2016年9月16日金曜日

(632) 居場所 / 「コンビニ人間」(4)


 第155回芥川賞受賞作『コンビニ人間』(村田紗耶香)を今回は、居場所という観点から読んでみる。

 87日に、第1回『居場所』サミットin神戸が開催された( 関連:8/10 (595) )。そこでは、居場所を次のように定義している。

 
『居場所』とは

人々が交流を目的として集まる場所で、
気兼ねなく自分を解放してくつろげる場所。

 じぶんが居ることを認められている場所。
   あるいは役割のある場所。

 
異存は無い。さらに、
私は、「居場所」を次のようにイメージしている。

(1)   居場所は、「くつろぎ」「安心」「救い」「楽しさ」「創造」等々、様々な可能性を秘めた場所である

(2)   それらは、居場所に行けば自動的に与えられるものではない。自分で勝ち取るものである

(3)   自分一人で勝ち取るのではない。他の参加者とともに創りあげ、勝ち取るものである。秘められた可能性を現実のものにするのは、我々である

(4)   「他の参加者」は、「私にとっての可能性」を実現する手助けをしてくれる人々である。ただし、それだけではない

(5)   「彼らにとっての可能性」を実現するために私が手助けをする、「他の参加者」はその対象でもある

(6)   「私にとっての可能性」と「彼らにとっての可能性」とは一致しているとは限らないし、そもそも固定せず変容していくものである。意識しないと捉えられない、意識してもなかなか捉えられない。常に問い続ける

 

前置きはこの程度にし、本題に移る。

 
この小説は、主人公(古倉)が居場所を求めて遍歴を重ねる物語でもある。

    幼稚園のころから大学に進学するまで、居場所はなかった、それでも安定した日々を送っていた

    大学一年生のとき、コンビニという居場所を見つけた。しかし、それは、社員でいる間であり、コンビニを離れると居場所はなかった

    白羽さんを「家で飼い、餌を与える」ようになった。「何故、結婚しないの」という問は止み、コンビニ外の生活の場が、居場所として改善された

    コンビニを辞め、就職活動を始めた。コンビニという居場所を失った。それに替わる居場所はなかった

    トイレに行っておこうかとコンビニに入った。そこは私の居場所だった

 

<詳細な説明>

    幼稚園のころから大学に進学するまで、居場所はなかった。それでも安定した日々を送っていた

「自分が何かを修正しなければならないのだな、と思ったのを覚えている」(P.412)。

家族は私を大切にし、愛してくれていた。
学校で友達はできなかったが、特に苛められるわけでもなかった。

 
    大学一年生のとき、コンビニという居場所を見つけた。しかし、それは、社員でいる間であり、コンビニを離れると居場所はなかった

 「朝になれば、また私は店員になり、世界の歯車になれる。そのことだけが、私を正常な人間にしているのだった」(P.417

 「気が付くと、小学校のあのときのように、皆、少し遠ざかりながら私に身体を背け、それでも目だけはどこか好奇心を交えながら不気味な生き物を見るように、こちらに向けられていた。あ、私、異物になっている。ぼんやりと私は思った」(P.445

 
    白羽さんを「家で飼い、餌を与える」ようになった。「何故、結婚しないの」という問は止み、コンビニ外の生活の場が、居場所として改善された

「結婚も就職もしていないなんて、社会にとって何の価値もない。そういう人間はね、ムラから排除されますよ」(P.456)という状況から脱却する。

「皆、初めて私が本当の「仲間」になったと言わんばかりだった」(P.459

 
    コンビニを辞め、就職活動を始めた。コンビニという居場所を失った。それに替わる居場所はなかった

コンビニを辞めてから、私は朝何時に起きればいいのかわからなくなり、眠くなったら眠り、起きたらご飯を食べる生活だった。白羽さんに命じられるままに履歴書を書く作業をする他には、何もしていなかった。何を基準に自分の身体を動かしていいのかわからなくなっていた」(P.475

「私はふと、コンビニという基準を失った今、動物としての合理性を基準に判断するのが正しいのではないか、と思いついた」(P.477

 
    トイレに行っておこうかとコンビニに入った。そこは私の居場所だった

「一緒には行けません。私はコンビニ店員という動物なんです。その本能を裏切ることはできません」(P.482

 「私はふと、さっき出てきたコンビニの窓ガラスに映る自分の姿を眺めた。この手も足も、コンビニのために存在していると思うと、ガラスの中の自分が、初めて、意味のある生き物に思えた」(P.482

 

引用  / 上記ページ数は、以下の本による
村田紗耶香、「コンビニ人間」、文芸春秋(第94巻 第13号)、2016/9

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