2021年9月30日木曜日

(2471) 『ヘミングウェイ スペシャル』(1-1) / 100分de名著

 【 読書 ・ 100de名著 】 文体にこだわりながらも、簡単で、誰でも読めるにもかかわらず、技術的にきわめて研ぎ澄まされていて、なおかつ内容が深い。そんな革新的な文章を生み出すことに成功したのがヘミングウェイなのです。


第1回  4日放送/ 6日再放送

  タイトル: 大いなる自然との対峙~『老人と海』①

 

【テキストの項目】

(1) アメリカ現代文学のバイオニア

(2) ヘミングウェイの戦争体験

(3) ヘミングウェイらしさの集大成『老人と海』

(4) 前半はカジキとの闘い

(5) 自然と結ぶ友愛

 

(6) 漁師の経験を読者にどう追体験させるか

(7) 大事なことは口にしない

(8) 対抗心から同情へ

(9) カジキとの一体化

(10)     エコロジカルなメッセージ

 

【展開】

(1) アメリカ現代文学のバイオニア

 アーネスト・ヘミングウェイ(18991961)は、アメリカ現代文学のパイオニアと呼べる作家です。ヘミングウェイ文学の特徴としてまずは、①文章が簡潔で語彙が少ない、②視覚の重視、③対話が少ない、などが挙げられます。

 ①は、単に言葉が平易というだけではなく、形容詞や副詞などの修飾語も極限まで省いてしまっています。また状況を丁寧に説明するようなことはしません。

 ②も非常に特徴的で、「いまこの瞬間」を視覚的に克明にとらえ、その描写の連続で世界をつくっていく。これはフイルムのコマの原理に似ています。

 ③そして、視覚が中心となる分、会話で物事が進んでいかない。

 

(2) ヘミングウェイの戦争体験

 ヘミングウェイは1899年、シカゴ近郊のオークパークという町で生まれました。1918年、赤十字の運転手を志願してイタリア戦線に赴きます。しかし、前線に到着後二週間余りで迫撃砲弾を受け、脚に重傷を負ってしまいます。すぐそばにいた兵士は死に、ヘミングウェイは負傷した同僚を背負って逃げたのですが、途中で膝を撃たれました。その後、病院に入院し、体に200個以上もあつた破片などの摘出手術を繰り返し受けることとなりました。

 この戦場での体験はヘミングウェイにとつて決定的なトラウマとなります。しかし彼は、その後も繰り返し戦場に向かいました。スペイン内戦には契約新聞記者として、第二次世界大戦には雑誌特派員として参加し、前線を取材しています。

 

(3) ヘミングウェイらしさの集大成『老人と海』

 『老人と海』はヘミングウェイの作家としてのキャリアの晩年に書かれた彼の代表作です。僕(=解説者)は、『老人と海』に描かれた自然との共存といったテーマが、今後ヘミングウェイを読んでいく上でより重要になると考えています。また、「簡潔な文体で深い世界観を描く」というヘミングウェイらしさが見事に表れている作品でもあります。

 「文章が簡潔で語彙が少ない」というヘミングウェイ文体は、主に二つの流れから生み出されました。一つは新聞記者としての経験、もう一つはモダニズム文学の影響です。

 ヘミングウェイは高校を出てすぐ、見習い新聞記者を(半年間)やっていました。また、第一次大戦後パリで暮らし、モダニズム文学の巨匠たちと親交を結んでいました。

 

(4) 前半はカジキとの闘い

 『老人と海』。前半は、老いた漁師が大きなカジキと闘ってそれを仕留めるまで。後半は、そのカジキを狙ってやってくるサメと老人との闘いです。後半の闘いでは、客観的に言って老人はボロ負けします。しかしこの後半の闘いが非常に重要なのです、まずは前半。

 キューバのハバナ近郊に暮らす老漁師サンチアゴは、84日間、一匹も魚が獲れない日々を過ごしていました。85日目の早朝、老人はいつものように少年マノーリンに見送られて小舟で海に漕ぎ出しました。 … 一匹のカジキが食いつきました。そこから、綱のあちらとこちらにつながれた、カジキと老人の一騎打ちが始まりました。 … そしてカジキが食いついてから三日日、とうとうカジキが前進をやめて旋回し始めました。格闘の末に横倒しになったカジキに、老人はついに、渾身の力を込めて銛を突き刺しました。

 

(5) 自然と結ぶ友愛

 老人は小舟に乗ってたった一人で海に出ています。客観的に見ると、老人はまったき孤独の中にいるように思えます。「孤高の老漁師」などと呼んでみたくもなりますが、物語を読んでみると、不思議と彼には一人ぼっちという感じがありません。それは、老人が自然に対して友愛の念を持っているからです。彼はとにかく自然に対して謙虚なのです。

 二日目にやってきたムシクイという小鳥は、かなり疲れた様子でした。

 『「なあ、チビ、たっぷり休んでいけ。それから陸のほうに飛んでいって、運試しをしてみろ。人間もそうするんだ。鳥や魚も同じこったろうが」しゃべっていると元気が出た。夜のあいだに背中が張って、かなり痛みだしていたのだ。』

 

 以下は、後に書きます。

(6) 漁師の経験を読者にどう追体験させるか

(7) 大事なことは口にしない

(8) 対抗心から同情へ

(9) カジキとの一体化

(10)     エコロジカルなメッセージ

 

<出典>

都甲幸治(2021/10)、『ヘミングウェイ スペシャル』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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