2017年1月21日土曜日

(760) 「悲しみ」と「さみしさ」をつむぐ / 中原中也詩集(3)


~ 『100分で名著』 123() 22:25 22:50 Eテレ 放映 ~

 
===== 引用 はじめ

「汚れつちまった悲しみに……」

 

汚れつちまつた悲しみに

今日も小雪の降りかかる

汚れつちまつた悲しみに

今日も風さへ吹きすぎる

 

汚れつちまつた悲しみは

たとへば狐の皮裘(かはごろも)

汚れつちまつた悲しみは

小雪のかかつてちぢこまる

 

汚れつちまつた悲しみは

なにのぞむなくねがふなく

汚れつちまつた悲しみは

倦怠のうちに死を夢む

 

汚れつちまつた悲しみに

いたいたしくも怖気づき

汚れつちまつた悲しみに

なすところなく日は暮れる・・・・・

===== 引用 おわり

『山羊の歌』より

 

 汚れてしまって思い出したくないもないような悲しみも、小雪が降りかかることで何か浄化されていくような感じを抱く。

この悲しみは中也の悲しみであろうか、いつの間にか、私の悲しみに置き換わっている。

===== 引用 はじめ  P.56
 そんな悲しみの上に、一面を白く包む小雪が降りかかっっている。そう思うと、冷たいはずの小雪がなぜか少し温かく感じられはしないでしょうか。絶望を歌いながらも心のどこかがポッと温かくなるような、ある種の救いが常にあります。そこが中也の詩の大きな魅力です。
===== 引用 おわり
 

「玩具の賦」
 
中也は詩を玩具に譬え、
それがいかにおもしろくて自分にとっって必要なものであるかを、
半ばあてこすりのように大岡昇平に対して訴えている。
 
「おまへはおもちやを知つてないから
おもちやでないことも分りはしない」
と無礼なことを言っている。
 
中也は親友昇平に皮肉を平気でぶつけ、
親友昇平はそれを受け容れる度量があった。
 
 
 
===== 引用 はじめ

「玩具の賦」 昇平に

 

どうともなれだ

俺には何がどうでも構はない

どうせスキだらけぢやないか

スキの方を減へらさうなんてチヤンチヤラ可笑をかしい

俺はスキの方なぞ減らさうとは思はぬ

スキでない所をいつそ放りつぱなしにしてゐる

それで何がわるからう

 

俺にはおもちやが要るんだ

おもちやで遊ばなくちやならないんだ

利得と幸福とは大体は混まざる

だが究極では混まざりはしない

俺は混まざらないとこばつかり感じてゐなけあならなくなつてるんだ

月給が増ふえるからといつておもちやが投げ出したくはないんだ

俺にはおもちやがよく分つてるんだ

おもちやのつまらないとこも

おもちやがつまらなくもそれを弄もてあそべることはつまらなくはないことも

俺にはおもちやが投げ出せないんだ

こつそり弄べもしないんだ

つまり余技ではないんだ

おれはおもちやで遊ぶぞ

おまへは月給で遊び給へだ

おもちやで俺が遊んでゐる時

あのおもちやは俺の月給の何分の一の値段だなぞと云ふはよいが

それでおれがおもちやで遊ぶことの値段まで決まつたつもりでゐるのは

滑稽こつけいだぞ

俺はおもちやで遊ぶぞ

一生懸命おもちやで遊ぶぞ

贅沢ぜいたくなぞとは云ひめさるなよ

おれ程おまへもおもちやが見えたら

おまへもおもちやで遊ぶに決つてゐるのだから

文句なぞを云ふなよ

それどころか

おまへはおもちやを知つてないから

おもちやでないことも分りはしない

おもちやでないことをただそらんじて

それで月給の種なんぞにしてやがるんだ

それゆゑもしも此の俺がおもちやも買へなくなつた時には

写字器械奴め!

云はずと知れたこと乍ながら

おまへが月給を取ることが贅沢だと云つてやるぞ

行つたり来たりしか出来ないくせに

行つても行つてもまだ行かうおもちや遊びに

何とか云へるがものはないぞ

おもちやが面白くもないくせに

おもちやを商ふことしか出来ないくせに

おもちやを面白い心があるから成立つてゐるくせに

おもちやで遊んでゐらあとは何事だ

おもちやで遊べることだけが美徳であるぞ

おもちやで遊べたら遊んでみてくれ

おまへに遊べる筈はないのだ

 

おまへにはおもちやがどんなに見えるか

おもちやとしか見えないだらう

俺にはあのおもちやこのおもちやと、おもちやおもちやで面白いんぞ

おれはおもちや以外のことは考へてみたこともないぞ

おれはおもちやが面白かつたんだ

しかしそれかと云つておまへにはおもちや以外の何か面白いことといふのがあるのか

ありさうな顔はしとらんぞ

あると思ふのはそれや間違ひだ

北叟笑にやあツとするのと面白いのとは違ふんぞ

 

ではおもちやを面白くしてくれなんぞと云ふんだろう

面白くなれあ儲かるんだといふんでな

では、ああ、それでは

やつぱり面白くはならない写字器械奴め!

――こんどは此のおもちやの此処ンところをかう改良なほして来い!

トツトといつて云つたやうにして来い!

===== 引用 おわり

 底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店

 
 
引用:

太田治子(2017/01)、『中原中也詩集』、100de名著、NHKテキスト

写真は、雪のイメージと、「玩具の賦」草稿(冒頭)

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