければならないか( P.68 – P.69

「雨ニモマケズ」;勝つのではなく負けない。負けない者こそが一番強い。勝ってしまえば、足を引っぱられる。

「アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニイレズニ」:個をあまり出さない。常に人の顔色をうかがい、世間の目を気にして生きていく。

「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」:私はそういうものだ、ではない。そうあるべきだ、でもない。そうなりたい、という願いである。現実にはそうなれない切ない思いが感じられる。

 

(3)     欲望を肯定する~「毒もみのすきな署長さん」( P.72

新しく赴任した警察署長が禁止された「毒もみ」で魚を捕り、裁判を受け、死刑となることが決まります。

いよいよ巨きな曲がった刀で、首を落とされるとき、署長さんは笑って云ひました。

「あゝ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは、地獄で毒もみをやるかな。」

みんなはすっかり感服しました。

 

(4)     恐るべき嫉妬の力~「土神ときつね」( P.74 , P.76

登場人物は、「奇麗な女の樺の木」「ぐちゃぐちゃの谷地の中に住んでいる土神」「野原の南の方からやって来る茶色の狐」。

この童話は、男女の三角関係を描いた大人のドラマとして読むことがでる。

人間とはいつか理性が壊れた状態になるもの、デモニッシュなものに豹変するものなのだ。 … 土『神』でも嫉妬に狂って理性を失うのだから、人間なら誰でもそうなって当然だ。

 
 
(5)     働くことの美学~「なめとこ山の熊」( P.79 – P.80

熊を仕留めた小十郎は言います。「… 仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめへも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ。」

熊たちにとって小十郎はいわば天敵でしたが、このように言う小十郎のことを実は熊たちも好きだったのです。

ある日小十郎は、撃とうとした熊に「少しし残した仕事もあるしたゞ二年だけ待ってくれ。」と懇願されました。熊にもまた、天から定められた仕事があったのです。… 切なる願いに小十郎は銃を下ろします。二年後、熊は約束を守り、小十郎の前に命を差し出します。そして小十郎もまた、狩りの最中に命を落とします。

 小十郎の最期の言葉は、「これが死んだしるしだ。死ぬときに見る火だ。熊ども、ゆるせよ。」でした。

 

引用:
山下聖美(2017/3)、『宮沢賢治スペシャル』、100de名著、NHKテキスト
写真:手帳に書かれた「雨ニモマケズ」

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