2016年12月11日日曜日

(718) 野生の知財と「ブリコラージュ」/レヴィス=トロース「野生の思考」(2-1)


~ 『100分で名著』 1212() 22:25 22:50 Eテレ 放映 ~

 (1)   感覚の縮減

 縮減とは、情報のある部分を消していって、大切な部分だけ取り出して、縮小した模型を作ることある。自然の認識情報が与えるカオスのような流れの中から、文化はある要素を取り出し、それを組み合わせることによって、実物の世界と同じぐらいの、ときにはそれをしのいでいると錯覚させるほどの細密さ、複雑さをもった像をつくり出す。
 

(2)   ブリコラージュ

ブリコラージュは「ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作る」ことにほかならない。先住民の思考は「記号」を用いており、記号には概念とちがってはじめから「ゆらぎ」や「ずれ」が含まれている。ブリコラージュ的才能をもった人々の手になる構築物は、まるで生命を持っているかのように見える。
 

(3)   呪術と科学

 記号を用いてブリコラージュをおこなうのは、呪術も同じである。占星術や錬金術のような呪術的思考は、科学と対立し合うものではなく、むしろその母体となったというのが、いまの科学史の考えである。

 天文学者ケプラーは有名な占星術師でもあり、占星術による思考方法と知識から法則の発見が導かれた。あのニュートンにしても、興味の対象は錬金術と占星術にあった。

 

<各論>

(1)   感覚の縮減

===== 引用 はじめ  P.38 - P.40

… 縮減とは、情報のある部分を消していって、大切な部分だけ取り出して、縮小した模型を作ることです。レヴィス=トロースは、「野生の思考」の初めの章で、十六世紀フランスの画家フランソワ・クルエの『エリザベート・ドートリッシュの肖像』*という絵の分析を例示し、「美術作品の大部分がまた縮減模型である」と述べています。

 この絵で最も驚かされるのが、レースの襟飾りの綿密な描写ではないでしょうか。実物の繊維はもっと複雑に入り組んでいますが、この絵のレース模様は縮減作用によってミニチュアサイズに縮められ、しかも実物に勝るほど細密だと思うような錯覚を、見る側に与えます。人間の認識は、たえまなく縮減をおこなっています。情報の縮減をおこないながら、実物の像を正確に再生することで、世界をとらえています。

 自然の認識情報が与えるカオスのような流れの中から、文化はある要素を取り出し、それを組み合わせることによって、実物の世界と同じぐらいの、ときにはそれをしのいでいると錯覚させるほどの細密さ、複雑さをもった像をつくり出します。クルエのこの絵などがその実例で、縮減をしながらサイズを縮めて、世界を把握しようとします。

===== 引用 おわり

* 写真参照(『エリザベート・ドートリッシュの肖像』)

 

(2)   ブリコラージュ

===== 引用 はじめ  P.42 – P.43

… レヴィス=トロースによれば、それ(ブリコラージュ)は「ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作る」ことにほかなりません。…

 科学的思考では、まず「概念」を組み立てるところからはじめます。概念は抽象的なもので、できるだけ具体的要素を取り除いて、ある特定の用途にぴったり合うように作り出された知的道具です。…

 それに対し、先住民の思考は「記号」を用いているとレヴィス=トロースはいいます。これは大変面白い言い方で、記号には概念とちがってはじめから「ゆらぎ」や「ずれ」が含まれています。 … すると「ありあわせの道具材料」を「記号」として用いるブリコラージュでは、「できあがったとき、計画は当初の意図(もとも単なる略図に過ぎないが)とは不可避的にずれる」ということになります。

 … ブリコラージュ的才能をもった人々の手になる構築物は、まるで生命を持っているかのように動くのです。 …

(脚注)シュヴァル:… 拾い集めた石を庭に積み上げ、三十三年をかけて不思議な宮殿「理想宮」*を完成させた

===== 引用 おわり

* 写真参照(「理想宮」)

 


(3)   呪術と科学

===== 引用 はじめ  P.46 – P.47

 記号を用いてブリコラージュをおこなうのは、呪術も同じです。呪術、神話、儀礼といった新石器時代に生み出されたものの多くは、おしなべてブリコラージュの仕組みでできています。別の時代に別のところで考え出されたものを、いま考えていることのために再利用するのです。 …


 占星術は、いかにも非科学的なものの典型とされて、それを打破して乗り越えることによって近代的な科学が生まれたといわれてきました。しかし、二十世紀の科学史の研究はそういう見解を打ち破りました。天文学者ケプラーは有名な占星術師でもあり、占星術による思考方法と知識から「惑星の公転周期の二乗は楕円軌道の長半径の三乗に比例する」という重要な法則の発見が導かれたことがわかっています。あのニュートンにしても『プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)』を書きあげたあとの興味の対象は錬金術と占星術にありました。実は、占星術や錬金術のような呪術的思考は、科学と対立し合うものではなく、むしろその母体となったというのが、いまの科学史の考えです。 …

===== 引用 おわり

 
引用:

中沢新一(2016/12)、レヴィス=トロース『野生の思考』、100de名著、NHKテキスト

写真:エリザベート・ドートリッシュの肖像、理想宮

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